immortal, thou, my all

ひたり、
落ちる、あかくろい雫は、舌の上へ。
彼がここが私たちの天国だと言ったから、たとい宇宙をもう何巡したとしても、触れ合う指を離しはしない。

フランス窓を大きく開いて風を入れて、喜色を滲ませ、ほう、と一つ溜息をついたディオは、ベッドに腰掛ける私を振り向く。

「レイラ、見てみろ。今日は月が糸のようだ」
「そうだね。日本の本でも読んだ?」
「何故だ?」
「あのね、質問を質問で返さないで頂戴よ」

ディオは窓から見える月のように目を細めて、こちらへと戻ってくると、私の頬をさらさらと撫でる。春先の夜風のようにひやりとした、白い大きな手が私に触れるこの日々は、彼の優しさを感じ、この関係が互いにとって救いであることを認識させる。

「みかづきが糸のようにかすんでいる、って日本の詩人が書いているんだって。私、この前本を読んでいて見つけたんだけどね」
「ああ、あれのことか」
「なあに、やっぱり知っているの」
「それよりもお前がかわいくてそんなことなど考えていなかった」
「またそう言うこと言うのねえ、ディオ」

私がまだ続けて喋ろうとしたのを感じてか、彼は私の隣へ腰を下ろした。私は自分の冷たい手を、同じ温度の、ディオの大きな手に重ね合わせた。

「なんだ、レイラ」
「前のディオを知っている人が私たちのところに来たら、きっと引っくり返るわ。ジョセフとか、承太郎とか」
「はは、そうだな。だがジョナサンだけは<君が本当はいいやつだって僕は知っていたよ!>とでも、言ってきそうだが」
「あはは!そうかも」

私に釣られてディオも口元を緩めた。
月光に揺らめく波打つ柔らかな髪が、硝子玉のような瞳を隠すから、私はそっと払う。
ディオは擽ったげに首を少し傾げる。それから、私の手を引き寄せて甲に口付ける。

「レイラの笑顔を見るのが好きだな」
「ふふ。私もディオの緩み切ったその顔好きよ」
「緩み切ったとはなんだ、このディオに向かって」
「きゃあ、ディオ様がお怒りになられた!テレンスを呼ばなくっちゃあ」

なんて、冗談を言いながら私たちは声を上げて笑う。
こんなこと、今だから叶うことだ。

「ジョースターのことは、本当にもういいのね?」
「そりゃあ、な。天国を理解したから」
「私を巻き添いにしてね」
「すまない」
「思ってもいないくせに、言うもんじゃあないわ」

赤い瞳を、じい、と見つめると、腰を抱き寄せられる。
ディオと私、鼻の先がつく程に顔を傍へ近付け合い、視線を絡め合わせる。

「レイラ、俺の聖女」

密やかに祈りを捧げるように、吐く息を多く呟いた。
唇を重ね合わせ、互いの舌を少し噛み、命の葡萄酒を味わう。

天国への階段を手を取り登りきったその先には、ディオと私の楽園がある。
互いの不死と愛とを讃える、私たちの天国。