さっきから頭痛と冷や汗が酷い。私の様子に気が付いた紬さんが体調を心配してくれるけれど、その原因は両サイドと本日のテロリスト+‪αにある事を当人の紬さんには言えずにソシャゲに勤しむクソエリートを睨み付けた。一瞬目が合った至さんは最高に輝かしく、ソシャゲスチルなら高画質で収めたい位の笑顔を向けて来たから益々苛立った。次にイベント来たら期間内ずっと咲也くんと居てガチャ引かせない様にしよう、なんて囁か過ぎる嫌がらせを考える事は出来たが、結局寮に着くまでに左京さんへの言い訳を考える事は出来なかった。玄関を開けるとご飯の良い匂いと騒がしい声。紬さんと至さんの後に続いて靴を脱いでいると、奥から足音と、おかえり〜、と言う明るい声が聞こえた。

「名前ちゃん〜おそかったね〜」
「三角さん、ただいま帰りました」
「名前ちゃんもよるのおさんぽ〜?」

なんでも丞さんとガイさんが夜のランニングに出掛けたらしい。それを聞いた紬さんは、名前ちゃんとはさっき駅で会ってね、と話し始め、ヒュッ、と喉が鳴った。名前ちゃん、かおまっさお〜、と三角さんが私を覗き込んで言うから紬さんも、たまたま廊下の奥に居た綴さんも近付いてきて、心配された。確かに具合は悪い。色々な意味で本当に悪い。苦笑いしながら過保護2人に対応していると、目の端に吹き出した至さんが見えたので後で勝手に常設ガチャ(最低保証無し)引いてやる。そんなことを思いながらリビングへ行くと、今日に限って何故か殆どの団員が集まってて、目眩がした。追加料理を出しに来たらしい臣さんが、おかえり、と声を掛けてくれたが、目眩により苦笑いしか出来ず、過保護隊に臣ママも加わってしまった。

「名前さん、大丈夫ッスか?」
「電車に乗っている時からあまり具合が良くなさそうなんだ」
「そうか、食欲あるか?野菜ジュースなら飲めそうか?作ろうか?」
「あの、本当に大丈夫なので、本当に」

また吹き出した至さんは本当に制裁(ネット切断)するとして、リビングを見渡せば、お姉ちゃんも居なければ、銭ゲバヤクザも居なかった。キョロキョロしているとたまたま目が合った東さんが、紬、妹ちゃんの心配も分かるけど時間いいの?と言った。それを聞いて隣の紬さんは、リーダー会議があった事を思い出し、臣さんにご飯は後で食べます!と告げて、稽古部屋に行ってしまった。これで、お姉ちゃんが居ない理由は分かった、けど…左京さんは?

「左京さんもリーダー会議出ているんですか?」
「ううん、彼は今出ているよ」
「莇も居ないから、普通に仕事じゃない?」

東さんと九門くんが答えてくれた。確かに左京さんも莇くんも居ない…リーダー会議だから、ネオヤンキーも居ないしお姉ちゃんも席を外している、と。この間に本当に解決策考えないと。ソファに座り、臣さんに出された野菜ジュースを飲みながら考えていると、隣の太一が、名前ちゃん眉間のシワ、すごいっス!と言ってきたので誤魔化すように彼の腕を抓った。

「いっ!」
「今のはワンコが悪いでしょ。確かに名前すっごい顔してるけど」
「太一、心配なのは分かるけれど、女の子にそんなこと言ったらいけないよ」
「でも、名前さん、少し怖いです…」
「確かに!今日名前さんピリピリしてるよね!」

何かあったの?と、夏組の椋くんと九門くんの天使コンビに言われて、ハッ、としたのと同時に視界に入ったパリピとクソエリートを目で牽制すると、言わないよ、とアイコンタクトされ直ぐに目を逸らした。至さんの隣に千景さんも居たけれど、彼は牽制した所で無意味なので溜め息を付いたら、幸せ逃げるよ、とマシュマロ大袋を抱えいつの間にか隣に来た密さんに言われてしまった。差し出されたマシュマロを受け取り口に含むとモゴモゴとした食感とほんのり甘い味がした。お徳用のマシュマロならではの大味である。

「今日どうしたんだ。そんなにカリカリして」
「なんでもないよー」

笑顔を作ったつもりだったが失敗したようだ。追加のご飯を持ってきた臣さんが困った顔をしている。十座さんに至っては自分用のプリンアラモードを差し出して来た。

「じゅ、十座さん、気持ちは嬉しいけど、それは十座さんにって、臣さんが作ったものだからいらないよ」
「甘い物食うと元気出るぞ」
「いや、そうなんだけど、今はいらな…」
「では、名前くんが元気が出るように私が詩を贈ろうか!」
「誉は少し静かにね」

