私達の日常「だった」
いつも通りの朝を今日も迎える。
「……んん」
目をこすり、サイドテーブルの上に置いておいたペットボトルを手に取り中の水をこくりと飲む。
スマホの充電コードを外して緊急の連絡などがないかチェック。
連絡に使うSNSを開いて友達に朝の挨拶などを送って、一息。
「んしょ」と言いつつ体を伸ばし、ハンガーから制服を取ってパパッと着替えた。
鞄の中身を確認し、リビングへ。
「…………」
数年は開いているのを見れていない開かずの扉の前を通り過ぎて誰もいないリビングでブロック型栄養食のフルーツ味を2本入りの一袋を食べる。アイスティーをガラスのコップに注いで飲み干し、洗面所で顔を洗い、歯を磨いたら化粧水つけてから、淡いブルベのピンク系アイシャドウを軽くつけてビューラーで睫毛をあげる。リップを塗って保湿したら準備できた。
届かない「いってきます」をまた呟いて、誰の返事もしない家の鍵を閉めて今日も私は学校へと向かった。
「ヒミちゃんおはよう」
「おはようなのです、弥刀ちゃん」
「あのね、今日放課後時間あったらこのカフェ行かない?」
「ありますよ、でも急ですね。今そのカフェ何かやってるのですか?」
外ハネの肩程までの金髪が揺れる。猛禽類のような金の瞳が此方を見やった。
「うん、柘榴フェアしててね。ヒミちゃん柘榴好きでしょう?」
「……! 本当ですか⁉ 行く!」
キラキラ光を反射する目が綺麗で可愛い。
ニコッと見本のように笑うのを少し残念に思いながらヒミちゃん───渡我被身子ちゃんを見つめた。
◇◇◇
『個性』、人口の約8割が持つ超能力のようなかつては異能と呼ばれた身体能力の一つ。基本齢4歳までに発現する。
私も一応持っている。別に何て事はない特徴という特徴もない個性、「|刃《やいば》」。モノを刃物や刃に変えて操ることが出来る個性。
所詮ヒーロー向きとも言われる個性だ。攻撃力が高く剣のようだからだろうか。
放課後、ヒミちゃんと柘榴フェアをしているカフェへと赴いた。若い子向けの愛らしい、けれどシックな店内。丸テーブルに二人で座って注文をして待つ。足をブラブラとさせている様は幼くてやっぱりヒミちゃんは可愛いなと再認識した。写メはサラッと撮ってヒミちゃんフォルダの中身はまた増えていく。本人にちゃんと撮影許可は取っている。抜かりない。
「お待たせしました、ご注文の柘榴セットです」
可愛いパフェとドリンク、そしてマカロンにクッキー。デフォルメされた蝙蝠のイラストが可愛らしい。
真っ赤っ赤なそれらを美味しそうにモグモグと幸せそうに食べるヒミちゃんを眺めながら私も食べ始めた。淡泊な仄かな甘味が口に広がり充たされた気持ちになる。爽やかで華やかな香りも相まって幸せの味がする。
「今日はここ連れてきてくれてありがとう弥刀ちゃん」
「ううん、喜んで貰えてなによりだよ」
「ふふ、赤くてカアイイですよね」
「うん」
ニパッとニッコリ笑うヒミちゃんは学校の時の笑顔と違って可愛い。素敵な笑顔、何でこれをヒミちゃんの両親や周りの人達は異常だ、怖いなどと言うのだろうか、こんなに可愛いのに、愛らしいのに。そう思う私が可笑しいのかな?なんて意味のないことを考える。
この超常世界ではある哲学的議論がある。
それは「個性に性格が引き寄せられるか性格が個性を創るのか」である。詳しくは調べてないのでよく知らないがようは「卵が先か鶏が先か」と同じような話だ。どちらが先かなんて誰にも判るわけがない、だって未だに『個性』だって何故発現するようになったのかすら判ってないのだ。ただ、個性はその『個性』を持つ人の人格に直結しているとは言われるが。
そういえば、異能解放戦線とかいう本があったな。何だっけ、限られた人にだけ自由──個性の自由行使の権利──を与えればその皺寄せは与えられない人に行く、だから全ての人間に異能──個性の自由行使を認めさせるべきだ、とかいう簡潔にまとめると自己責任で完結する社会構造にするべきだということ。解放せよ、とか小難しく書いてあって面倒だったけど。まぁ、そんな世界なら幸せなんだろう。こんなヒーロー飽和社会と名高い管理社会よりかは幾分も息がしやすいだろうな。
ヒーローが然程嫌いという訳でもない。
全く好きでもないが。だって救けてくれないから。でも人間だもんね、仕方無いかとも思える。彼らに私達の苦しみは関係ないから期待するのは無駄だもの。所詮他人でしかない。
|敵《ヴィラン》肯定派まではいかないが、信念ある敵が好きまではないが嫌いな訳でもない。信念があるというのは格好いいことだから。目的が、自分という軸がちゃんとしてはっきりとしている人は嫌いではない。あ、例外はあるよ。ヒミちゃんとか大切な人を害したり此方を軽く見る奴は嫌だ。嫌いだ。
私は私たるオリジンがある。
座右の銘とも言う。それは『可愛いは世界の真理である』だ。
年頃の女子らしいもの。
まあ、その詳細を知れば皆ダメなことだというけれど。昔、先生に否定されたし、クラスメイトのさちちゃんにも言われたからね。
何故か、それは「可愛い」ならば全てが許される、赦されるという意味だから。殺そうが奪おうが何をしようが良しとする考え。
先生には昔、とても叱られた。怒られた。でも変わりはしなかったのが私だ。
私とヒミちゃんは幼馴染みだ。だから、ヒミちゃんの本性は知っている。今は斎藤くんに恋してるのも。これは初恋か。
私はヒミちゃんが初恋なのかな?いや違うか、可愛いが好きなだけだから。
可愛いが好きなヒミちゃん。
血が好きなヒミちゃん。
ボロボロな人が好きなヒミちゃん。
好きな人と同じに成りたいヒミちゃん、だから最後は切り刻む。
自分の普通が欲しいヒミちゃんを、私を縛るこの社会は、酷く息苦しい。
あぁ、そうだ。前に毎晩見る素敵な夢のことを教えて貰ったなぁ、とても素敵で可愛いもの。
誰にも理解されないままなら、ヒミちゃんはどうなるかな?ねぇ、皆さん。敵を敵とするのは誰だろう。皆さんは知っていますか?
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