4月に入り、少しだけ寒さが和らいでくるこの季節。窓の外から桜の花びらが風に踊らされてるのを背景に、生徒達がぞくぞくと登校してきている姿を教室の窓から静かに観察する

登校初日に遅れる訳にいかないからって少し早く着きすぎちゃったかな

前とは違う雰囲気の教室で違う席に座っている私は人間観察するために門の辺りにやっていた視線をクラス分け表が貼ってある掲示板へと移す。
教室からかなり遠いはずだけど掲示板前の騒がしさが伝わってきた気がした。

普段通りに登校していたら自分も今頃は掲示板の前にいる騒がしい生徒達にもみくちゃにされていただろう。早く登校して良かったと切実に思う。


ずっとぼーっとしていたのがいけなかったのか、不意に近くでガタッとした音に肩をびくつかせて音がした根源に顔を向ける


「ふふ、驚かせちゃったかな」

『ゆ、幸村くん』


そう、音の根源は幸村くん。我が校で知らない人はいないだろう彼は容姿端麗、頭脳明晰、運動神経抜群といった三拍子揃っている完璧な男の子。
テニス界での彼の異名は神の子らしく、その異名に違わぬ人だ。


「桜田さん、だっけ。これからよろしくね」

『こちらこそ、よろしくお願いしますっ』


緊張で最後の方は息が詰まってしまった、恥ずかしい。

何を隠そう、私は彼の事が好きだ。1年生の頃から。テニス姿はもちろんカッコイイ、でも花を愛でている姿を見てとても惹かれてしまったのだ。

そう言えば私、名乗ってないのになんで名前知ってたんだろう。あ、名札かな


「特に席の指定もないようだし、迷惑じゃなければ隣、良いかな」


そんな素敵な笑顔向けられながら言われたら誰も断れないよ、幸村くん。

こくこくと首だけ動かして意思表示すると嬉しそうにお礼を言って私の隣の席に落ち着く彼。

3年生で初めて一緒になれたって事実だけでも嬉しいのに隣の席となるとこれからの授業が集中していけるか不安だ。その前に心臓がもつのかな。


でも私はこの恋が報われない事を知っている。なぜなら…


「せーいちーーー!」

「おはよう、きらら。クラスはどうだった?」


なぜならそれは彼女がいるから。中1の冬頃から恋人関係になった2人は一瞬で立海の話題になった。

ちらりと2人を見やると楽しげに会話を繰り広げている。ふと彼女の登野城さんと目が合うと鋭い眼光で睨まれ、体が固まってしまった。恐らく牽制として、というのもあると思うけど単純に彼女は私の事が嫌いなのだ。

幸村くんには悪いけど私も登野城さんの事が苦手。1年生の頃、花壇の花を踏んで直そうとしない登野城さんに注意した事がある。私が注意した事で彼女のプライドを傷つけたのか、次の日から彼女のグループから陰湿ないじめを受け続けた。

そのいじめも彼女が幸村くんと付き合った途端パタリと止んだけど。


彼女が違うクラスで良かったけど、怒りを買わないように気をつけなければ。

あの時の恐怖心が蘇える。脳裏をよぎる過去の出来事に動悸するも、深呼吸で半ば無理やり落ち着かせる。


彼女の近くには居たくない、しかし同じクラスのはずの仲の良い友人もまだ着てないみたいだし。どうしようか考えた結果、本を読むことに決めた。


この1年、平和に過ごしていけたらいいな