再び溜め息を付くと、辛気臭い、と幸ちゃんに言われたけれど、どんなに思考回路をフル回転させても良い打対策が出ないので、最早素直に叱られた方がいいんじゃないかと思えてきた。
そもそも高校2年生にもなって心配されるのは如何なものかとも思うし、私なんかに心配されなくても大丈夫だと思うけれど。てか、今日課題出てたよねぇ…早くご飯食べてやらなきゃ。あとはそろそろ試験もあるし、そうなったら山本くんが絶対泣きついて来るからそれまでに勉強させて、課題提出させて、明日は朝練あるから早起きして、準備して、研磨くんが血圧下がってて起きないから起こして…って、考える事変わってるし!なんて思い、顔を上げたら、シトロンさんに、名前ハ、情状酌量ダヨ!と言われ、それを聞いた綴さんは情緒不安定かな?と通訳していた。

「アンタ、さっきからずっと百面相してる。綴の修羅場より酷い」

そんな顔してたら監督心配するから早く治して、とか言って来る真澄くんに腹が立った。誰のせいだと…!いや、そもそもこんな事になったのは朝きちんと真澄くんが起きるように春組の皆がちゃんと真澄くん躾ないから…!でもやっぱり私が安易に引き受けたから?いや、同室で忙しい綴さんと今まで頑張ってくれてた咲也くんはさて置き、なんにもして無いくせにゲームばっかりしてる至さんはやっぱり制裁しかないでしょ。じゃないと腹の虫が治まらない!

「…今日確かソシャゲイベントだから絶対WiFi落としてやる」
「え、急にどうしたっスか?」
「やっぱりそこのクソエリートのせいなんだ?」
「やべ、全部こっちに回ってきた。てか、それだとみんな困るんじゃない?」
「千景さん、後で至さんスマホハッキングして、垢BANしてもらっていいですか?」
「死刑宣告!」
「報酬は?」
「先輩止めて…」

ニヤニヤしている千景さんは面白がっているだけなので、きっと垢BANはやらないけれど、牽制にはなったと思う。やり取りを見た周りの皆は、ああ…至さんが犯人かって顔をしている。苦労性なお兄ちゃん属性の綴さんはアンタ何したんスか?と圧をかけていた。そんな中、玄関から声が聞こえ、リビングに入って来た莇くんに九門くんが駆け寄り、おかえりと声を掛けている。私と目が合った途端、アンタ今日なんかした?と言ってきたから再び冷や汗が噴き出した。

「莇、何かあったのか?」
「いや、クソ左京がいつも以上にウザくてな。あと、親父に珍しく何か頼んでいたな」
「そう言えば彼、出て行く時に凄い顔をしていたよ」
「ああ、親父の前でもいつも以上に必死だったな。アイツのあんな顔は大体アンタら姉妹関係だから何かあったのかと思って」

莇くんと誉さんの言葉が右から左へ抜けていく。冷や汗が止まらない。気持ち悪くて今にも倒れそうだ。野菜ジュースのグラスを置くと、名前おかえりなさい、とお姉ちゃんの声がした。リーダー会議が終わった様だ。フラフラしながら立ち上がり万里を睨むと、目を逸らした。いい度胸だ、ネオヤンキー。

「名前、今日はありがとう。大丈夫だった?」
「あ、うん、お姉ちゃん。大丈夫、だ…よ。うん」
「顔色悪いみたいだけれど…」
「本当に大丈夫だよ。じゃあ私課題有るから先に部屋に帰るね」
「おい、どこに行く」

明日は朝練だし、部屋に籠城して銭ゲバヤクザに会わない様にして、解決策出たら何とかしよう。もう今日は逃げたい、と思った矢先、背後からドスの効いた声が聞こえて縮み上がった。ゆっくり後ろを振り返れば、般若が立っていた。おかしい。これ見るの今日2回目…。

「左京さん、おかえりなさい」
「監督さん、ただいま。名前、話がある。こっちに来い」

あ、バレてる。これバレてる。咲也くんと天馬はよく分かってないけど、左京さんが機嫌悪いって事は感じ取ったみたいで、これまたよく分かってない紬さんが2人を連れてリビングへ。万里はそれに便乗しようとしていたけれど、摂津、三好、お前らも来いと、左京さんに言われ、仲良く連行である。万里のバツの悪そうな表情と何かを察したパリピの、あちゃー…と言う声が聞こえ、思いっ切り万里を睨むと、たまたま視界に入った左京さんが私を見て笑ったが、目が全く笑ってなかった。臣さん、さっき飲んだ野菜ジュースを吐いたらごめんね、と思いながら、銭ゲバヤクザの後をついて歩いた。





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