とある長い廊下に二人の男女の後ろ姿。一人は長い長いモカブラウンの髪を三編みにし、右側に流したカーキー色の外套を纏った青年。
もう一人は───
一対の翼を羽ばたかせながら猫耳のようなものがついた被り物をし、オパールグリーンのフワフワした髪を靡かせ、宙に浮く人ならざる所謂『天使』と呼ばれる姿の豊満な胸に褐色の肌をした美しい女性。その女性は前にいる青年に向けて秀麗な眉を寄せながら問いかける。
「なぁ〜アン、正気かよ〜。今日はフィオとフィアの初登校だぜ。見に行ってやるのが保護者の務めってやつだろ?精神飛ばして『外』で会談とか馬鹿げてるぜ!どんな奴がバディかさえ…」
舞い散る羽の中、アンと呼んだ青年の後ろ姿を見ながら不安そうに愚痴る。
すると、アンと呼ばれた青年は翼を持つ女性に向け、少し振り返りながら微笑んだ。
「大丈夫ですよ、きっと。もし不安なら、見てきてはどうですか?私はまだ時間がかかりますから」
それに女性は機嫌をよくし、翼を羽ばたかせながら口元に人差し指を添え、パッチリとしたミントブルーの目を輝かせながら、
「じゃあ、そーすっか!フィオとフィアのバディが残虐非道で冷酷無比な奴じゃありませんよーに!」
と言って羽ばたいた。
◆◇◆◇◆
場所は移り、首都エスポワールの街中。
そこは様々な店が立ち並び、沢山の人で賑わっている。
そこにターフェとフィオ、フィアはいた。
フィオとフィアはぱぁぁぁと表情を明るくしながら目を輝かせて街を見渡した。
「わぁ〜色んなお店がある…!色んな髪に目の色の人も…」
「本当ですね…!素敵なお店に、沢山の色々な色の方がいます…」
二人が言うようにあたりには、紅色、桃色、青色、黄色と様々な色で溢れかえっていた。
そんな二人にターフェは答える。
「イデアル王国は多民族国家だからね。まぁ、やっぱり一番は君達と同じ茶髪で緑目の『緑の民』が多いが…」
そんなターフェをフィアはちらりと見ながらも何かを口ごもる。そんなフィアにターフェは意識を向ける。
「(こいつ…何か勘づいてるのか…?)」
そんなフィア達をを余所に、フィオは疑問を辺りを見渡しながら言った。
「黒の髪の人はいないんだね…」
そんなフィオにターフェはあっと初対面時を思い出し、
「…あぁ、フィオは『英雄伝説』が好きだったね」
それにテンションをあげながらフィオは英雄伝説の本の挿し絵に描かれた青年の姿を思い浮かべながら答える。
「はい!あの悪の大魔導師ターフェアイトは世にも珍しい黒髪と夕闇の瞳の美青年だったと…。フィア、そうでしたよね?」
突然話題を振られてフィアは意識を戻されびくっと驚きながらもフィオに頷く。
「っ!…はい、濡羽色の美しい長髪に夕闇色の瞳と書いてありましたね…。ですが、『伝説』と呼ばれる黒の民がそういることはないかと、残念ですが…」
そう答えるフィアに頷きながらターフェも
「その通りだね。『伝説』と言われる黒の民がこんな街中にいたら大騒ぎさ」
二人にそう言われ、肩を落としながら
「そっか…。そう、ですよね…」
と残念そうにフィオは言う。
あっ、と思い出したかのようにターフェが続けていった。
「そういえば、天空の大魔導師ノヴァ・フォスフォールは青みがかった薄緑色の髪色だったそうじゃないか。まぁ、彼女も『伝説』だし、種族として定義されていないけれど…。そんな髪色の人もいないしね、所詮は『伝説』さ」
そういうと、フィオとフィアは少し顔色を悪くして、慌てたように誤魔化すように
「っ!そ、そうだね!ノヴァ様みたいな髪色の人なんているわけないよね…!」
「っ…!?そ、そうです、『伝説』ですもの、いるはずがありませんね…。」
と言い訳のように捲し上げた。
そんな怪しげなフィオとフィアをじっと見つめて、怪訝そうにしながらも、ターフェはフィオの顔を覗き込みながら話を変えるように疑問をぶつけた。
「─…気になっているんだが、君はどうして時々敬語になるんだい?フィアはずっと敬語だけれども…」
いきなり近距離で覗き込まれ、フィオはびくっと驚きながら
「えっ……!それはその……」
としどろもどりなりながら誤魔化そうと慌てる。そこにフィアが
「あっ、えっと、あの!りょ、両親が!両親が丁寧な言葉遣いで、私達もそれが移って……!同級生に壁を感じさせてしまうからとフィオはタメ口にするようにしているところなんです。私はもう癖で直せなさそうなので諦めているのですが……」
と助け船を出した。それに慌ててフィオは乗って、
「そ、そうなの!だから…えっと、」
そんな二人にニコッと人好きのする顔で笑いかけながら
「そうなんだ。…言いにくいならいいけれど…バディなんだからさ、何か事情があるなら…」
