my angle


それでも、ぼくはfinal





「……最後まで、しなかったの…?」


なんか色々な感情に襲われて、溢れそうになっていた僕の涙腺を彼の声が堰き止めた。


「うん、しなかった」


男同士でいう"最後まで"というのも挿入のことなんだろうけど、あの日もそれは無かった。

あの日は彼が、「おれが下でいい」なんて言ったりするから惑わされそうになったけれど
経験のない僕がそんな未知なことしたら、どうなるか分からない…と怖くなって、逃げた。

実際問題、あの日も今日も、僕たちは『セックスをした』とは言えない。

でも彼はきっと、最後までされたと思っていたのだろう。
だから余計に怒り狂っていたんだろうけど…


「……う、そ」

「…だって僕やり方分かんないから」

「じゃあなんで言わなかったの、おれが酔って誘ったんだろ、なのにおれにだけあんな風にして、…おまえは、」

「僕は凄く、幸せだったから」

「…おれの、せいだろ、…なんで、」

「みんなのジョンハニヒョンが、あの時間だけ、僕一人のものになった気がして」

「……………」

「嬉しかったんだ」


すき、


すきなんだ


くるしいほどに



「……おまえ、おれのこと好きなの?」



ずっと…あなただけを見ていた



「…好き」

「……………」

「…好きだよ。ジョンハニヒョン…」


初めから知っていた。

僕の生まれて初めての恋は、抱いた瞬間から叶わないモノになること。

僕は男で、彼も男だってこと。
男が男に恋をするのはおかしいこと。

きっとこの気持ちは制御できるものじゃないってこと。

けれどすべて分かった上で僕は彼に恋をすることも。

苦しくて、哀しくて
無謀で、おかしな恋

なんの得もなくて
それどころか失うモノばかりになりそうな恋


それでも僕は、あなたに恋をしたんだ




「……泣くなんてずるい」

「…え?」


自分の頬っぺたをパチパチと掌で触ってみると、たしかに温かい水分が流れていた。


「ごめん、無意識だ」

「………それ、つらいだろ」


"それ"とは、なんのことを言われているのか分からなくて、僕はきょとん。と首を傾げ、彼を見つめた。


「だから!…っ、それ、」

「……それ?」

「…イってないだろって」

「あぁ!」

「あぁじゃないよ…」

「大丈夫です、もう」

「はあ!?」


なんで!?と驚く彼と同じく自分でも驚いていたところだ。
まさか何の感触を与えなくてもちゃんと吐き出せるとは。

でももっと驚いたのは、


「……おれも、しようか?」


と言った彼にたいして。

なんのつもりだろう…としばらく考えて黙り込んでいると、彼はすぐそばにあった枕を投げつけてきた。


「!?」

「なんか言えよ!!」


投げつけられた枕を胸に抱きしめ、僕は言葉を探した。
なんか言えって…言われても……

というかジョンハニヒョンはどういう気持ちでそんなこと言ってるんだろう。
泣いた僕に同情してなんだったらそんなの必要ない。

あとは僕がこの気持ちに、自分自身で整理をつけるだけだ。


「そんなのしなくていいよ」

「…おれ、嫌じゃないよ?」


一瞬熱を持ちそうになった自分に情け無くなる。
惑わされそうになったけれど、なんとか持ち堪えた。


「ひとつだけ聞きたいことがあるんだ」

「…ん?」

「僕のこと、嫌い?」

「………え、」


僕は、彼に本当の気持ちを正直に話した。

諦めるように努力するつもりだ
だけど今までだって何度も諦めようと思ったことはある。でも結局諦められなくて、ずるずるして、今に至っているんだと。

だから僕はこれからもあなたに不快な思いをさせてしまうかもしれない。

僕のことが嫌いなら、ハッキリとそう言って欲しい
そして、もう手を伸ばしても届かないくらいに突き放して欲しい、と。

黙って聞いてくれた彼は、俯いたまま
小さく唇を動かした。


「………そんな…昔から…」


咳払いをして掠れ声を直し、彼は続けた。


「嫌いになれるわけ、…ないよ」

「…」

「あの日はカッとなって…その…凄いこと言っちゃってめちゃくちゃ後悔した。取り返しのつかないこと言って、おまえのこと傷つけて…ごめん」

「…いや…」

「……あれからずっと気になって、頭から離れなくて、でもそれが嫌で、おれはおまえのこと嫌いになりたかった」


だけど、無理だったから


「だから、おまえに嫌って欲しかった」


なんて、哀しいことを言われて
僕はまた涙腺がグラッ…と緩んだ。

あなたが僕を嫌いなるより
僕があなたを嫌いになる方がずっと難しいって

どうして分からないんだ…


「……どこにも行くなよ」


…行かなくていいの?


「……嫌いなんかじゃないから」


…僕のこと気持ち悪くないの?


「……諦められないなら、」


…………


「……そのままの気持ちでいていい」


……そんなこと、言っちゃ駄目だ

僕は馬鹿だから本気にしてしまうよ

たとえあなたが慰めのつもりで言った言葉だろうと

そのままの意味で受け取って、本当にそうしてしまうよ


「……なんでか分かんないけど」

「…え?」

「……おれ、」

「………」

「……おまえに、さ…」

「…うん」

「…おまえに、さ、触られても、…全然……」

「………」

「……嫌じゃ…なかった…よ」


途切れ途切れに伝えてくれたその言葉を僕は大切に受け取った。

ジョンハニヒョンが僕に対してそんなことを言うなんて、きっと容易いことではなかったはずだ。

奪われた体力に加えて、精神力まですべて使い切って伝えてくれたんだと思うと、もう嬉しいというより…なんだか通り越して、苦しくて仕方なかった。


僕はその言葉に「ありがとう」とだけ伝え、彼をシャワールームへ連れて行った。

もう着れなくなってしまった彼の服をまとめ、新しい部屋着とタオルを用意して脱衣所の扉を閉めようと手をかける。

彼はあの言葉以降無言だったけれど、「僕のでよかったら着てね…」とかけた声には、こくん。と頷いてくれた。





僕は無機質な天井をぼー…っと見つめる。

起きたことを一つずつ整理していかないと
頭がパンクしそうだ…

なにがどうなって、こうなったんだっけ…

一連の流れを思い出しながら、僕は気付いた。


『そのままの気持ちでいていい』


「………」


たしかに彼はそう言っていた。

ということは
つまり、僕は
この恋を終わらせなくてもいいということ…?


「えっ!?本当に!?」


僕は勢いよく立ち上がり、一人で喜びの雄叫びをあげた。

叶ったわけじゃない。彼が僕を好きになったわけでもない。だけど、

この想いを、認めてもらえたことが
何よりも嬉しかった。


好きで、いても、いいんだ……








ねぇジョンハニヒョン


僕のせいで沢山悩ませてしまって、ごめんね

僕の気持ちを正面から聞いてくれて、嬉しかった

僕のことを嫌いにならないでくれて、ありがとう

あなたを想っている時間が一番幸せなんだ

僕のこと、好きじゃなくてもいいから

恋人になりたいなんて言わないから

だからこれからも今までみたいに微笑んで


僕はこの先、あなたがどうなろうと

あなたのことが好きだよ


すべてが手に入らなくても

僕だけのモノにならなくても

なにもかも失ってしまっても

誰にも愛されなくなっても

二度と他の人を愛することができなくなっても

それでも、僕は


それでも、ぼくは


あなたのことだけを愛し続けると誓うよ










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