「結論から言うと、登野城さんから脅迫されたんだ」



机に両肘をつき、組んだ両手の上に自身の顎の乗せながら、眉間に皺を寄せる幸村にこれまでどれだけストレスを抱えていたのか柳は察する。しかしそれはあくまで柳の思考にすぎず、実際はどれだけのストレスを目の前の男が抱えていたのだと思うと柳は怒りで体が熱くなった。


学校生活上での幸村は誰にでも優しく儚い笑顔が特徴なのは周知の事実。しかし部活動中の幸村はそんな儚げな印象は抱かせなく、部員全員が認めるくらいの怖い男であるという事は柳が一番よく知っていた。それなのに脅迫されたと言う幸村に柳は眉をひそめる。



「お前なら脅迫などおそるるにたらぬだろう」


「脅迫の内容が俺に対してだった、ね」



幸村の言葉に柳の顔が一気に険しくなる。急速に整理されていく柳の頭の中である仮説がたった。しかしそれはあまりに残酷なことであり、柳は自分のそれが正しいのなら直ちに対処すべき事案であると悟った。



「…桜田に関する事か」


「ふふ、お前の頭の回転の速さにはいつも感服するよ」


「…なにを、言われた」



彼女の事を言えば、肯定も否定もせずただ微笑んで自分を褒めた幸村に、自分の仮説が一部当たった事に目を開き、幸村を見る。それに対し幸村は緊張気味に見てくる柳に再度微笑んだのち、困ったように眉を下げ、斜め下のを見る。



「彼女、桜田さんね、以前登野城さんからイジメを受けていたみたいなんだ」


「なるほど、それを材料にされお前と付き合う事でイジメをなくすといった所か」



柳に核心を突かれた幸村は先ほどの事もあり、大して驚く事はなく、静かに頷いた。この頭の良い男なら何か妙案があるかもしれない、それを期待しながら、下げていた目線を柳にもっていく。幸村が思っていた以上に柳は怒っているそれが雰囲気や表情で読み取れた。









「幸村くん、私と付き合ってください」


「気持ちは嬉しいけどごめん。好きな子がいるんだ」


「その子がだぁれ?教えてくれたら一生幸村くんに近づかないって約束する!」











「…あとは知っての通りだよ」


「卑劣なことを…」


「あの子を傷つけたくないんだ」


「しかし現に彼女は傷ついている」



彼女のためにした行為が実は彼女を苦しめている。彼女の態度が急に他所よそしくなった事や、登野城が幸村のクラスに行った時に彼女に視線で圧をかけていたこと。彼女は幸村に気づかれないようにやった事は幸村には全て分かっていた。ただ気づいてないフリをしていただけだ。

柳に改めて言われた幸村は酷く傷ついたように眉を下げ、ため息をはく。



「精市、この件は俺に任せてくれないだろうか」



力強く言い放った柳の言葉に怪訝そうに見やる幸村は、その真意を早く言えと目線で訴える。そんな幸村の様子に少し口角をあげた柳は、ノートを広げながら口を開く。



「その事件が1年生の頃だとしても恐らくデータは残っている」


「…どういうこと?」


「立海大附属には何年か前に夏に現れた下着ドロボーや定期的に現れる女性の物を盗む輩にてをこまねいていた。しかしそれはある物によって解決され、逮捕する事に成功した。それが何か分かるか?」


「………監視カメラ?」


「正確に言えば隠しカメラだ。あまり公にしてないそれは勿論、全生徒に伝えていない。ある教師が口を滑らせてな、その時は別の件について問いただしていたんだが、思わぬ収穫だったさ」



悪い笑みを浮かべる柳に、この男だけは敵に回したくないと思う幸村だったが、柳との一連のやり取りに何か気づいた幸村は、はっと表情を固め、そんな幸村の様子に柳は小さく頷く。



「お前は動きずらい立場にいる今、下手に動いてあいつに勘づかれたらお前の努力が水の泡だ」


「…じゃあ、」


「ああ、俺が動こう。あつの茶番に付き合っていられる程俺たちは暇ではない。そうだろう?」


「…恩に着るよ。でも大丈夫かい?」


「彼女たちの協力が必要になってくるが問題ないだろう。しかし彼女たちの協力を得るにはある男の協力も得たい。」



柳のシナリオが読めない幸村は彼がこれから何をしでかすか、分からないでいた。柳は何か心当たりがあるのか自信満々でひたすらノートに何やら書き込んでいた。そしてある男とは誰なのか、顎に手をやり、考えようとした刹那、柳はふ、と廊下の方を向き、仁王と呼ぶ。それに倣うように幸村も同じ方を向けば、観念したようにポケットに両手を突っ込んだ仁王が教室に入ってくるところだった。






おまけ


「何かあると思ったが、こういう事だったんか」
「仁王」
「プリ。参謀には敵わんぜよ」