心配するように語りかけるそんなターフェに目を剃らしつつ、フィオは口ごもる。フィアはそんなフィオを心配そうに眺めていて、少し空気が重くなってしまった。
そんな三人の後ろの店からガラの悪そうな二人の男が退店する。そんな二人の一人が三人のうちの一人に目につけ驚いた。
そんなことは余所に、重くなった空気を打ち破るようにマスグラがにこやかに二人に話し掛けた。
「…ねぇねぇフィオ様とフィア様はマスターと同じ、Aクラスなのですか〜?」
それにぱっと俯いていた顔をあげ、フィオが答える。
「あ、う、うん!そう!フィアも一緒で…」
それに付随してフィアも少しほっとしながら
「あ、は、はい。私も同じくAクラスです。」
と答えた。
「へぇ、クラスが一緒になる人達でバディが出来るようになっているのかな?(隠し事か…無理やり調べることは出来るが、…今はまだ荒立てることではない)」
それに対し少し困り笑いをしながらフィオは
「それは…どうなのかな…」
とおずおずと答えた。
フィアは少し気まずそうに目を剃らした。
そんな二人にターフェは問いかける。
「Aクラスは分野別で1位でなくては入れないし、君達は─…」
「おい!」
ターフェが二人に問いかけている途中で大きな男の声が響いた。
「見つけたぞ!そこの金髪!さっきはよくもやってくれたな!」
「やったっスねアニキー!」
三人の後ろから、一人は大柄で茶髪の短髪、もう一人は小柄でターバンのようなもので頭部を巻いたいかにも悪党といった二人組がターフェに対し、指差しながら怒鳴り付けた。
フィオとフィアは不思議そうにしながらターフェに目を向け、
「「知り合い/ですか?」」
と問いかけた。ターフェは二人組に冷たい目を一瞬向けるも直ぐに逸らしてくるりと身を翻し、
「さぁ?行こう、きっと人違いだ」
とフィオとフィアの二人を促した。
そんなターフェにフィオとフィアは疑問を浮かべながらも着いていこうとする。
そんな中マスグラがこそりと道中の惨劇を思い浮かべながら話し掛ける。
「(マスター忘れました?ここにくる道中で襲ってきた何人かの内の奴らですよ)」
それに対し事も無げにターフェは答える
「(覚えているわけないだろう?そんな雑草)」
「(デスヨネー)」
マスグラはターフェの性格上予想していたように返答した。
そんな会話にフィオは気づいていないがフィアは何か言いたげにじっとターフェを見ていた。
さっきの二人組を完全にスルーしている三人。
そんな三人に痺れを切らしたアニキと呼ばれていた男はバッと改造銃を構え、
「無視すんじゃねぇー!!その『変装』解いてやるぜ!」
と言いながら攻撃を充填しだす。それを見てフィオははっとし、
「危ないターフェ!」
とターフェの前に出て庇おうとする。同時にフィアが顔を青くして、
「フィオ!!」
とターフェを庇うフィオを前からぎゅっと抱きしめフィオを守るように自身の身を盾にする。そんな二人に押され、驚き、ターフェは困惑したように声を荒らげた。
「!?おい!?」
刹那、
──ドッッ!
酷い爆発音とともに周囲を巻き込みながら攻撃が炸裂する。その攻撃は三人に直撃した。
周囲からは人々の悲鳴。
──シュウウゥゥ…
確実にくる痛みに堪えるため、ぎゅっと目を瞑ったフィオはなかなか痛みが来ないことと、抱き締める人肌の暖かさに目を開き、困惑した。
「あれ…?あってない…?ってフィア!怪我は…っ!?え?」
同じくフィアも困惑していた。
「……え?どう、して…攻撃は確かに……?はっ、フィオ!怪我は!?」
慌ててフィオの無事を確認するフィアにフィオは
「大丈夫、何ともないから…?」
と困惑しながらもフィアに落ち着くように言う。
それにフィアはほっとするも、はっと何かに気付いたように慌てて
「っ!そうです!ターフェ!ターフェは無事ですか!?」
そう言ってフィオの後ろを見るもいない。
そんな中、背後、二人の前からターフェの落ち着いた、だが、静かに怒りを含んだ声がする。
「─…おい、なぜ飛び出した」
それに二人はターフェに目を向け
「だって危なかっ…た…って…え…?」
「フィオとターフェが危ないと…思っ…て…?」
驚愕に目を捲る。
「「く、黒の…髪…!?」」
薄い金髪は艶やかな柔らかそうな黒い髪へ、魅力的な薄紅色の瞳は吸い込まれそうな夕闇色の瞳へ。
まさに、ターフェは『英雄伝説』の悪の大魔導師と同じ『黒の民』の姿をしていた。
そんなターフェは二人にズビシッと指差し、端正な顔を怒りに染めて怒鳴り付けた。
「力もないのに前に飛び出すんじゃない!!アホ馬鹿青茄子に雪だるま!!」
そんな罵声に二人は「(あおなすび?)」「(ゆぎだるま?)」と一瞬呆けるも直ぐに驚愕を顕にしながら言った。
「き、君/あ、貴方って黒の民/なのですか!?」
