「ここ、よかったよね」
特に見入っていたわけでもなさそうだったのに、テレビ画面に映し出された美味しそうなお店に彼が反応したのが驚いて、僕は思わず振り返る。
「この店、前に行ったよね?」
美味しそうなサムギョプサルが食べられるお店。
場所も店名も、店内も料理もすべてうつされていたけれど僕はすべて初めて目にするものだった。
「僕は行ったことないよ」
「あれ?うそ」
「ほんと」
「…ぇーー…そー、だった?」
ジョンハニヒョンは行ったことがある様子だった。
しかも僕と行ったと勘違いをしている。
現在の恋人と行ったと勘違いをするような相手は、過去の恋人しかいないと思った。
少なくとも、ただの友達とかただの知り合いと行ったんじゃないんだって。
そう思って悲しくなった。
「…あれぇ。シュアだったかな、クプスか…」
珍しく焦って泳ぐ瞳がより僕を傷つける。
僕にとってジョンハニヒョンが初めての人でも、彼にとって僕はそうじゃないのかもしれない。
どんなに頑張っても過去は変えられないから、今こうして悔やむのも無意味なことなのかもしれないけれど
それでも悔しいと思う。
全部僕が一番になりたかった。
彼のすべての、一番に。
「なにか、のみますか?」
「…あ、ぁ…うん」
僕は立ち上がってキッチンの方へ向かった。
マグカップを二つ取り出し無表情でケトルに水を入れる。
少し考えていた
考えても仕方ないことを考えていた…
ハニヒョンの過去を
知りたくない。知りたい。知りたくない…知りたい…
どんな人と付き合ったりした?
僕はいったい、何代目の恋人なんだろう?とか
聞いたって絶対にいい気分にはならないようなことを聞きたいと思ってしまう。
「ありがとう」
「…」
「…ジュナ、ごめんね」
「怒ってないよ」
「…」
「怒ってない」
「…でも傷付けたな?」
そんな顔をさせたいわけじゃないのに.
怒ってない…怒ってるんじゃないんだ…ただ、僕の知らないジョンハニヒョンがいるのが嫌で…
貴方のことは全部知っていたいのに叶わないことが悔しくて悲しいんだ…
生まれた瞬間から
ずっと一緒だったら
彼の初めても僕の初めても、すべてを共有できたのに
「女のひとですか?」
「え?」
「せめて、…女のひとだったらいいなと思って」
「よくないだろ」
「…よくないけど男って言われる方がやだよ、僕は」
「どんな答え方してもお前は嫌な気持ちになるよ」
「…わかってる…けど」
「ごめんな、おれが悪かった」
「…」
「でもね、本当深い意味で言ったんじゃないの…本当にメンバーの誰かと行ったんだよ、この店」
だけど
嫌な気持ちになったよな、と
彼は3回目の"ごめん"を言って頭を下げた。
僕は自分が情けなくなってきて、慌てて彼のところまで駆け寄り抱きついた。
「…ごめんねいっぱい言わせてごめんなさい…」
「いやおれが悪かったよ」
「……ヒョンと一緒に生まれてきたかった」
「一緒に?」
「生まれた時からずっと一緒だったら、ジョンハニヒョンの全部僕が一番に知れたでしょ?」
「今だってそうだろ?おれ初めてだよ、こんなに本気で恋愛してるの」
その言葉に僕の心はどれだけ喜んだだろう。
嬉しくて…嘘みたいに嬉しくて…
彼の身体が壊れてしまうくらい力強く抱き締めると、「ぎゃっ」と小さな呻き声が聞こえた。
「強いの…っ、力が」
「好き、好き、好き」
「うん。同じくらいおれも好き」
「本当に!?」
「こんなおれ誰も見たことないよ。だからジュニが一番目」
「僕が一番!」
「そう」
「僕が、一番!!」
「そうだよ」
ぎゅうぅっと抱き寄せた顔にキスをすると、勢いがつきすぎて鼻にゴツンと当たってしまった。
ハニヒョンの嫌がる声は鼓膜の遠くに聞こえていたけれど僕は構わず跨がり口付けを続けた。
そうか
こんなジョンハニヒョンを見ることができたのは僕が初めてなのか
僕ってすごく凄い。
「おれもお前の一番もらいたい」
「僕のぜんぶを知ってるのはハニヒョンだけだよ」
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