We are not human being
されるがままに私は大きな建物に連行された。屋敷と表現するに相応しい物々しさで、外からの光が一切遮断されている。
黄色の幽霊が私を下ろして、男は暗がりへと呼掛けた。
「テレンス、客人だ」
「お帰りなさいませ、おや、お客様でいらっしゃいますか」
「ああ、そうだ。珍しいこともあるが、こいつも同種だ。食事をとるが……」
テレンスと呼ばれた男性は恭しく頭を下げて、道を開けた。
「承知致しました。掃除も終わっておりますので」
「すまないな。さあ来い、腹が減っているのであろう?」
よく分からないままに、私は男の後ろを着いて行った。
青白い光をゆらす蝋燭が薄暗い廊下を照らしていた。ゴシック小説に出てくる屋敷さながらの様相。
大きな扉の前で止まると、男はそのまま思いついたようにして私に振り向く。
「そうだ、名前を聞いていなかったな。私はDIO」
「え、っと……ノア、です」
とても簡素な自己紹介を互いにし終えると、その大きな扉を開いた。中には数人の若い、見目の良い女性たち。まさに食べ頃といった感じだ。
「ノア、どれでも好きなのを選ぶといい」
女性たちはDIOを見ると我先にと近いて、猫撫で声を出している。
「ねぇ、DIO様ぁ、今日は私がお相手いたします」
「あら、今日はあたしが」
「こんなやつより、私、DIOさまがいいですわ」
絵に書いたようなハーレム状態のDIOは、どうしたのだというふうに私に視線を寄越す。
DIOも喰種なのか判断しかねるが、食べ物として人間を提供するのには、私も興味を持ってしまった。
そして、私の腹の虫は盛大に鳴いてくれる。
DIOは笑って、女性の内から一人指さして言った。
「客人だからとて遠慮は要らぬ」
「じゃあ、お言葉に甘えて……いただきます」
私は本能に、食欲に従い、赫子を出した。
久しぶりの食事だ。骨まで堪能したい。
女達は悲鳴をあげているが、私の対象はもう既に息はなく、その腕に噛み付けば芳醇な香りが鼻腔を通り抜ける。本当に食べ頃だったようだ。
「人肉食か!愉快だな」
面白げにDIOがそう言うのが聞こえた。
私が主に食べるのは、腕、脚、首。胴は内蔵の味があまり得意ではないから残してしまったが、なかなか美味だった。
だがもう少し、エネルギーが欲しいものだ。そう思い、転がった頭と胴体だけの女をじっと見下ろすと、私の足元に伸びる影が、ずるり、と動く。
この影、私が仮面を被った姿の様に頭に角がある。何故、と自分の頭へ手を伸ばすが当然仮面など付けていない。
影は大きな口をあけた。
影に口があるなんてことは普通に考えるとおかしいのだが、そう表現する他ないのだ。
それはズルズルと私の残飯を口に取り込み、食らう。骨までも全て飲み込まれて消えた。
すると、どうだろうか。私の腹はみるみるうちに満たされた。影自身はまるで私の分身かのように空腹を満たしたのだ。
「ノア、君のスタンドは二つもあるのか?」
食事を終えたらしいDIOはいつの間にか私のすぐそばに立っており、興味深そうな視線を向けてくる。
「は?スタンド?」
「今の影とその羽だ」
「この羽は赫子です」
「カグネ」
「……喰種はご存じない?」
「グール?知らんな」
DIOは片眉を上げつつも、知識欲を抑えきれないといった様子が見て取れた。
「じゃあ、説明するので、私にもそのスタンドってやつを教えてください」
「ふむ、いいだろう!」
というわけで、部屋を移ったのだがこれまた随分と広いお屋敷だ。恐らくここは応接室といったところだろうか。先程のテレンスと言う人物は執事らしい。
「ノア様と仰いましたか。お飲み物は何かご要望はありますか」
「あ、ええと。珈琲を、お願いします」
「かしこまりました、DIO様はいつものでよろしいですね」
「ああ、頼む」
丁寧な素振りでテレンスは部屋を後にした。私は向かい合って、高級そうな真紅のカウチに凭れているDIOが見つめてくる。飢えから解放され判断力などが回復した私は、その人物が大変に綺麗な見目であることをしっかりと認識した。世に云う美丈夫。目の保養とはこういう人物を見た時にいうものだと、しげしげと見つめ返してしまう。
「さあ、まずはグールとやらについて話してくれないか」
愉快そうにその長い足を組み直してDIOは私に話を促した。
・・・
一通り、喰種についての説明を終え、私もスタンドについての説明を聞いた。
全く世の中には知らないものがたくさん存在しているのだなと感心せずにはいられなかった。
「珈琲だけなど難儀なものだ」
「ワインなんて以ての外ですよ」
「血液なら?」
「大丈夫です、もちろん」
「面白い」
そういったDIOはふと何かに気が付いたように、私の目をじいっとみて尋ねた。
「それで、ノア、君は日本から来たと言ったが、このエジプトに当てはあるのか」
言われてみれば一文無しで、スマホもなく、しかも殺され、死後よくわからないところに飛ばされて(というのが正しいのかわからないが)、ただ自分にあるといえば自慢の赫子と新しく身についた力のみ。
「ないのだろう」
「御察しの通り」
「ならここに住めばいい」
「ひぃぇ」
DIOの唐突な提案に喉から奇妙な声を出してしまった。彼はクックッと笑うと、グラスに残っている赤い液体を飲み干した。
「私も始終退屈しているんだ。エンヤ婆の相手も飽きるし、似たようなもの同士、語り合いたいと思っている。ここに居れば食料にも困らんぞ?どうだ」
「構わないんですか」
「構うも何も、私は新しい客人に興味があって、話し相手を求めている。君は衣食住を手に入れられる。互いに好都合とは思わないか」
どこか楽しげな口調でDIOが続けて言うので、私は甘言に乗ることにした。
「それなら……よろしくお願いします」
そして次の言葉にどこぞで見た映画を思い出すのであった。
「ああ、言い忘れていた、私は吸血鬼だから陽のあるうちは外へは出られんぞ」