機嫌悪そうに端麗な顔を歪めながらターフェは「はぁ?」と問う。
そんなターフェにマスグラはあららと笑いながら
「マスター幻術が解けてますよ!魔力があんまり残ってないでーす!」
と愉しげに告げた。
それにターフェは
「んん?道中でやりすぎたか」
と余裕そうに言う。
そんなターフェを大柄な男はビシッと指差し、
「化けの皮がはがれたな!黒の民のクソガキ!」
と怒鳴り付ける。
周囲からは依然悲鳴が響き渡っている。
そんなのにはお構いなしに男は続ける。
「お前のせいで商売道具破壊されたんだ!絶対、金に変えてやる!黒の民逃がさん〜!」
「アニキの改造銃に当たったら痛いぜー!」
そんな男達を余所にターフェはフィオとフィアの二人を促しながらダッと走り出す。
「こっちだ」
フィオとフィアもそれに続くようにして走り出す。
「「わ、わかった/わかりました!」」
その後ろから「あ、おい待てこらー!」と男の怒声が響く。
勢いよく走りながらフィオはターフェに話し掛ける。
「た、助けてくれたんだよね。さっきの…防御魔法だったの?一瞬すぎてわからなかった…」
フィアは一人、さっきの『視た』魔法について考えていた
「(…あれはとても高度な、術式でした…ターフェって一体……?何を、隠しているのでしょう……)」
そんなフィアを余所にターフェはフィオの質問に答える。
「余裕がなかったからね……それよりこんなことに巻き込んでしまってすまない」
フィオはそれに対し少しさっきのことを疑問に思いながらも問いかけた。
「(さっきのターフェ…まるで別人のような剣幕だったけど…)彼らは一体?」
後ろからダダダダダと物凄い勢いで待てお宝ァァァァと叫びながらさっきの二人組が追いかけてくる。
それに対しターフェは事も無げに
「さぁ?人身売買でもはじめようって奴らじゃないかい?」
そういうので二人は驚愕した。
「「えぇ!?」」
そしてフィオの脳裏にフィオと同じベレー帽をかぶった長く太い三編みを右側でしている男性が何か言っている光景が浮かぶ。
「(そういえば…聞いたことがある。北の国では未だに人身売買が盛んで本物の黒の民がいたら…)ターフェは昔からそうやって追われてたの?」
そう聞くフィオに爽やかな笑みを向けながら
「ん?そうだな…仕方がないことさ。黒の民は希少価値だからね。今更気にしてもな」
と何でもないように答えるターフェ。
そんなターフェにフィオは脳裏にあの惨劇が甦る。
幼い自分と同じくらい幼いフィアが自身を庇うように立つ小さな背中。そして、此方に手を伸ばす黒いネイルと◆◆色の髪、赤いフードが特徴のにたりと嗤う男。その男の背後では炎がごうごうと燃え盛っている。
「─…仕方ない…
…ことない!!色々な人から狙われるのは誰だって怖いよ!待ちなさい!人身売買は犯罪です!貴方達も真面目に…」
そう言ってバっと身を翻してターフェを庇うように悪党達に向き直った。
そんなフィオを庇うようにフィアも考え事を中断して向かい立つ。
「ええ、同感です!人身売買など、そんな悪行見過ごせません!貴方方も真っ当な…」
そんな二人に愉しげなマスグラ。
「さすがフィオ様、フィア様〜♪」
ターフェはそんな二人に驚きながら
「おい!?おい、説教なんて…」
当たり前のように悪党二人組には二人の言葉は響かず、アニキの方はキィィィンと音をたてながらまた改造銃を構え、充填しだす。
「説教なんて無駄だぜ!どきなお嬢ちゃん!」
そして改造銃の容赦ない攻撃が三人へ向かいー
パァンッ
三人への攻撃は音を出して弾けた。
ターフェはそれをした者を見て目を見開いた。
そしてフィアもまた、その者がしたことに驚愕し、
「!!(まずいです、こんな人目の多いところで……!)」
と焦りだす。そんな二人に構わずその者は語り出す。
「やっぱりバディの君だけには、嘘はつきたくない」
碧玉のような色味の美しいパァァァと輝く可憐な花と草で装飾された先端には大きなキラキラと輝く翠色の水晶玉のような球体がついた綺麗で目を奪われるかのような美しい杖。
「私、入学試験も受けてないですし、『喋り方』も『名前』も…偽りなんです」
ベレー帽がとれ、バサリとベージュ色の長い髪が揺れる。右側は少し三編みをした髪型が特徴的だ。
男達はそんな彼女を見て
「ん?あの顔…?なぁんかどっかで…」
そして小柄な男は金づるリストを眺めて、
「あ、アニキ!あの子あれっス!この前裏で回ってきた…5年前、敗戦国アルカンジュから逃亡した姫君の一人…」
カツリ、カツリ。杖をついたそこからは草花がフワリと芽生えるそれは幻想的。
凛として杖を持って立つその少女はー
「フィロ・フィオール・フォスフォール姫殿下っすよ!」
そんな彼女を見てマスグラとターフェは
「あぁ〜だからフィオ様達ったら出身国の話のとき…」
