「ではこれから委員の方針を簡単に説明しますのでお手元の__」

幸村くんと同じクラスになって数週間。放課後のこの時間は普通であれば部活動に専念しているはずだが、如何せん、今日はクラスで決めた委員会があり、それに出席している。因みに美化委員である。私はどの部にも所属していない身だしこの時間帯は大して痛手ではない。強いて言うなら昨日から我慢しているプリンを食べるのが遅れるくらいだ。

しかし真面目に話を聞きながらプリント用紙に目を通している幸村くん。委員会まで同じになってしまい、なんだか申し訳ない気持ちが湧いてくる。正直に言えば嬉しさの方が強いのかもしれない。

未だに見慣れない彼の綺麗な横顔。ふと目が合ってしまい、慌てて視線を用紙に戻す。やばい、今の感じ悪かったかな。目が合うだけでも私の心臓はうるさく鼓動して頬に熱が帯びる。誤魔化すように流れる髪を耳にかけて、今度こそ目の前の委員会に集中する事にした。



「当番は再来週からみたいだね」

『そうだね。幸村くんは朝練も放課後も忙しそうだし無理しないでね』

「ありがとう。でも俺はそんな薄情な人間じゃないよ。当番はちゃんと行くつもりだし、桜田さんだけに負担はかけさせない」


委員会が終わった後、二人で教室に戻り荷物を詰めながら軽く言葉を交わす。彼は花が好きみたいだし私の気遣いは少しお節介だったかもしれない。テニスで忙しいからこそ、好きな事で癒される事も重要だ。

そもそも彼は当番に行かないような無責任な男性ではない。それは数週間過ごしただけでもなんとなく伝わってくる。

変な事を言ってしまわないようにもう何も話さない方がいいのかも__


「でも気遣いは嬉しかった、ありがとう」


ほら、またそうやって私の心を簡単に奪っていく。こういう彼の優しさに女の子はみんな惹かれていくんだろう。それが彼の人気の理由の一つなのかもしれない。

彼の笑顔につられて私も頬が緩む。

さて、そろそろ彼も部活へ参加したいはずだし私もそろそろ帰ろう。


「幸む、」

「…せーいちーまだぁ?」

「さっき委員会が終わったところなんだ、すぐ行くよ」

「も〜早く精市のテニス見たい〜」

「じゃあ、行こうか」


私を遮って声を発したのはむすっとした顔でクラスに入ってきた登野城さん。幸村くんに声をかけるなり、腕に絡み付いて甘えた声で話している。そんな彼女に幸村くんは微笑みながら対応しているが、その様子に若干違和感を抱く。私にはその違和感が分かるはずもなかった、ただ漠然と抱いた違和感だった。

そのまま二人は私に背を向け歩きだしたが、幸村くんは顔だけを私に向けると、また明日ねと微笑みながら彼女と教室を出ていった。教室を出る間際、登野城さんが凄い剣幕で私を睨んでいたけど、少しの会話だけでもあんな敵意を向けてくるのは勘弁してほしい。こんな事彼女に言えるはずもないが。

はぁ、と一つため息をつき大して重くもない鞄を肩に下げる。これ以上考えても仕方ないし、冷蔵庫で私を待っているプリンの為に早く帰ろう。





おまけ

「まーたアイツきてんな」
「仕方ないじゃろ、あれでも一応幸村の彼女じゃ」
「部長、なんでアイツと付き合ってんスか?」
「んなもん俺らが知りてーよ」
「…部長が苦手そうなタイプなのに」
「参謀、まだ情報は掴めとらんのか」
「…何とも言えんな」