学校帰りの喫茶店は僕らの自習室のようなもの。机を挟んで向かい側、僕の教科書を見ながら問題集を解いているレイラ。期末考査はまだ随分と先だけれど、今回も僕を巻き込んでテスト勉強をする。
「ねぇ、これなんて書いてるの?」
レイラは僕が見ていた単語帳の上に教科書を乗せて、指で示す。薄い上に、小さく、さらには傾いて上下に動いているような線。
「え? うーん……何だろうなぁ」
書いた本人でも判読が難しくて、目を凝らして頭を傾げて色々試してみた。そんな僕の百面相をみて軽ろやかな声で笑うと教科書を手元に戻した。
「ありがとう。もしかして、寝てた?」
「ちょっとだけ居眠りしてた」
「花京院くんが授業中にって、珍しいね」
「ここ最近ゲームを夜中までしてたからかもしれない」
「あー、この前見に行ったやつね」
そう話しながら問題集にまたペンを走らせている。相槌を入れて僕は単語帳を閉じ、頼んでいたソーダを飲むとグラスの表面から落ちた水滴がカバーを濡らした。その時の、ぱた、という音と共に目を上げて僕を見てはレイラがまた微笑む。
実は居眠りをしていたなんてことはなくて、レイラに見蕩れていたからというのが正しい。斜め前で先生に隠れて本を読む横顔が真剣で、そちらへ目線がつられてしまったのだ。僕は真面目に先生が言ったことを書き込んでいたはずなのに、レイラの姿に気を取られてしまったから、手元が疎かになっていた。それがあの糸くずみたいなメモだ。
この授業は選択制で、僕らは自分たちのホームルームとは違う教室で受けている。席順は自由だが、レイラは僕の斜め前にいつも座る。どうして隣に来ないのかと聞いてみても、僕が隣に座ってもいいかと尋ねてみても、「ここでなくちゃだめだよ」と言って小さい子がいたずらをする時のように微笑む。
今も目の前でノートに書き込むふりをして、教科書の隅に何か落書きされていることにも、僕は気づいているが気付かないふりをしている。楽しそうにしている様子を見るのは僕も嬉しいから。
「花京院くん」
今度は別のページに何やら文字を書き込んでいる。
「何だい?」
「ハイエロファントがずっと左手に巻きついてるの、こそばゆいよ」
「あッ! ごめん!」
無意識に出ていた触脚を戻すと、にやりとした目線を送ってくる。その顔はどことなく得意げに見えた。
「いつもだよ」
「ほんとに?」
「花京院くんの隣に居ないといつもこう。それが好きなんだけどね」
スタンドは僕より正直だ。居ない所でもこの人の事を考えてしまう僕よりも、すぐそばにいるのにもっと近くで触れていたいという思いを形にする。ということは、僕が授業も他所に見蕩れていたことすらレイラは分かっていたのかもしれない。いたずら好きのこの人は僕に斜め後ろの席に座らせていた。
「全く、レイラは本当に僕を動かすのが上手いよ」
「飽きもせずに私を見る花京院くんが好きだから」
返してもらった教科書には、たくさんのチェリーが並んでいて、「心配しなくてもあなたのことしか考えてないよ」と丁寧な字で書かれていた。