「(…フィオがそうと言うことはフィアも…。しかし…今回もまた『訳あり』とは…前世も今世もつくづく不幸に見舞われる女達だ)」
そう思いながらにっと密かに嗤った。
「あの光り輝く杖が…手にしたものに絶大な力を与えると言う国宝の一つ『黙示録』ってわけか」
そんなアニキと呼ばれる男の言葉にもう一人の男は焦り
「えぇ!?アニキ大丈夫なんすか!?俺達ぼこぼこっすか!?」
と問いかける。
そんな二人組にバッと杖、『黙示録』を向けきっ、と視線を鋭くしながらフィオは言う。
「知っているなら早いですね、この場から引いていただきます!」
私がフィオを懐柔しなくてはならない理由が『これ』
やつの魂の具現化、『黙示録』
大柄な男はそんなフィオに向かい合いながら言う
「『それを得たものは世界を得る』なんて大袈裟な言い伝えがあるが…それは使い手が伴えばの話だ」
キィィィンと音をたてながらまた、男は改造銃を構えた。
それをターフェがフィオの持つ黙示録を掴んでそれを媒介にして魔法を使う。
「「!」」
「盾」
改造銃の攻撃はターフェが黙示録で防いだかと思われたが、
「そんな初級魔法じゃこの改造銃は防ぎきれねーぜ!」
そんな男の声と共に魔法が撃ち破られる。ターフェは「伏せろ!」と言ってフィアを腕の中に庇った。
だが、魔法が破られたその衝撃による爆風でフードが捲れ、フィアの顔が顕になる。
「ん〜?あ!アニキ!あの子も裏で回ってきた子っすよ!」
「あぁ、わかってる!髪色は違うがあれは変装。同じく敗戦国アルカンジュから逃亡した姫君のもう一人…英雄ノヴァ・フォスフォールと同じ髪色…オパールグリーンの髪色を持つ、第二王女、ソフィア・フィオール・フォスフォール姫殿下だ!」
「じゃああの杖はもう一つの国宝、『聖杯』っすね!」
そして私がフィアも懐柔しなければいけない理由ー
それがフィアの魂の具現化、『聖杯』
「走るぞ」
男達が改造銃を構えたのを見て、ターフェはそう言いフィオとフィアを引っ張って走り出した。
「……! ターフェ腕…!」
「きゃ!あ、あの…!」
男達は逃げる三人に
「あ!金づる〜!」
と言いながら追いかけ出す。
フィオとフィアは引っ張られるがままに走り出すがフィオとフィアはターフェが腕に傷をおっていることに気が付き、ターフェに一旦止まろうと声をかける。
「待ってくださいターフェ!!早く手当てを…」
「そ、そうです!私、回復魔法なら得意なので直ぐ出来ますから…!」
点々と血を流しながら二人の言葉を遮るようにターフェは問った。
「フィオ、君、杖が使えないのになんであんな無茶をした」
ハァハァと息をしながらフィオは驚愕を顕にしながらターフェに問った。
「どうして…そのことを…」
それに対しターフェは
「私もアルカンジュ出身だから知っているが、その杖達はすごい力を秘めてるんだろう?そんなすごい杖を君達がちゃんと使いこなしているなら、国が負けるわけないじゃないか。簡単な話さ。大方…その杖達を制御するために学園に来たってところかな?」
的を射たターフェの推理にフィオとフィアは顔色を暗くし、俯きながら是と答える。
「フィオはその杖を見せればビビって相手が逃げると思っていたのなら、君の頭はお花畑だな。ショートケーキより甘いお姫様だ」
散々なことを言うターフェにマスグラはケラケラ笑いながら
「(マスター、あんまり言うとまた嫌われますよ)」
「(おっと…、しかしだな…)」
ターフェの的を射た発言にフィオは俯きながら
「…ターフェの言うとおりです。私はフィアと違ってまだ回復魔法も使えない…私の甘さが君の怪我を招いてしまった…」
「そんな……っ!真っ先に動けた貴方が悪いわけがありません!動けなかった私の……私のせいなのです」
そう言うフィアにフィオは首を振りながら
「いいえ、発端は私が甘かったから…だけど今は…
ターフェは私達よりずっと賢い…君には何か考えがあるから余裕なのではないのですか?」
グッと強い眼差しでフィオはターフェを見つめる。それを見てフィアも同じくターフェを見つめた。
そして二人は言う。
「傷の償いはあとで必ずします!」
「ですから教えてください…!」
「「この窮地を脱する方法を!」」
そんな二人を見つめたターフェは目を見開き一瞬呆気にとられた。
「(こいつらはー…変わらないな)─…あるにはあるが従えるか?」
警報が鳴り響き、あちこちから怒声のような声がする
そんなターフェの問いかけにフィオとフィアは頷く。
「─…はい軍はすぐには動かないでしょうし、私にできることなら」
「私も同意します。できる限りの助力は惜しみません」
「(…本当は体術であんな小悪党を潰すことは容易いがそれでは怪我をした『意味』がない)」
