音駒高校2年男子バレーボール部マネージャー立花名前は殆困っていた。ここは音駒高校の体育館。ウォーミングアップが終わったであろう時間に合わせて、タオルやらドリンクやらの準備をし、いざ体育館に行くと、既にアップが終わった面々が体育館の中央に居り、遅れてすみません!と声を掛けて、体育館に一礼して入ろうとすると、皆がこっちを一斉に向き、近付いてきた。はて、私は何か間違った事でもしただろうか?否、いつもと変わらない。主将の黒尾先輩が、立花…ちょっと…と、笑顔で手招きをしている…が、その笑顔がとっても怖い。背景に何故か般若見たいなのが見えた気がしたのは是非気の所為と思いたい。しかし、私は今右手にドリンク、左手にタオルを持っていて、身動きが遅い。それに気付いたらしい黒尾先輩は指を鳴らすと、急に左右の手が軽くなる。タオルとドリンクを1年生達に取られたのだ。代わりに運んでくれているお礼を言うと、そそくさと蜘蛛の子散らすように逃げられた。待って待って、名前お姉さん超ショック。いつも手伝ってくれるし、お礼言ってもろくな返事はくれないけれど、それでもこんな目を合わせない程嫌われてるとは思わなかった。落ち込みながら再び体育館の中央を見れば、視界が遮られ、若干辺りは暗い。それもその筈、私の身長を優に超える男達に囲まれているのだ。圧迫感が凄まじい。時計回りで言うと黒尾先輩、山本くん、夜久先輩、灰羽くん、犬岡くんである。ただ、犬岡くんに至っては、ここですか?って言いながら腕を組んでいるので多分山本くん辺りに巻き込まれてる。

「あ、あの…何か…?」

とりあえず状況が全く読めない為、意を決して声を掛けると、後ろの方から、クロ…立花さん怖がってるじゃん、と言う孤爪くんの天の助け。海先輩も孤爪くんの横でニコニコしていた。原因が分からず、再び黒尾先輩を見上げると、今朝…、と口を開いた。今朝…?はて、何かあっただろうか?今日朝練は無かったからゆっくり学校に行ったのだけれど…ハッ、もしや!!!

「あ、あの、すみません!今日もしかして朝練本当はあったのですか?!勘違いをしていました!」

思いっきり頭を下げて謝ると、暫し沈黙が流れ、灰羽くんが、エッ!今日朝練あったの?!と慌てだし、夜久先輩が、リエーフ黙ってろ、と灰羽くんの腰を蹴飛ばし、それを見た黒尾先輩の溜め息が降ってきた。

「立花さん、今日は朝練無かったよ。それは大丈夫」
「えっ!じゃ、じゃあ…仕事が遅い、とかですか…?すみません、要領悪くて…もっと頑張ります!」
「あー…えっと、そうじゃなくて…」

孤爪くんが口篭りながら、クロが早く言えばいいのに…、と呟いていると今度は体育館の外が騒がしい。それに気を取られたのか、一斉にそっちを向いた皆の間から外を見ると、女子の集団の中に何だか見知った茶色いワンレンと派手な髪型をしてスマホを激写しているパリピが見えた。孤爪くんが何あの人達…と隠れ、夜久先輩が虫を見るような目でその光景を見ていた。頭が痛くなった。

「あれ、立花先輩!なんか頭痛そうだけど、どうしたの?」
「灰羽くん、大丈夫、です…」
「コイツら何だよ…追い払うか。そうじゃなきゃ立花と話も出来ねぇ…」
「そうだな」

夜久先輩の言葉に頷き、指を鳴らしている山本くんを引き連れて、騒がしい集団に近付く黒尾先輩。私の周りを動く巨神兵の灰羽くんに私を盾に未だにビクついている孤爪くん。正直、この状況は説教っぽい事が中断されて有難いけれども、騒ぎを起こした彼等は知り合いなのでとても有難くない。プラマイゼロなのだ。今度は私が溜め息を着くと、それを見た夜久先輩が、大丈夫か立花、と心配してくるので、本当に何なのだろうか。苦笑いをしつつ、揉め事はどうなったか見ると、ここに立花名前が居るって聞いたんスけどー?と気怠い声が聞こえて、なんでこの学校のこの部活とバレたのか、と頭痛が増した。

「…立花はウチのマネージャーですけど」
「フーン。じゃあ、呼んできてくんない?俺ら、名前に用事あるんだよね」
「…立花さん、あの人達と知り合いなの?」
「あはは、誰だろーねーあの人達…知らない人かなー?」

