Alice in The hell


弾けてさよなら愛しい人


小鳥さんになりたい、チュンチュンピョンピョンカァイイの

ケイちゃんになりたい、ニコニコ笑顔が素敵なの

成りたい為りたい生りたい。それがヒミちゃんの始まり。人にモノに憧れた。
昔教えてくれた毎晩見る夢のこと。素敵で可愛い愛らしい夢。
赤いすずめが踊る夢。素敵な夢だねって笑ったの。

ヒミちゃんは中学卒業式の今日、斎藤くんの事を思いっきり切りつけた。廊下では斎藤くんの血で血溜まりが出来て傷口にヒミちゃんはストローを差して血を啜る。

「ヒミちゃん、吹っ切れた?」
「ちう…弥刀ちゃん…」
「おいし?」

そっと隣に座り彼女の頬を撫でる。
にこりと笑ってやると彼女は肩の力を抜いてくれた。
そして立ち上がり手を差し伸べた。

「彼の血、好きなだけ飲んだら一緒に行こう?大丈夫、私達なら何処にだって行けるよ。もっと可愛いもの、好きなものを増やしに行こう!」
「………!うん!!」

それに彼女はそっと、けれど強く手を握る。
ヒミちゃんが私の手を取った。ならば、私は彼女の味方であろう。
そして騒ぎを聞き付けたのか教師陣がやって来た。
生徒も集まり出してヒミちゃんを恐怖の眼差しで見ている。何が恐いのか判らない。ヒミちゃんはあなた達と同じなのに。「好き」を表現しているだけなのに。

「なっ…と、渡我さん!佳与さん!佳与さん、渡我さんを……と」

邪魔だ、先生方。


────バキバキバキバキバキバキ


ザクザクと廊下が刃に埋め尽くされていく。人を貫いて、血が吹き出て悲鳴が上がる。私達とあちら側を隔てるようにして刃の壁を築いた。
それは物理と化した彼らと私達の心の壁の具現化でもあった。


さぁ、素敵な逃避行の始まりだ。
これは私達が居場所を見つける先触れ前兆し。
どうぞご覧にいれてくださいな。



叶うかなんて知らないけど、叶えるために足掻く私達の夢を探す物語。





◇◇◇

ヒミちゃんと行くなら、もうタイムリミットだった。
もう■■ちゃんを縛るこの家は壊さなければいけなかった。

どうせ、高校生になるまでに選択しなければいけなかった。
大人は助けてはくれない。
先生もご近所さんも。
子供だから、なんだというけれど、その子供に選択を迫っているのは大人だった。
救いなんて存在しないし、手を伸ばす場所すらなくて。
ここは地獄だと思うけど、大衆が知ってもこれは娯楽に変えられるだけで救ってはくれないともう知っていた。
ならば選択を。この手を罪に染める覚悟を。

愛していたのだ。愛していたの。
大切で、狂おしいほど愛おしくて、己の凡てだった。

私のせいで傷つけられ、狂わされて壊された。
それでも尚、私を救おうと足掻いてくれた。
私を見捨てれば楽になれたくせに、茨の道を選んでくれた。
地獄の業火を身を挺して庇ってくれた。
私の。私の──

赤い血が流れていく。
醜悪で邪悪な|これ《両親》ですら、流れる血は赤なのだと知って、どうしようもないと思った。
昔考えていた皮を剥けば皆同じという言葉を思い出して、目を伏せた。

静かな家の中、自身の足音だけが響いて、反響して、どこか不気味で恐ろしさがある。
久しく開けていない扉のノブを手に掛けるとあっさりと開いて、あの人は分かっていたのかもなと自嘲した。

「──来たのね」
「うん。■■ちゃん。遅くなっちゃった。ごめんね」

そっと寝そべる彼の人のそばの椅子に座り、彼の人の手を握る。低すぎるような冷たい手を温めるように頬に当てた。

「私ね、ヒミちゃんと行くことにしたの」
「……」
「ごめんね、ごめんなさい。でもね、私も早めに行くから、」
「弥刀」
「!」

彼の人は笑っていた。優しい、あの頃の笑みだった。カサついてこけた頬に、どうしてか叫び出して嘆き泣きたくなった。

「■は怒ってないよ。憎んでないの。あなたは■のたからもの。だから、生きてほしい」
「……っ」
「大好きよ。■こそ、ごめんね」

乾燥で肌のめくれた手が柔く弥刀の頬を撫でた。

「愛してる、■■ちゃん、私の■■■■■、私の■■■■」
「■も、愛してるわ」

赤い花が咲いて、咲き乱れて彼の人は微笑んで目を閉じた。
彩り豊かな花々で囲ってそっと部屋を出る。小さく呟いたそれは誰に聞かれることもなく、空気に溶けた。

必要なものをリュックに詰めて彼女は家を出た。そして火を放ち立ち去る。
ウ〜ウ〜、カンカンと音が遠くで聞こえて流石に速いなぁと感心しつつ早足で合流場所に向かう。

家族を殺した。
けれど自分がなにか変わったかと言われるとわからなかった。










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