彼の事は
頼れるリーダーであり、なんでも話せる友人であり、大切な家族だと、そう思っていて
それ以上でも、それ以下でもなかったから、だから。
だから俺は今とても驚いて
見開いた目をどうやって閉じようか、まばたきの仕方も忘れてしまうくらい動揺をしている。
だってなんか
クプスが突拍子もなく
「……なんて言ったの?」
「俺、お前のこと好きだ」
好きだとか、言ったりするから。
なんの変哲もないいつもの朝。
眩しいくらいに降り注ぐ日光と目が合って俺は目を背けた。
顔を洗って歯を磨いて、タオルで顔をおさえて廊下に出ると同じく寝巻きのクプスと鉢合わせた。
今日は寝ぼけている様子ではなく、かなり前から起きていたようで、俺はいつものように「おはよう」と声をかけたんだけど。
「…おはよう、ございます」
「……」
「……」
「え?なになに?」
顔を拭いていたタオルを退けて彼を見つめると、彼はうなじに手をやって「あー…えぇー…っとー…」と、唸っている。
言いたい事があるのだろう。そしてそれは言いにくい事なのだろう、とすぐに分かったから、俺はそれ以上何も言わずに ただ彼が続きを話すのを待ってみた。
すると縮こまっていた口が薄く開きかけ、逸らされていた視線が俺の方へと向けられる。
その緊張感の張り詰めた視線がいつものとは違って
何故かこちらまでドキリ、と心臓が跳ねた。
「…シュア」
「う、うん…」
「おれ、」
「うん…」
「お前のこと、好きなのかも」
「………」
「…」
「…………ハ?」
告白の返事としては最低の反応だったと思う。
だけどこの反応は間違ってないとも思う。今の俺にはこの一文字以外の返しを落ち着いて出来る余裕は持ち合わせてなかった。
だけど何か言わないと進まないこの状況にアタフタし始め、でもそれはクプスの方がそうだろうから
俺は極力アタフタを隠して自分を落ち着かせ、深呼吸をして口を開いた。
「……なんて言ったの?」
「俺、お前のこと好きだ」
…うぅわ、言った。言い切ったよこの人
「好きかも」って言ってたのにさっきの今で確信に変わったらしい。
心配したけど実は俺より落ち着いてんのかもしれない……ていうか逆にそんな深く考えて発した言葉じゃないのかも?
だとすれば深い意味で捉えた自分が途端に恥ずかしくなってくる。
いや深い意味ってなに、どう捉えてるの、そんなわけないよなそりゃあ。
好きって、いろんな意味で使われるもんね。
彼の言う好きに含まれた意味は、「like」や「favorite」のようなもので
けして、「love」とかそういうあれじゃ、
「付き合って欲しい」
そういうあれじゃ…
「俺の恋人になって欲しい」
「……ぁ……ぇー……ん…?」
自分の唇の端がピクピク痙攣してる…
ぱしぱしとまばたきをして、痙攣を続ける乾いた唇を噛んだ。
さすがだなぁと感心もした。
こんなこと誰が相手だって緊張して震えて勇気がいることなのに、こんなにもハッキリと言葉として伝えられる彼に。
そういうところは統括リーダーとしての彼の兄さん的なカッコ良さはさすがだと思ったし、頼りになる面を再確認する。
ましてや相手は男なのだ。
普通の告白じゃない。普通というのはつまり、男性が好意を寄せる女性に対しての告白のことだから今のこれは普通じゃない。
俺が男だってことは随分前から彼も知っているはずなんだけど
それでも彼の瞳からはなんの迷いも伝わってこなかった。
「……クプス、」
「うん」
「……俺もクプスのこと愛してるよ、みんなのことを愛してる」
「…うん」
「…だって家族でしょ?俺たち」
「うん…。そうだよなぁ…」
「……」
俯いた彼の表情を覗くように顔を下げて、じぃ…っと見上げると、彼は細くて長い溜息を吐いて俺の肩に手を置いた。
ごめん、と謝られた後にポンポンと二度肩を叩かれる。近くにある瞳は赤く潤んでいるように見えて、俺は戸惑った。
彼が
本気で言ったんだって思うと
とてもこのままで終わるわけにはいかない。ごめんと言われて、ううんじゃあ朝ご飯食べに行こう、なんて平気な顔は出来ない。
かといって気持ちに応えられるのか?と聞かれればそれは"No"だ。
彼と俺は互いに互いのことが"好き"だけど、同じなんだけど、違う、というのを彼の赤くなった瞳を見て確信したから。
だから俺は余計に困った。
