「あ、あの…ナマエさん…?」

何がどうしてこうなった。目の前には小さくて華奢な幼馴染み、とデミグラスソースがたっぷりと掛かった360°どこを見ても絵になるオムライスマウンテン。もう一度だけ、幼馴染み見た。すると何かに気が付いた様に、ああ、ごめん、と言って立ち上がりスプーンとコップを持ってきた。いや、違うさね。

「では、ラビ…手を合わせて」
「ハイ?」
「手を合わせて」
「ハイ…」
「いただきます」
「…いただきます、さ」

とりあえずナマエの言う通りにしてスプーンを受け取り、マウント・ザ・オムライスを掬った。ふわふわ卵に掛かったデミグラスソースとアクセントの生クリームが掬った所から流れ出し、まるで火山を思わせる。味はもちろん文句無し。相変わらず料理上手さ…じゃなくて!コムイの研究室軟禁生活も1ヶ月は過ぎようとしたある日、再びやって来た幼馴染みは有無も言わさず俺を連れ出すとマイホームに連れてきた。ホコリかぶってると思いきや、部屋の中は割と綺麗で、何でさ?って思わず呟くと、愚問ね、と幼馴染みがイタズラっぽく笑って鍵を見せた。その笑顔、久しぶりに見たさ。今回だけはジジイに感謝しつつ、部屋に上がると、まるで自分の家のようにタンスからバスタオルを取り出し投げつけてきた幼馴染み。そして、ジェスチャーで脱衣場に行け、と指示される。確かに今の俺様、すごい汚いと思ったから言うこと聞いて、久しぶりのシャワーを浴びた。用意周到な幼馴染みは風呂まで沸かしてくれてある…。マジ嫁になれるさ。そして上がってテーブルに何気なく座り、コムイの手伝いについて聞こうと思ったらオムライスが出てきて今に至る。山盛りオムライス…こんな食えねぇ、とか思ってたけど、いつの間にかあと一口。マジか。俺様こんなに腹減ってたんさ?また、幼馴染みをチラ見。こちらを見ることなく、コップに麦茶を注いでいた。リーン、いつの間にか吊るされてる風鈴の音がした。窓も開いてるのに風は殆ど来ない。けれども涼しく感じた。

「ナマエ、今の季節はもしかして夏さ?」
「アンタが軟禁されてる間に夏になったわ」
「マジか。じゃあなんで夏にオムライスなんさ?」
「気分」

アンタ、オムライス好きなんだからいいでしょ、なんて言われて、焼肉がもっと好きと思ったけど、この暑さで焼肉したら死ぬと思ったから言わなかった。

「暑い」

パタパタとうちわを扇いでいたナマエだったが、耐えきれず後ろを向き、扇風機に手を伸ばす。丁度俺から見てお尻を向けてる状態で、だ。キャミソールに薄いカーディガンを羽織っていた筈なのに、いつの間にか肌けてキャミソール1枚。ブラ紐見えてるし、背中めくれ上がってるし、なんか角度的に胸見えそうだし、足元はなんかめずらしく短パンで生脚だし!

「ナマエさん、あのさぁ…」
「ん?」

注意しようと呼びかけたのがいけなかった。その四つん這い体制からあの子、振り向いた。っあー…理性の切れる音がした。ガタン、テーブルに足が当たったのもお構い無しに、俺はナマエの真後ろに立った。そして覆いかぶさる。

「暑い、離れて」
「嫌さ」
「ラビ、なんか熱い」
「誰のせいだと思ってるんさ」

するりとキャミソールが肩からズレる。思わず生唾を飲んだ。そして、振り向き間際のナマエの唇に飛び込む瞬間、インターホンと同時に部屋のドアが開いた。目の前に映る白髪と黒髪が…と思った次の瞬間、俺様は吹っ飛んだ。

「…本当に最低ですね」

ヒリヒリ痛む頬を撫でていると幼馴染みが氷を持ってきてくれた。その様子を見た凸凹コンビは、ナマエそんなことしなくていいです、とか、色魔の自業自得だ、とか、言っていた。いや、半分はナマエも悪いと思っ…いや、これ以上なんか言ったら元々無いに等しい人権がすり減るから黙って氷を受け取り頬に当てた。