ああ!痛い!孤爪くんの視線も夜久先輩の視線も痛い!圧が凄い!さっき似た様な事体験したばかりな気がする。少し振り向いた黒尾先輩の目線が恐ろしく鋭かったのは見なかった事にしよう。そして、それに気付いた灰羽くんが、黒尾先輩!立花先輩はこの人達知らないって!と大声で言うからさあ大変!僅かに出来た灰羽くんの影から私が見えて、スマホ片手に写メ撮ってるパリピと目が合った。

「あ!セッツァー!名前ちゃんいたよ!」
「…まあ、さっきの巨神兵の言葉で分かったけど、これは完全に当たりだな」

さて、ここに名前呼んでくれます?アイツ、俺らのなんで、と言う言葉が聞こえて、あー…私のワンダフル学園生活が崩壊したのが分かった。諦めて孤爪くんを離し、灰羽くんの横を通って、吠えてる山本くんと黒尾先輩の隣に立った。それを見て、やーっとお出ましかよ、と言い、笑う万里。カズくんは、ジャージ姿の名前ちゃんきゃわたん!とか言っている。その写メ、インステには是非あげないで欲しい。

「何用ですか。学校まで押し入ってきた不審者お2人様」
「オイオイ、不審者扱いとか酷くね?俺達、お前の為に来たんだけど」
「…写メ凄い撮ってるから下手したら本当に不審者だし、捕まっても私助けないよ」
「名前ちゃん酷くない?!学生時代懐かしくて思わず撮っちゃった!!あと、これは今度のフライヤーデザインの資料だし、学校には許可取ってあるから大丈夫だよん」

ほらほら!と見せるカズくんの胸元にはお客様用カードが着けられていた。溜め息をまた1つ吐きつつ、ご用件は?と聞くと、差し出される財布。それは私のだった。

「…どうしたのコレ。まさか、泥棒?」
「んなわけねーだろ。お前朝、真澄の事学校まで送っただろ?」
「うん。咲也くん卒業しちゃったら寝坊に拍車掛かったからね、あの子」

同じ高校生だし、朝練無い時だけで良いからお願い!ってお姉ちゃんに頼まれて、最近、朝だけは送ってたんだよね…。それより万里の後輩でもあるんだから万里が面倒見ればいいのに、なんて思っていたら、咲也でも大変なのに俺がどうにか出来ると思ってんの?って言われた。お前のイージーモードどうした。

「その財布、マッスーのバッグの中に入ってたらしくてさ。定期とかも入ってたみたいだし、届けなきゃってなったんだけど、俺らが講義早く終わって暇してたから来ちゃったってカンジ!」
「話の内容は分かった。何で学校知ってんのとか、何で学校の事務員さんに渡さないで直接ここ来てんだとか、そもそも何でお姉ちゃんじゃなくて万里とカズくんなんだとか、何で人様の財布の中身勝手に見てるんだとか、一言連絡ぐらいして欲しいとか、言いたいことは沢山あるけれどとりあえず今ここで見た事を全て記憶から消して金輪際この学校に来なければ水に流してあげようありがとう」
「あんま感謝してねぇな?」
「する訳ない」

とりあえず帰って、と手をシッシッと払うと、少し考えた後、お前、部活してたんだなー…と万里が言う。その言葉にギクリとすると、ニヤリと笑って、へー…って呟いた。冷や汗が溢れた。

「俺達に部活の先輩方、紹介してくんねーの?」
「な、何でかな?」
「いや、俺らは良いけどよぉ…」
「んー?何何セッツァー?あ、名前ちゃん、部活してるなんて初耳ー!しかもマネージャー?って言ってたよね?!男子バレー部?!フルーチェさんに説明した?!」
「…な?」

そんな笑顔で言われても困るし、そこで左京さんの名前出すのは最高にズルいし、何より後ろからも視線が凄すぎて板挟み辛い…。そして黒尾先輩を見上げると笑顔が怖くて怖くて…。

「あ、あの、黒尾先輩…?」
「何、立花?」
「遅くなりましたがこちらの方々を紹介しても…?」
「ああ、どうぞ?」

笑顔がッ!笑顔が怖すぎて!やっぱり背後に般若居る!!未だにメンチ切ってる山本くんだけど、万里には効かないかな…もっとヤバいやつ普段見てるし…誰とは言わないけれども。