適当は通用しないし平気な顔なんて出来ない。
「ごめん、忘れて!!」
「いや無理だよね普通に」
肩に置かれていた手が離れていきそうになったのを俺は咄嗟に掴んだ。
「…やー、違うんだよ…言うつもりはなかったんだけどね…苦しくて、さ」
「…ごめんね、俺も訳が分かってないんだけど…ストレートに聞いてもいいかな」
「…おー」
「付き合ってってことは、そういう目で見てるってこと?」
「ストレートに返事させてもらうな」
「俺のこと。」
「そうです」
「ワァーーーォ」
「…ヤバイよなぁぁーーー」
「Oh …my god…」
ああぁ…と唸りながら彼は俺の胸に寄っかかるように身体を預けてきた。
当たり前のようにしていたコミュニケーションもなんだか心臓がこそばゆい。ドキドキしてる。
クプスの顔が俺の胸に預けられて、クプスの手が俺の肩に乗っかってて、クプスの膝が俺の太腿の辺に、
「……っっ…」
全身の血液が頭のてっぺんまで昇る。
自分の顔も耳も真っ赤なのが分かるくらい熱い…
気にしたことなかったのに
今まで一度だって…彼にハグをされても手を握られても腕を組まれてもなんにも思わなかったのに……
そういう目で、見てるんだ……俺のこと
「…まぁ、すぐには無理だけどさ、諦めるから俺…努力します」
「…」
「シュアに迷惑かかんないように、」
「…なれて」
「え」
「は、…離…れ、て……」
おねがいだから。
と、熱くなった顔を見られないように背けると、彼はごめんな…と吃りながら俺から距離を取った。
しばらくの沈黙の後、朝食へ向かおうというクプスの声が聞こえてきて、それにはなんとか頷いた。
でもずっと身体が熱いし、それが彼のせいだって思うとなんでだ…ってなるし、鼓動はずっと速いし、もうなんなの……
なんで俺の方がドキドキしてるの
先に行っててと促し、俺はクプスの姿が見えなくなってからその場にしゃがみ込んだ。
頭を抱えて低い唸り声が響く。
なんだ
なんだなんだ
なんなんだよもう…
「シュアおはよう」
「…っ!?」
「タオルが床に落ちてるよ、汚れない?」
背後から聞こえた鼻がかった声の主は振り返らなくても分かった。だからこそ俺は焦った。
もしも今の現場を見られていたとしたら、と
当たり前だけどクプスだって誰にもバレたくないから俺一人のシーンに合わせて告白をしてくれたわけで、いくらジョンハンにだって俺の口から実はさ…なんて言うのは駄目だと思った。
「それで。付き合うの?」
思った、のに
結構フル回転で考えた俺の思考はまったくの意味を持たず彼にはりたおされた。
「…いつから見てたの」
「見てたなんて人聞き悪いなー。そっちが勝手に居たんでしょ」
「…勝手にって」
「だってココ通らなきゃ朝ご飯食べに行けないじゃん」
「……」
ゾッとした。
たしかにそうだ…
こんないつ誰が通ってもおかしくないような廊下でよく今の今まで……
誰も来なかったのが逆に奇跡だ。
「タオルも拾えないくらい腰抜けちゃったの?」
からかうような口調で言われ、俺は素早くタオルを拾って立ち上がった。
彼は「はははー」と一文字ずつ笑い、肩を組んでくる。
「まぁそんな深く考えなくても」
「…深く考えるよ」
「まぁそうだよね」
「……」
「お腹すいた?」
「……お腹すいた」
彼に肩を組まれたまま朝食へ向かう。
ヘラヘラと身体を揺するジョンハンに合わせて俺の身体も揺らされるが、そのヘラついた顔の裏にはメンバーのことを気にかけてくれている彼の優しさが見えてなんとも言えない気持ちになった。
「いつでも相談に乗るよ」
「……ありがとう」
今すぐなにかを変えなければならないわけじゃないのだろう。
だけどこのままにしておくわけにもいかない問題だ。
クプスがあんなに真っ直ぐな目をしていたのに
自分だけ逃げるなんて狡い…俺はちゃんと、彼の事について応えを出さなきゃ。
じゃなきゃもう一生彼に触れられないし、触れてもらえない。
毎回あんな熱くなるわけにいかないしね…
「ジョンハニヒョン〜もう行っていい〜??」
「僕おなかすいたぁ…」
「なになになにごと??」
「部屋戻ってろって言われたの」
「ここ通っちゃ駄目らしい」
「ヒョンいないよ?!」
『えええぇぇえぇっっ』
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