重い腰を上げて、愛しの姫が待つキャンパスへ向かった。講義中だからドア越しに声が聞こえて、少しだけ行くのが嫌になったが、あのナマエが待ってるね、なんて言うんだから、行かなきゃ行けないんさね。そーっとドアを開けて、中腰になりながらお目当の人の隣へ向かう。ちゃんと出入口側を空けてあった。俺が来たことに気づいたナマエは鞄を退かして、トントンっと椅子を叩いた。それだけで、何だか嬉しいさ。

「待った、さ?」
「別に」

クールで釣れない幼馴染み。俺からすぐに視線を離して講義に耳を傾けるその姿は絵になるんだけど、本当に面白くないさ。まあ、ナマエが、この講義好きなの知ってるけど、面白くないものは面白くない。ノートも出さずに隣のサラサラした髪に目をやった。長くてツヤツヤ、お手入れは完璧。近づいて匂いを嗅いだら朝の温もりが蘇ってきて、抱き締めたくなった。そっと手を伸ばせば、顔面にエルボーが飛んできた。あ、すいません、抱きついたりはしないから、と両手を合せたら、溜め息が聞こえた。そして、チラっと俺を見た後、また視線は前を向いた。ああ、寂しいさ。自慢じゃないけど俺はモテるんさ。だから今でさえこの部屋にいる女の子達の視線は俺に集まってると言っても過言でないんさ。だって、後ろで既にきゃあきゃあ言ってんの聞こえるしー。なんて思いながらナマエの長い髪を暇つぶしに三つ編みした。サラサラ過ぎてすぐに解けるなぁ、なんて思いながら、講義中に幼馴染みの髪をイメチェン。されるがままのナマエ、今だけは俺の自由なんさ?とか勘違いしてしまいそう。そして、編み込みポニーテールが出来上がった。我ながらいい出来だなぁ、なんて思っていると講義が終わった。ノートとペンケースを片付けて、席を立とうとする幼馴染み。

「今日はもう講義終わりさ?」
「うん、今日はないよ」
「じゃあ、みんなでカフェでもどう?」

みんなで、って言ったのは俺の小さな小さな弱虫が2人きりって単語を呑み込んだから。願わくば2人きりがいいさ。でも今更、ねぇ…そんなことは言えない。

「ごめん、これから用事あるの」

デートのお誘いあっさり玉砕。これが初めてではないけれど、本当にナマエに振られると心痛いんさ、俺も。そっか、と笑顔作って、席を立つナマエを見送った。そしてその瞬間、他の女の子達に囲まれて、ラビ器用なんだねー!とか私もして欲しい!とか、きゃあきゃあ言われた。ああ、そう言えば髪構ってたっけ。別に暇つぶしだったし、なんて思っていると話し声が聞こえんだろうか、ナマエが輪の近くに来た。

「ラビ、コレ…ありがとう」

それだけ言って、ナマエはまた輪から離れていった。えっ、えっ、ちょっと待って。お礼言われた?他の女の子達が、何あれ無愛想ー!とか言ってるけど、これ、すごい事さ。ナマエで遊んでただけなのに、お礼を言われた。しかも心無しか照れていたような…?

「…ナマエも遂に俺様の魅力に気がついた?」
「バカ言わないでください」
「どわさ!」

1人で呟いていたら今度はアレンが近くにいてすごく驚いた。女の子達は居なくなってるし…。

「ナマエがラビに惚れる訳、無いでしょう」
「そんなハッキリ言わんでも」
「こんな遊び人、僕ならお断りですね」

幼馴染みでいてくれるだけありがたいと思った方がいいですよ、なんて言われてハイハイ、と返事をした。分かっている、ナマエと今以上の関係を望むなんて烏滸がましい事くらい。俺が1番分かっているんさ…。

「だけど、アイツじゃないとダメなんさ…」
「女々しいですね」
「うるさい」
「その拗らせ具合、見てて恥ずかしいです」
「本当にうるさいさ」
「まあ、本人がそれでいいならいいんですけど」
「…アレンは何用で来たんさ?」

煩わしくなって話題を変えようとアレンに話を振れば、さっきコレ、ナマエから預かりました、と渡されたキャンディーと紙切れ。開いてみると、ラビ、講義ちゃんと出ないと落第するよ、って書いてある。次そう言えばリーバー准教授の講義じゃん。あれは落としたらマズイ。

「…全く、幼馴染み様々ですね」

アレンが呆れた様に呟いて、行きますよ、と俺を引きずりながら、リーバー准教授の待つ講義室へ向かう。キャンパスを移動する最中、キャンディーを1つ口に入れた。甘くて少し酸っぱい。レモンキャンディーさ。他にもジンジャーとか、ハッカとか…甘さ控えめなものばかりで、ナマエは俺の好みちゃんと把握してるさね。舌の上で転がしたレモンキャンディー。なんだっけ、ファーストキスはレモンの味とか言うけど、俺のファーストキスなんかいつの間にか終わってた。もう、記憶も薄れてる。レモンの味なんかしたさ?分かんないさ。ナマエもレモンキャンディー食べてるんかなあ、なんて思いながら、アレンに腕を引かれる。本っ当に女々しいさ、俺。1人の女の子に躍起になってモヤモヤ。この引かれる手も、ナマエだったらいいのに、なんて思うから寒い。

「アレンー」
「…なんですか?」
「俺、本当にバカさ」

そっと呟いた言葉にアレンは、何を今更、と辛辣な言葉で返して来たけど、振り返らなかった。それが少し、嬉しかった




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