Paradice or Pit?
私は死んだ。
そして、声が聞こえたから目を覚ました。
だが確かに、あの日本の硬いアスファルトの上で死んだのだ。
死後の世界があるとは思っていなかったが、記憶や感覚まで残ったままなのか。
サラサラと砂が頬に当たる。
寝転んでいるここは、砂漠だ。どうやら天国でも地獄でもなさそうだ。
「おなかすいたな」
何となしに呟いた。
そう、空腹感がある。
とりあえず立ち上がって周囲を見渡せば、辺り一面、砂しかない。他には四角錐の大きな……初めて見た。ピラミッドだ。
そして、死んだ時と同じように、空は真青で日は出ていない。
はたと気がついて、自分の身体をぺたぺたと触ってみる。傷はひとつもない。
「何この服…ほんとにエジプトの人みたいな……」
肌触りのよい丈の長い服が身体を覆っている。
気持ち良い風。
やはり腹が減って仕方が無い。
もしかしたら、また飛べるかもしれないと思えば、赫子はいとも簡単に両肩から伸びる。
なんて気持ち良いのだろう。これで近くのニンゲンでも探そう。
そう思い飛び上がろうとすれば、先程何も無かった筈なのに、目の前に男が立っていた。上から飛び降りてきたというか、そんな感覚だった。
金髪の西洋人らしき男。体格が良いが、血色は悪く青白い肌。
「お兄さんどうやってきたの?」
「君、矢が刺さったな」
私の質問には答えず、男は上流階級の気取ったような英語で話しかける。
矢、そんなものはどこに、と思えば足元にあった。見るからに古い。
刺さった感覚など全くなければ、目覚めてから今の瞬間まで、矢など気付かなかったのだから。
それよりも、食糧が向こうから来てくれるなんてとても幸運だ。
「ここやっぱり天国かな?ね、お兄さん、私〈悪魔〉って呼ばれてたけどさ、悪魔でも天国にいけるのねぇ」
そう言って赫子を蝙蝠の羽のごとく広げ、刃物のごとく尖った羽の先で男の心臓を真っ二つにしてやろうとした。
「それが君のスタンドか?だが無駄だ、私の世界には追い付けまい」
黄色く透けた機械の様な幽霊が、私の赫子を押さえつけた。スピードで私の赫子に追いつけるものなんてなかったのに。どうしてか、まるで予測できていたかのように的確に取り押さえられているのだ。
細胞を放出させるのをやめ、黄色い幽霊の腕から逃れる。急に距離を詰めた相手の首に手を伸ばす。冷たい。
「私、一週間以上なんにも食べてないのよ、腹減ってんの。お兄さん綺麗な見た目してるし、美味しそうじゃあないの……ちょっと痛いだけだからさあ」
「ほう。君も人間ではないのか?」
君も、と言う言葉に驚いた私は、この時初めて男と目をかち合わせた。
赤い虹彩に、金縛りにでもあったかのように、圧倒される。
「綺麗な目だ。先程の黒と赤の目と言い……色が変わるなんて、良いじゃあないか」
芸術品のように整った笑みを浮べた顔が私の目に映る。
「えっ……と、」
「矢が君を選んだ……君のことは少し気になるんだ。私の元へ来れば、食糧も分けてやれる。どうだ?もうすぐ夜明けも近い。私の館でゆっくり話でもしよう」
一方的にそう話を進められ、たじろぐ私の腕を黄色い幽霊が引っ張って易々と抱き上げる。
「うそ、え!?」
「無駄無駄。さっさと日が昇る前に館へ行くぞ」
逃れようとする私を愉快そうに見てくるこの男は、信じられないが私の知るニンゲンではなかったのだった。
だって、翼もないのに飛んでいる!