私は何故こんなに愚かなのだろう。縋り付けば幸せになれるのだろうか。


「土方さんそろそろ時間です」


まだ眠り足りなそうな土方さんを起こすのは忍びないかったが時間がそうはさせてくれない。


「ん、もう時間か……」


すまねぇなと膝の上から頭を起こして大きく欠伸をし手を撫で握る。妙に冷たい私の手は土方さんの熱を奪うかのように指先から熱くなる。


「……ひろ」


そう名を呼んで頬を撫でて落ちてくる無数の優しい口付けでゆっくりと毒が廻るような気がした。自然に畳へと転がり組敷かれた彼の顔を見る。本当に私は何を考えているのだろう。


「このままでも悪くはねぇが……」


その先を聞いたらもうきっと進むことも戻ることも出来ないような気がした。


ー副長様、お茶をお持ちしました。


正直助かったと思った。慌ただしく身なりを調えてそれを迎え入れる。新人の子で私が頼んでおいたのだ。きっと寝起きに水分補給が必要だとと思った。きっと土方さんは空気が読めないと思っているだろう。


「煙草買う、ついでに送るぞ」
「今日は大丈夫ですよ」
「何いってんだ。もう遅ぇだろうが」
「友人と近くで待ち合わせますから」


そう言えばまた苦い顔をして煙草を吸い始めた。嘘は言っていないが何故か心が締め付けられる。


「明日明後日お休みもらってますので」
「どっかいくのか?」
「お休みと言っても仕事みたいなもんですから」


そういや、明日はとっつぁんのパーティーにお前がついていくって言ってたなと思い出したかのようにボリボリと頭を掻いている。


「明日夜に行ってもいいか?」
「はい、戻る時間は定かではありませんがお待ちしています」


はっきりとした約束ではない。いつもそうなのだ。それでは頑張ってくださいねと部屋を出て、女中達が休む部屋へと戻れば先ほどお茶を持ってきてくれたくれた子ニコニコとこちらをみている。


「やっぱり二人はお似合いですね」
「そうですか?」
「とっても素敵です!」


私も早く好い人みつけたいなーと漏らし他の女中さんあんたにはまだ早いわよと笑っていた。私はそんなに立派な人間ではないと大声をだして言いたい。


「じゃ、私はこれで」
「明日明後日お暇もらってんだよね」
「はい、何かあったら連絡くださればすぐに来ますので」
「何いってんだい、ひろちゃんは半年以上もお暇もらってないんだ、ゆっくりしてな」
「ありがとございます」
「明日は付き添いで仕事みたいなもんだろ?だったら明後日はゆっくり休むんだよ」


まるでお母さんのように諭し休むようにいってくれるのはトメさんだ。私の次にここで働いているのが長くもう60歳を迎える。


「ではよろしくお願いします」
「こっちの心配はいらないよ」


着物を着替えて裏口から出ると月の光が反射キラキラと銀色を輝かせている。小さくうずくまっているそれはこちらに気付き、おせぇーと一言、言ったあとにあっちにバイク停めてんだ。と体を起こした。


「ひろ」


名を呼ばれた。今度は少し乱暴ででも懐かしい。それ以上は話すことなく先に歩いていってしまうのでそれを追いかける。バイクには乗らずに押す彼の背中をまじまじと見つめる。先ほどの毒が廻ってきているのだろう、その後ろ姿は土方さんにも見えなくはないような気がした。



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