ザッと音をたててターフェは立ち止まり、フィオの黙示録を掴んだ。
それにフィオとフィアはターフェが黙示録を触れることが出来ていることに再度驚いた。
そんな二人を余所にターフェは告げる。
「フィオ、君の杖を私に使わせてくれ」
それに少し顔を険しくしながらフィオは言う。
「し、しかしこの杖は人を選びます。契約呪文は知っていますが何が起こるか─…」
フィアも頷いて同意する。そんな二人にターフェは笑顔を向けて言った。
「大丈夫だ、信じてくれ君達のバディを」
そんなターフェを『視て』フィアは心の底から大丈夫だとターフェが確信していることに少し違和感を感じた。
一方フィオの脳裏には二人の男女の姿が浮かぶ。幼い自分が杖を持って、向かい合う男女は困ったように笑っている。
「(……彼なら…)…わかりました」
そんなフィオ達にターフェはにやっと嗤いこう思っていた。
「(ちょろ甘)」
「(ゲスー)」
「ですが危険だと思ったら杖から手を離して下さい!いいですね!」
念を押すフィオ。フィアもまた、
「本当にそうしてください!危ないと思ったらその直感に従ってくださいね!」
と念を押していった。
小悪党の子分が
「アニキ!こっちで話し声がするっす!」
そう言って悪党達が近づいてくる。
光が溢れる中でフィオは契約呪文を唱える。
「我が名において我が魂と契約を果たさん!応えて『黙示録』!」
フィオがそう言い切った瞬間光が溢れ出て辺りを眩く照らす。
近づいてきていた悪党も
「うわまぶし…」
と光に圧倒される。そして──
──パァン
「ってうわー!?」
悪党の親分の方が音と共に大きく弾かれた。
子分も驚いて叫ぶ。
「アニキー!?」
光が収まり、ユラユラと霧が晴れていく。
そこから大人の男性の声がする。
「なるほど…こうすれば一時的に力を取り戻すことが出来るのか…」
マスグラがきゃっきゃっとしながら
「キャーマスターかっこいい〜!」
と言っている。
フィオとフィアがその声の持ち主達に目を向けると、驚愕で目を捲る。
そこには少年ではなくなった一人の青年が立っていた。
艶やかなウェーブがかった黒髪は肩甲骨辺りまで伸び、中性的な可愛らしげだった顔は凛々しくより蠱惑的になり、大きな瞳は切れ長に、細身だった体は大人の男性らしく少し細めながらも逞しくなり服装も肩の露出した別の物へと変わっている。手に持つ黙示録は赤紫色と赤を基調とした物へと変化しており、彩る花は可憐なものから豪奢な薔薇へと変わっている。
妖艶でいて、絶世とも言える美青年がそこにはいた。
困惑しつつ、二人は少年の名で問う。
「「た、ターフェ/ですか?」」
そんな二人に笑顔を向けてターフェだったと思われる青年が応える。
「あぁ、そうさ。説明なら後で嫌というほどしてやる。だがその前にあいつらにお仕置きをしなくちゃなぁ」
「いちち〜!」
「アニキ〜!」
弾かれた痛みに悶える悪党たちにカツカツとヒールを鳴らしてターフェは近づいていく。そして、
「おい、雑草ども。一つ選ばせてやろう
火に炙られて焼死か
水に溺れて溺死か
電気による感電死か
地に埋もれて圧死するか
呪いによって衰弱死するか
空気を奪って窒息死するか
どれがいい?」
ゾッとするほど恐ろしい壮絶な笑顔でそう問いかけた。見下ろす目は酷く冷たく虫けらを見るようだ。
そんなターフェに悪党たちは冷や汗がぶわりと吹き出し悪寒が走る。
「な、なんかやべぇ、ズラかるぞ!」
「あ、あいあいさー!」
そう言いながらダッとターフェに背を向けて逃げ出した。
そんな悪党二人組に指を向けターフェはキィィィンと音をたてながら魔法を発動する。
「逃げていいとは言ってない」
──バチチッ
そんな音と共に酷い衝撃波が走る。
フィオとフィアの目の前を衝撃波が走っていきその爆風で服や髪がはためく。
フィオとフィアはそれを見て
「「(すごい、あの杖を使いこなしている…)だけど/ですが…」」
このままではいけない、死人が出る、彼は彼らを躊躇いなく殺してしまう。
そんなことが二人の脳裏に浮かんだ。
一方悪党たちは親分の方が子分を庇い
「お前先に逃げろ、死んじまう!後で追い付くからよ!」
そう言い聞かせる。
そんな悪党たちに無情にも歪んだ笑みを向けて
「じゃあ私が決めてやろう。爆発による爆死─」
「「ダメ!」」
フィオとフィアが叫んだ。
するとターフェの手から黙示録が消え、元の少年の姿に戻る。それに加えて光の輪がターフェを拘束した。
「なっ…何故消した…。それに拘束まで…」
驚愕で目を捲りながらフィオとフィアに対して振り返りながらターフェは問った。
それに少しあわあわとしつつも二人は
「そ、そこまでやらなくてもいいかなと思いまして…」
