2日目





優生side



監察に新人が入ると聞いて2日。

本当は昨日のうちに挨拶したかったのだけど、最近城下で人身売買の組織が動いているらしく、しかも昨日はその組織の尻尾が掴めそうだと言うことで泣く泣く駆り出された。


「まだ新人君に挨拶が」
「あほ、新人への挨拶とでけぇ山天秤にかけてんじゃねェ。明日しろ」
「これ私じゃなくてもいいじゃないですか。でも挨拶は私がしないと」
「山上のことがンな気になんのか」


この人が、目だけをこちらへ向けてゆっくりと煙を吐く時は、何か言いたいことがある時。
そしてそれを、言えない時。


"何が言いたいんですか?"
そう聞くのは、意地悪するときだけと決めている。


「置いてぼりにされたくないだけです。出来上がった輪に入るの苦手だし」


ちゃんと全部言葉にしてくれなくても、大体考えていることはわかります。




「で、」
「あん?」


今日は張り切って挨拶をしようと思っていたのに


「よりによって、私ですか?」


副長室へ呼ばれて渡されたのは、道着と面で。


「選りすぐって、お前ェだ」
「初対面でいきなり剣を交えろと」
「あいつに顔が割れてねェやつの中から、1番腕の立つ隊士。お前ェだろーが」
「むう」


珍しく褒められた気がするのに、なんだか嬉しくない。

第一印象は大切にしたいタイプなのにぃ。


両頬を膨らませると、筆を走らせていた土方さんがこちらへ向く。


「でけえ山やる前にあいつの剣の腕を確かめとかねェと。何か関係してるかもしんねェ、だろ?」


あやすような優しい声でムニっと頬を摘まれて、


「…わかりました」


それ以外に何が言えるというのだろう。

ずるい人だ。


「総悟と俺と近藤さんが立ち会える日が今日くらいしかなくてよ。5人しかいねェからまあ適当にやれ」


摘んだ手を離して頬を優しく撫でられて、土方さんは無意識なんだろうけど、そんなことされたら妙にやる気が出てしまう。
天人が関わる山の摘発なら、肩慣らししておくか。
それにきっと、幹部と私しか立ち会わないということは、新人が何かを企んでいないのか見極める意味もあるんだろう。

頑張らないと。


……


キョロキョロと辺りを見回しながら入ってきた少年は、拍子抜けするくらい頼りなかったけど、

山上くんは、思っていたよりずっと強かった。
剣の腕だけで言えば、今までここへ入隊してきた隊士の中でも、上から数えた方が早いだろう。

真っ直ぐで、素直で、人を思いやる、読み易い筋ではあるけど、同時に善人な人柄がよく出ている。
ここぞというとき、相手に受け身を取らせようと間ができるのは心配ではあるけど、それはここで暮らすうちに直るものだろう。

なにより、諦めずに何度も何度も向かって来てくれることが、とても嬉しくて楽しかった。

なのに…


「おい、なにやってんだ。いい加減にしろ」


堪え性のない土方さんは待ちくたびれたようで。

頼まれてあげたんだから少しくらい好きにやってもバチは当たらないだろうと思ったのに


「晩飯ぬくぞコラァ」


鬼の考えることは鬼だ。

面を取り、睨むように見つめても、なんてことない顔で見下ろされる。


甘い顔に惑わされて、簡単にわかりましたなんて言ってしまった今朝の自分を浅ましく思う。

んん!
この人がイケメンじゃなかったら絶対、7割り増しで言うこと無視できるのに…!
くそう!!せめてハゲろ!!!


「それにしても夕飯はずるいです」
「”ずるく、せこく、いやらしく”なんだろ?」
「もうちょっと山上くんの素直さ見習ってもいいと思います」
「随分あいつの肩持つじゃねーか、気に入ったか?」


また、目だけで私の方を向く。


「優しすぎて、護ってあげないと死んじゃいそうです」
「確かに、腕の割には人を容易く斬れるタマじゃねェな」


ゆっくりと煙を吐く土方さんは、本当は何を考えているんだろう。

いつも、私の勝手な解釈で返事をしてしまっているけど、


「土方さんに似てますね」
「はァ?」


目を見開いてこちらを向く顔は、実は私が求めている反応をわかってしてくれているのかもしれない。


「優しすぎて、護ってあげないと死んじゃいそうって、昔から思ってますよ?」
「ハッ。実際、鬼の副長たる俺を護れるだけの実力があるからこえーよ」


ま、"何が言いたいんですか?"そう聞かないでおいてあげてるんだし、勝手に都合よく受け取っておいてもいいよね。


もしも違っていても、
ゆっくり煙を吐くあなたの口元は笑っていることにしますし、私が山上君の話をすると少し拗ねることにします。
あなたの方が大切だと伝えると、満足気な顔をしていることにもしちゃいます。