「アレンとユウは何しに来たさ」
「コムイ教授がラビが逃げたって言うから探しに来たんですよ」
「逃げたんじゃない。拉致られたんさ」
「言い訳見苦しいですよ、ラビ。女の子遊び出来なかったからって、ナマエを拐って…最低です」
「誤解さアレン!俺様を拉致ったのはナマエさ!」
「…は?」

コポコポコポ…麦茶をコップに注いでいるナマエと目が合う。あ、そう言えばコムイ教授に言うの忘れてた、と言ってユウとアレンに麦茶を差し出している。

「え、本当にナマエがラビを…?」
「この前会った時に余りにも臭ったから…つい、ね」

拉致られた理由が体臭とか本当に落ち込むんですけど…何にせよ誤解が解けたらしく、脳天気な幼馴染みは携帯を取り出し電話掛けていた。何となく聴こえる声からして相手はリナリー、暫く話したあと、リナリーも来るってさ、と言って、皿を片手に立ち上がる。素敵なおみ足さね。

「お前、また変なこと考えてるだろ」
「ラビは脳内ピンク色の事しか考えられないんですか?」
「…なんでこう言う時ばっかり君ら2人は同じタイミングで溜め息付くさ?実は仲良しさ?」
「切り刻むぞ」
「吐き気がするんで止めてもらっていいですか?」

ユウの睨みとアレンの真っ黒笑顔に引き気味でいると、またインターホンがなった。リナリーが入ってきて、ナマエが当たり前の様に迎えている。まるで新妻さ。

「ナマエは、本当に突然突拍子もない事するんだから!」
「ごめんね、リナリー」
「大丈夫よ。それよりティキ助教授がアナタを探していたわ」

ティキ…その名前はあまり聞きたくない。リナリーからその話を聞いた幼馴染みは身支度を済まして、後はよろしく、と出て行ってしまった。途端虚しくなり、溜め息を付いてしまった。ハッ、とした時にはもう遅い。3人が俺様を見ていて、溜め息を付く。

「…なんなんさ」
「いや、なんて言いますか…」
「お前…」
「ラビっておバカさんよね」

リナリーの一言にアレンとユウがリナリーを勢い良く見た。いや、もう、その通りなんで何も言えませんが。

「もう何年?あの子に片想いしてから」
「忘れたさ」
「うそつき」

おバカさんね、ともう一度言われ、リナリーを見ると呆れたように、ナマエの優しさに甘えてると痛い目見るわよ?と言われた。もう見てるさ。ナマエには好きな人がいて、俺様はただの幼馴染み…それだけなんさ。

「いい事、教えてあげるわ」
「今度は何さ」
「兄さんの助手、解放されてるわよ」
「は?」
「…ナマエが掛け合ってくれたのよ。ラビ頑張ってるから何とかしてあげてって、本当に幼馴染み様々ね。兄さんも困ってたけれど…リーバー准教授ももういいって言ってくださったから、今日で終わりなのよ」

だからアナタはここに帰れたのよ?と言われ、面を食らったのは俺様だけでなく両サイドの凸凹コンビだった。

「コムイからコイツ呼び戻すようにって…」
「それは、兄さんからの囁かなイタズラね。あとは、ラビが何か仕出かすといけないから…」

そう言われて穴があったら入りたい気分になった。2人の視線とそれに気づいたリナリーの、あ…やっぱりね、って視線が痛い。何にせよ幼馴染みが偉大すぎてなんか申し訳ない気持ちでいっぱいさ。

「ナマエの偉大さが分かったかしら?」
「改めて身に染みたさ」
「じゃあもう1つ。あの子は今どこに行ったのかしら?」
「…色ボケ助教授の所さ」
「いい加減素直になったらどう?彼女は1週間後の花火大会行くわよ。今年はティキ助教授に誘われて、ね」
「は?!」
「いい加減覚悟を決めなさい。ナマエをどうしたいの?」

リナリーに言われてさっき食べたオムライスが胃の中でグルグルと回った気がした。窓際の風鈴の音がやけに遠くに聴こえる夏の日の出来事だ。



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