「あ、あのままじゃ死んでしまうのではと…それはあまりにやり過ぎではと、思いまして…」
と弱々しげに答えた。
それに対しターフェは怒りを顕にしながら
「何言っているんだ!ああいうの放っておくと後で」
「マスター」
ターフェの言葉を遮りながらマスグラは言った。
「あいつら逃げました」
ピューと悪党たちは
「あばよ〜金のなる三人〜!」
と小物めいたことを言いながら走り去っていった。
そんなわけでターフェは怒りを爆発させてフィオとフィアに
「あ〜〜!お前達のせいだお前達!お人好し馬鹿!後早くこの拘束を解け!!」
そんなターフェにたじたじになりながらも二人は言い返す。
「で、でもそんなに悪い人には見えなくて…」
「わっ、私もそう思いました…。あ、拘束はすぐ解きます…!すみません…」
そんな二人に笑顔でマスグラは便乗して
「ワタシもそう思いますフィオ様、フィア様!」
そんなマスグラに「肩を持つな!」と怒りをぶつけるターフェ。
圧のある黒く悪い笑みで圧を掛けながら
「…ああいうのは次の迷惑の種を撒くからな…馬鹿共。今後行動に気をつけろよ馬鹿共」
そんなターフェにフィオとフィアは
「「(こっちが素なんでしょうか…)」」
と心の中で思った。
呆けているフィオとフィアを余所にターフェは辺りを見回す。そして妙なことに気が付いた。
「─…それにしても…やけに静かじゃないか?」
それに二人も耳をすませ、
「そうですね…」
「本当ですね…あっ…」
とフィアは少し煮え切らない返事を返しつつも同意した。
空は夕焼け色に染まり、夕方となっていた。
三人がいるのは路地裏だが、それにしたって人がいない。暗くなってきたとはいえ表通りからの音すら聞こえてこないのは異常と言える。
何かに気付いたフィアを見逃すターフェではない。
「…フィア、どうかしたか?」
ビクッとそれに対し「…っいえ、その、何でもありません…」と言う。
これ以上追求しても無駄と思いターフェは元の疑問を口にした。
「まるで魔法で人除けされているようなー…」
バサッと翼の羽ばたく音がし、羽が舞い散る。
「さすがは元、『大厄災』悪の大魔導師だな」
怒りと警戒を顕にした声がその場に響く。
空に浮くその存在にフィオは驚き声を上げる
「え!?ど、どうしてここに!?」
そんなフィオとは対照的に、フィアは
「あぁ、やはりこの魔法は貴女でしたか…」
とその存在が来たことに安堵を見せる。
オパールグリーンのフワフワとしたボリュームある長い髪。端麗な顔立ち。豊満な胸に長い足。その体には白い体のラインが綺麗に出るノースリーブのワンピース。ゆるやかにエメラルドグリーンのゆったりした上着に半分腕を通し、ミントブルーの瞳のぱっちりした綺麗な瞳。その背中には白い『翼』を持った美しい女性が三人を宙から見下ろしていた。
女性はそんなフィオとフィアに
「よぉフィオ、フィア。いやぁ心配でね…勘があたって良かったぜ」
そう言う女性を見上げて忌々しげに女性の正体をターフェは口にした。
「熾天使…モンテ・ブラサイト…」
そんなターフェにフィオとフィアは驚き問いかけた。
「「え?ターフェどうして/何故彼女のことを知って…?」」
そんな二人の言葉を遮るようにモンテは静かに強く視線を鋭くさせターフェを睨み付けながら言う。
「そいつから離れなフィオ、フィア。姿は子供だが魔力の波長でわかるぞ
そいつは大厄災…あの悪の大魔導師『ターフェアイト』
その生まれ変わりだ」
その言葉にフィオとフィアは困惑を浮かべて疑問を口にする。
「え?ターフェが?あの悪の大魔導師の?生まれ変わりの術なんて聞いたことが…」
「…………生まれ変わりの術……ですか」
「…だからどうした?」
ターフェはフィオとフィアをその腕の中に抱き込んだ。そんなターフェに驚くフィオとフィア。
「「た、ターフェ?」」
そんな二人を余所にターフェは続けて言う。
「お前たちがフォリアの生まれ変わりであるこの青茄子とノヴァの生まれ変わりであるこの雪だるまを守っている可能性は考えてはいた」
そんなターフェの言葉にフィオとフィアは反応する。
「「私がフォリア様/ノヴァ様の生まれ変わり/ですか…?」」
「だから『保険』をかけたのさ」
モンテは顔を険しくしながら
「保険だと?まさか呪い…!?」
ビンゴだというように笑いながらターフェは続ける。
「そうさ!私を殺せばこいつらも死ぬ、命を共有させる“魔法契約”を結んだのさ。
今度は逃がさないぞ。──文字通り、最後までな!」
と言いながら、ニパッと年相応に、嗤った。
モンテは呆気にとられ、動揺する。
「命を共有させる魔法だと…」
そんなモンテにターフェは応える。
「英雄…善の大魔導師フォリアと天空の大魔導師ノヴァの母親であり熾天使のおまえにすぐ殺されないための保険としてね」