「こちら、私の姉が総監督している劇団の役者さんです。夏組の三好一成さんと秋組の摂津万里さんです」
「イエーイ!名前ちゃんやっと紹介してくれた!」
「つーか、俺らに黙って部活するとか無理なんだっつーの」
「はい?1年隠し通せたから」
「でも2年目にバレたの、なんでか分かる?」
「ヒント1!春組!」
「モウワカッカッタノデイデス」

千景さんじゃないか。ちくしょう、ちくしょう!!あの人にはいつも情報筒抜けだよ…スパイスでも賄賂として送るべきだった…しかし学生のお小遣いではかなり無理がある…何より左京さんという銭ゲバか財布の紐握ってるからなぁ…、なんて思っていると、劇団…?と言う言葉が頭から降ってくる。黒尾先輩だ。

「天鵞絨町のビロードウェイ、【MANKAIカンパニー】って所!良かったら舞台見に来てねん!」
「…っても、その様子じゃ、名前に本当に何にも聞いてないって感じだな。まあ、さっきのやり取りで分かってたけれどな」
「その劇団員さんが、ウチの立花とどんな関係で?」

完全にケンカ腰の黒尾先輩に冷や汗が滝の様に吹き出す。何故こんなに怒っているかさっぱり分からない。さっきからすごく機嫌が悪かったのは有るけれど、そもそも黒尾先輩こんなに怒ったりしないのに…、と思いつつ、黒尾先輩の事を万里に紹介していなかった事を思い出した。

「え、えーっと、万里、カズくん、コチラは音駒高校男子バレーボール部の主将の…」
「黒尾鉄朗です」

ニッコリ笑っているが握手すら求めない所が完全に万里達を敵と見なしてて怖い。それを見た万里が知ってる、と言った。どうせ千景さん経由なので聞くこともめんどくさかったが、その言葉は今は良くなかった様だ。いつの間にか集まって来た他の部員達が、なんでこの人達は主将の事知ってて、俺らはこの人の事知らないの?ってヒソヒソと声がした。心が痛い。

「…さっきの質問の答えだけど」

その様子を見た万里がゆっくりと口を開く。

「名前と俺らの関係ね、それは俺らが名前と親密な仲だからだ」
「…は?」
「だってそうだろ?お前らは俺らの事を知らないけど俺らはお前らの事を知っている。それで十分、分かるよなぁ?俺ら関係の深さが」

後ろで夜久先輩の盛大な舌打ちが聞こえた。頼りのカズくんはいつの間にか通話中。板挟み継続し、尚且つ悪化。もうこの際誰でもいいから助けて…!!そう思っていると、カズくんが、マズイよセッツァー!ってスマホを万里に差し出していた。すると怒号とも言える声がこっちにまで聞こえた。左京さんだ。

「…稽古有るなら油売ってないで帰りなよ」
「聞いてんじゃねーよ」
「聞こえたんです。本当早くしないと益々怒られますよ」

ハイハイ、と言いつつ背中を向けて、邪魔したなー、ってカズくんと帰って行った。何はともあれ、左京さんに感謝し、帰ったら万里とカズくんとついでに真澄くんと、やっても無駄だけど千景さんの口止めをしなくては…!と思いつつ、さて、部活!と向きを変えた瞬間、さっきより圧の凄い輪が目の前に出来ていた。今度は孤爪くん入りだ。

「立花…説明して貰おうか」
「え、えっと…?」
「立花先輩!あの派手な人達誰っスか?!舞台俳優とか聞こえたけど親密な関係とか、もしかして彼氏?!」
「いや、待って…灰羽くん…そんな訳…」
「え、立花さん…あの人達彼氏なの…?他にも沢山男の人の名前出てたけど…?」
「孤爪くん、待って、違う。断じて違う…!」
「あ!もしかして朝見た男ってその真澄って奴じゃないスか?」
「あの真澄って奴が彼氏なのか?!立花!そうなのか?!」
「山本くんも夜久先輩も落ち着いて…!」

今朝がどうこう言っていたのはコレか!全部繋がってしまって愕然としてしまう。お姉ちゃん忙しそうだし、みんなの為に!なんて安請け合いしたのが仇になった。

「…で?名前?」

あの人達との関係は何だ?と黒尾先輩にドス黒い笑顔を向けられて、一緒に住んでいる方々です、と言ったらまた壮大な壁が増えたのは言うまでもない。








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