コムイの助手を引き受けてからと言うもの、女の子遊びは極端に少なくなった。てゆーか出来ないんさ。コムイの部屋でほぼ1日を過ごす。講義に出る時ぐらいさね、部屋から出るの。あれからナマエの顔すら見ていない。365日中360日は見ていた幼馴染みの顔を見なくなってからもう3週間は経った。毎日掃除をしているはずなのにコムイの部屋は相変わらず散らかる…なんでさ。あ、コムイだからさ?もう、考えるのも止めたいくらいさ。でも、これが俺様の性分だしなぁ…なんて思いながら散らばる書類を集めては整理しての繰り返し…ちなみに今日この作業は1084回程している。書類で窓が埋まっているから分からないが日差しが入らなくなったので夜になったんだろう…そろそろ家にも帰りたい…。つーか風呂入らせてくれ…。なんて思うと入口のドアが少しだけ開いて、書類が雪崩の様に少し出て行った。あ、ヤバっ!ここに置いた書類、近日中にクロス特別講師に出すやつだ!慌てて取りに行くとまた雪崩が起きた。そして光が目に入る。
「ラビ」
呼ばれた名前に目を開けば、3週間ぶりの幼馴染みの澄ました表情。
「生きてるのね」
「あ、まあ、な」
「髪がボサボサね」
「ほとんどココに居たからさ。ナマエは…」
今日は綺麗さね、と言おうとして口を噤んだ。頭の片隅にあの色ボケ助教授が浮かんで憎らしくなったからだ。言葉の続きを考えていると幼馴染みはしばらく俺の顔を見た後、コレはいるの?と言い、外へ放出された資料を拾う。俺も慌てて拾うと最後の1枚の時にお互いの手が重なった。ハッとして見つめ合う。至近距離でナマエの澄ました表情。光に反射されてとても綺麗さ。
「ナマエ…」
思わず飛び込む潤んだ唇だが、感触は固い。なんでさ?と思ったら幼馴染み必殺の飛び散った資料の束ガードをされたから。ああ、拒まれた。いつもの事だが、すっごい悲しいさ。
「…死んでるかと思ったら意外と元気ね。心配して損した」
「いや、俺様健全な大学生してて割と死んでるさね」
本当に。ここ数日間は抜いてないし。てか、ちゃんと定期的に抜かないと機能しなくなるって言うじゃん?大丈夫俺様?EDにならないさね?目の前には女の子。そいつは好き過ぎておかしくなりそうなくらいの幼馴染み。そんな幼馴染みはお腹すいてると思ったからサンドイッチ食べる?と3週間前と変わらない様子で持ってきたであろうバスケットからサンドイッチを出し始める。はらりと流れた髪の隙間から見える項に息を飲んだ。ラビ、何味がいい?と聞くナマエの手を掴んだ。バサッ、資料が舞って胸の高鳴りが聞こえたと思ったら、再び至近距離の幼馴染みの澄ました表情。乱れた髪と肌ける衣類は余計に俺の気持ちを高鳴らせた。
「…逃げないんさ?」
ナマエは何も言わない。さっきと表情を変えずに俺をただ見つめた。俺は視界の端に散乱したサンドイッチをチラリと見た。資料にソースや野菜の水分が染み込んでいる。その時間は限りなくゆっくりで余計におかしくなりそうだった。
「ナマエもう一度聞くさ。逃げないんさ?」
わざと腕を掴む力を込めて聞いた。ナマエは少しだけ掴まれた右手を見た後、また澄んだ瞳で俺を見る。その表情は知っている。ナマエは昔から人をじっと見ては何かを言おうとする。けれどもそれは言葉にならずいつも伝わらないんさ。何かを言いたい、だが言わない。そんなナマエが好きで、好きで好きで好きで。
「ナマエ、俺さ…」
「ラビ」
不意に名前を呼ばれて柄にもなく肩をビクつかせた。相変わらず幼馴染みは俺の目を見ている。途端、ナマエのカバンが揺れ、雪崩のように出てきた携帯のディスプレイが目に入る。
着信:ティキ・ミック助教授
すごく汗が吹き出した。タイミング良すぎだろあの色ボケ。でもナマエはそんな着信音を気にも止めず俺を見ていた。だから俺は思わずナマエの腕を解く。体を起こした幼馴染みは携帯に手を伸ばした。白く細い腕は掴まれていたから赤くなっていて、それに少しだけ興奮を覚えた。俺は本当にどうしようもないかも知れないさ。ナマエを傷つけた事に優越感を覚えるなんて。
頭を掻くと少しフケが舞った。汚いさ。お風呂に入りたい。そんな事を思っていると未だに着信音が鳴り響いているのに気がつく。
「…出ないんさ?」
「うん」
携帯を握り締めたまま動かない幼馴染みは少しだけ俯いた後、着信を消した。
「いいんさ?ティキからの電話だったんでしょ」
我ながらつまらない嫉妬だと思う。俺はナマエが好きで、ナマエはティキが好き。俺は大学生で、あっちは社会人。今回ナマエが来てくれたのも幼馴染みだから。
「サンドイッチ、ダメになったね」
少し寂しそうに言った彼女の表情はさっきと違ってて…。ああ、俺はなんて事をしたんさ。あんなにティキに悲しませたら許さないと言ったのに、悲しませてるのは俺さね。こんな奴、好きになってもらえないで当然さ。
「ナマエ、ゴメンさ」
「いいけど、資料大丈夫?」
ソースが染み込んで変色した資料はバク教授宛だった。これ絶対重要書類さ…。なんでこんなものをココに置いとくんさコムイ…。自分の仕出かした事に軽く絶望していると、幼馴染みは落ちたサンドイッチをゴミ箱に捨てていた。それを見ていつか俺も捨てられるんじゃないか、と恐怖感を覚えた。
「ナマエ」
「何」
「ゴメン、捨てないで」
まるで自分の事を捨てないでと言うように、またナマエの腕を取り、掴んでいたサンドイッチを取り上げた。シャキシャキレタスにジューシートマト、ハムとチーズ…幼馴染み特製ソースがアクセントで美味しい。
「美味しいさ」
笑いながらサンドイッチを食べれば、幼馴染みはため息をひとつ…そして汚いよ、と言った。俺に言われている様でまた、胸が傷んだ。
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