そんなターフェにフィアは握手したときのことを思い出し、顔を青くする。
「(…っ!あれは『視』間違いではなかったのですね…!あの時聞いていれば…)」
そんなフィアを余所にんん…?とモンテは欠点に気付き困惑する。
「…え、えぇ?そ、それお前に何か得があるのか…?確かに手出しはしにくいけどよ……い、いやそうじゃない呪いなんて解けばいい話だ!半殺しにして解除させる!!!」
そう言い戦闘態勢に入った。
そんな時、
「待ってくださいモンテ!彼は私達を二度も救ってくれた命の恩人であり
私達の大切なバディです!」
フィオはターフェの拘束からぷはーと息をしながら脱出し、グッと拳を握りしめながら力強く言った。
それに思考を飛ばしていたフィアも拘束から脱出し、同意する。
「は、はい!その通りです…!モンテさんの言う通り、呪いはかけられましたが大事なバディなのです!」
そんな二人にえぇぇぇぇぇ!とモンテは驚愕しながら
「バディ!?絶対、駄目だ!そいつお前らの魂を狙ってるんだぞ!」
と反対の意を示した。
パシッという音と共にフィオとフィアはターフェの手を取る。そして告げる。
「「望むところです!君/貴方がさっき言ったことが本当なら私達は逃げも隠れもしません/致しません。君/貴方が私達を助けた理由に裏があっても構いません。私がフォリア様/ノヴァ様の生まれ変わりであるなら、その名にかけて貴方を善き魔導師にしてみせます!
これは私達と君/貴方との人生をかけた魔法契約です!」」
強い決心をのせた眼差しで二人はターフェを真っ直ぐ見つめる。
そんな二人に一瞬眩しそうにし、すぐに笑顔でターフェは応える。
「…いいだろうフィオ、フィア。受けてたとう」
そんな三人にムッとしながら
「ちょっ、何勝手に」
「話は聞かせて貰いましたよ」
モンテの言葉を遮るようにポンッという音と共に突如煙幕が上がり、一人の青年がその中から現れながらそう言った。その容姿は深緑のベレー帽、カーキ色の外套はエメラルドグリーンの留め具で留められている。服は深緑色のコートで黒い靴を履いている。モカブラウンの長い髪は三編みにされ、足首ほどまである。優しげな顔立ち、そして瞳はエメラルドグリーン。
そんな彼は容姿に見合わぬ罵倒を口にする。
「やぁ、お久しぶりですね
──クソ外道魔導師ターフェアイト」
現れた青年にフィオとフィアは驚きながら疑問を口にする。
「「おじい様!?今日はお忙しいと…」」
現れた青年にげんなりとしながらターフェはその青年の名を口にする。
「アンブリコ・フォスフォール…本当にしぶとい老いぼれだな」
マスグラはそんな主に構わずお久しぶりです〜と笑っている。
ストーカーこわーいと手を口に当てながらアンブリコは
「おかげ様で…貴方こそまだ私の娘達に執着してるんですね」
と馬鹿にするような態度でそう言い、そんなアンブリコにモンテは呆れ顔を向けている。
そんなアンブリコにターフェは怒声をあげる。
「おまっ…そもそもだな!お前の娘達が私の力を奪って自害をしたせいで…
第一今はお前の娘じゃな…」
そんなターフェの言葉を遮りながら
「はーいはい、そういう話は場所を変えましょう」
といいパチンッと指を鳴らす。
すると、辺りは街からガラス張りの夕焼けが良く見える天井の大きな広間のような場所に移り変わった。
窓から見える景色からターフェは転移した場所に見当がついた。
「ここは…パナシェドール学園か」
そんなターフェににこーといい笑顔で
「ピンポーン!私は今ここの学園長なのですよ〜」
とアンブリコは言い渡す。そう、転移したこの大きな広間は学園長室だったのだ。
その言葉を聞きターフェはフィオとフィアのクラスを聞いた時のいまいちな反応に納得がいった。
「成程、フィオが入学試験ズルできたのはそういうわけか。まぁ、フィアも同じく受けてないんだろう?」
そんなターフェにフィオとフィアは気まずそうにし、
「ズルッて言われると…」
「えっあ、はい…受けておりません…。確かに卑怯、ですよね…」
ただ、ターフェは少し疑問に思ったことをアンブリコに問う。
「…青茄子は兎も角、雪だるまは魔法はある程度使えるだろう?それに、学力とかなら一位を取ることだって容易なはずだ。何故受けさせなかった?」
そんなターフェの質問にアンブリコは
「それについて理由としては安全の為です」
と応えた。それだけでターフェは納得がいった。
「…成程な」
呑気にそんな会話をしているアンブリコにモンテは怒りを爆発させながら
「おい、アンどーいうことだよ!こいつはアタシ達夫婦の最大怨敵というやつだぜ。まさか許したって訳じゃないよな!!」
そんな怒り心頭なモンテにアンブリコはのほほんとしている。
それを見てフィオとフィアは不安になり、
