名前を呼ばれ優しく揺すり起こされ、まだ重い瞼を開ければふわりと笑っているひろがこちらを覗きこんでいた。


「そろそろ時間ですよ」


優しくそう告げて寝室を出ていくひろ。まだ冴えない頭と気だるい身体を起こして部屋を出たたが、窓から見える空はまだ薄暗い闇が広がっている。


「風呂借りるぞ」
「はい。軽く作っておきますね」


シャワーの蛇口を捻れば冷水が出てきて次第に熱いくらいのお湯が出てくる。目が覚めるようにと頭から浴びて身体を洗った。部屋へと戻れば白い握り飯と漬物みそ汁が出来上がっている。


「本当にありあわせで恥ずかしいんですけど稽古前の足しになるかと」
「助かる」


熱めのお茶をすすり時計を見れば出るまであと30分くらいはあるだろうか。ひろと言えば朝刊を読みながらお茶を飲んでいた。作ってくれた軽食を平らげて一緒に部屋を出る。先程よりは明るくなったがまだ薄暗い。


「ちゃんと寝れてんのか?」
「それ土方さんがいいますか?」


そう言って心配いりませんよ。とすくりと笑った。気付けば俺の方が先に寝ていて気付けば必ず身なりを整えたひろに起こされるのだ。遅い時間に押し掛けることもあったりするのだが必ずって言いほどそうなのだ。


「じゃ、私裏口から入りますんで」
「……おう」
「頑張って下さいね」
「お前もな」
「ありがとうございます」


それではと裏口へと歩き出す。その後ろ姿はいつ見ても凛としているのだが、更に暗い道を進む姿はまるで闇に呑まれて行くようにみえた。


「ひろ」


名前を呼べば振り返るのだが暗くて顔は見えない。


「また後でな」
「はい、また後で」


表情は見えないがきっと笑っているのだろう。闇に消えていく姿になのか、寒さからくるのから身震いを起こす。
付き合っているのかと言われれば決まった言葉は言ったことはなかった。どこか足りない部分を補うかのようにいつの間にか寄り添って過ごしていたのだ。


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