「「─…おじい様、その…」」
不安そうな二人にアンブリコは椅子に腰掛けながら優しげな声で応える。
「大丈夫ですよ、フィオ、フィア。貴方たちがバディ……3人ですからパーティですかね。ターフェとパーティであることは私が認めます」
そんなアンブリコにモンテは「はぁ!?」と怒りを募らせる。
フィオとフィアはぱぁぁと嬉しそうにし、マスグラはわーいと同じく喜んだ。
そんな中ターフェは「…」と黙ってアンブリコを見つめながら何かを考えているようである。
そんな四人に構わずアンブリコは続けて言う。
「ただし、私の『結界内』で悪さは許しません、即時にドッカーンです
勿論、二人に『結界外』で手を出そうとするならそれ相当の覚悟はしてください」
それを聞いてターフェはアンブリコの考えに見当がついた。
「…ふぅん、私をこの青茄子と雪だるまのボディガードにしようってわけか?その考えは概ね正しい、契約もある上にあいつらが死ねば『黙示録』と『聖杯』は手に入らないしな」
と言いながら笑う。その横ではゆっさゆっさとアンブリコを揺らしながらなんでーなんでーとモンテがごねている。それをものともせず、アンブリコは続けて言う。
「それに加えて今の貴方に全盛期ののうな力はなく私に逆らう術もない…でも、それだけじゃありませんよ
貴方は後悔している
貴方には彼女だけでしたから」
そんなアンブリコの言葉にターフェの脳裏にある光景が浮かびあがる。
血飛沫が舞う、その中で二人の女性が何かを呟く。そして────
あぁ、酷く嫌な思い出だ。
「─…ふん。後悔するのはどちらになるか、楽しみだな」
そう言いターフェはその場から去ろうとする。
そんなターフェをフィオとフィアが引き留めた。
「そうです!ターフェ!腕の怪我を手当てしなくては!」
「あ、そうでしたね…ターフェ、傷の手当てを…」
そんな二人にマスグラが
「大丈夫ですよフィオ様、フィア様〜この人、こんな怪我すぐに…」
と問題ないというがフィオとフィアはターフェの手を引き、
「バイキンが入ったら駄目なんですから!」
「そうです!消毒して治癒魔法で治しましょう?
私、回復魔法は得意なので任せてください!」
「おい、引っ張るな!」
「さっすがフィオ様フィア様〜」
そうして三人は学園長室を後にした。
そんな三人を止めようとしたモンテはアンブリコに制され、三人が出ていくのを見届けた。
三人が出ていくと、のほほんとしながらアンブリコは
「ふふ、さすが私の遠ーい孫達です」
と笑っている。そんなアンブリコにモンテは疑問をぶつける。
「アン…お前、全部こうなるように仕組んだのか?
何、考えてるかちゃんと説明してくれよな」
そんなモンテにアンブリコは
「もちろんですよモンテ。一言でいえば……
簡単な『世界平和』のお手伝いですよ」
◆
場所は移り保健室。
「おい、消毒液浸けすぎだ、染みる…!不器用め…」
「これくらい黒の民なら我慢してください!」
「フィオ、それは黒の民などは関係ないのでは…?あ、消毒が終わったなら治しますね…『癒し』」
フィアがそう唱えるとすっ…とターフェの傷が癒えていく。
フィアはほっと息をつきながら微笑み
「これで大丈夫ですね……今日はありがとうございました、ターフェ」
そんなフィアにフィオもニコッとしながら続く。
「ふふ、そうですね。本当に今日は助かりました。これからもよろしくお願いします、ターフェ」
そう言いながら二人は心の中で同じことを考える。
「「(…悪い人には見えないないけど/見えませんけれど、どうして悪の大魔導師になったんだろう/なったのでしょう…?)」」
そんな二人の様子に戸惑い、
────ばしっ
そんな音と共にフィアの手をターフェは振りほどく。そして
「…あぁよろしくな(相も変わらず馬鹿なやつら…話を聞いても警戒心0とは…うまく利用させて貰うか)」
そんなターフェの様子に気を悪くした様子もなくふわふわと笑いながら
「「ターフェって王様キャラが素なんですね!」」
とフィオとフィアは言った。
そんな二人の言葉にマスグラはキャハハハハと笑い、ターフェは
「何だ王様キャラって」
と青筋を浮かべた。
◆
夜の帳が降り、看板が光る。
場所はとある酒場。
ザワザワとした店内に男の声が響く。
「『黙示録』と『聖杯』の情報ならこれぐらいの金額払ってもらわなきゃなぁ」
「何ィ〜?そんな大金払えるかよ!」
───バンッ
そんな音と共に大量の札束がテーブルに叩き落とされる。
周囲はそれに唖然とし、札束の山を見つめる。
そんな周囲を冷めた目で少女は見つめ、札束の山を作り上げた少年が言う。
「──その情報、俺達だけに売ってくれ」
To be continued! 2024.03.09 <<■