そんでもって、ポケットに突っ込まれた腕を勝手に組んだりしておきます。


「随分仲良しですねィ。いつの間により戻したんですかィ」
「ぶあ!!」
「あっっつ!」


あ、油断した。
慌てて土方さんを突き飛ばすと、タバコが落ちたと怒られる。


「総悟くん、寝てたんじゃないの?!」
「あっぶねーだろォが!」
「また姐さんと呼びやしょうか」


あなたの考えていることは大体わかる。
つもり、なだけかもしれない。


「ふざけたこと言ってんじゃねェよ」
「いやぁ、姐さんは照れるな」
「照れんな!呼ばれねェから!」
「土方さんが1番照れてるように見えやすけど」
「総悟ォ!」
「あ、ちょ、土方さん!」


刀に手をかける土方さんの手を必死で抑えると、


「さすが姐さん」


呑気に手をひらひらさせながら走り去って行く総悟くん。
まあ斬りたくなる気持ちも少しだけわかりますけど。


わかっている"つもり"だったとしても。

袖口を少し摘んでいる間、タバコに火をつけないでいてくれたら誰だって、


「「まったく」」


嬉…勘違いしちゃいます。

嫌じゃないって、わかった気になっちゃいます。


「罪な男ですね」
「なんだソレ」


監察日記- Another side-
2日目





優生side



監察に新人が入ると聞いて2日。

本当は昨日のうちに挨拶したかったのだけど、最近城下で人身売買の組織が動いているらしく、しかも昨日はその組織の尻尾が掴めそうだと言うことで泣く泣く駆り出された。


「まだ新人君に挨拶が」
「あほ、新人への挨拶とでけぇ山天秤にかけてんじゃねェ。明日しろ」
「これ私じゃなくてもいいじゃないですか。でも挨拶は私がしないと」
「山上のことがンな気になんのか」


この人が、目だけをこちらへ向けてゆっくりと煙を吐く時は、何か言いたいことがある時。
そしてそれを、言えない時。


"何が言いたいんですか?"
そう聞くのは、意地悪するときだけと決めている。


「置いてぼりにされたくないだけです。出来上がった輪に入るの苦手だし」


ちゃんと全部言葉にしてくれなくても、大体考えていることはわかります。




「で、」
「あん?」


今日は張り切って挨拶をしようと思っていたのに


「よりによって、私ですか?」


副長室へ呼ばれて渡されたのは、道着と面で。


「選りすぐって、お前ェだ」
「初対面でいきなり剣を交えろと」
「あいつに顔が割れてねェやつの中から、1番腕の立つ隊士。お前ェだろーが」
「むう」


珍しく褒められた気がするのに、なんだか嬉しくない。

第一印象は大切にしたいタイプなのにぃ。


両頬を膨らませると、筆を走らせていた土方さんがこちらへ向く。


「でけえ山やる前にあいつの剣の腕を確かめとかねェと。何か関係してるかもしんねェ、だろ?」


あやすような優しい声でムニっと頬を摘まれて、


「…わかりました」


それ以外に何が言えるというのだろう。

ずるい人だ。


「総悟と俺と近藤さんが立ち会える日が今日くらいしかなくてよ。5人しかいねェからまあ適当にやれ」


摘んだ手を離して頬を優しく撫でられて、土方さんは無意識なんだろうけど、そんなことされたら妙にやる気が出てしまう。
天人が関わる山の摘発なら、肩慣らししておくか。
それにきっと、幹部と私しか立ち会わないということは、新人が何かを企んでいないのか見極める意味もあるんだろう。

頑張らないと。


……


キョロキョロと辺りを見回しながら入ってきた少年は、拍子抜けするくらい頼りなかったけど、

山上くんは、思っていたよりずっと強かった。
剣の腕だけで言えば、今までここへ入隊してきた隊士の中でも、上から数えた方が早いだろう。

真っ直ぐで、素直で、人を思いやる、読み易い筋ではあるけど、同時に善人な人柄がよく出ている。
ここぞというとき、相手に受け身を取らせようと間ができるのは心配ではあるけど、それはここで暮らすうちに直るものだろう。

なにより、諦めずに何度も何度も向かって来てくれることが、とても嬉しくて楽しかった。

なのに…


「おい、なにやってんだ。いい加減にしろ」


堪え性のない土方さんは待ちくたびれたようで。

頼まれてあげたんだから少しくらい好きにやってもバチは当たらないだろうと思ったのに


「晩飯ぬくぞコラァ」


鬼の考えることは鬼だ。

面を取り、睨むように見つめても、なんてことない顔で見下ろされる。


甘い顔に惑わされて、簡単にわかりましたなんて言ってしまった今朝の自分を浅ましく思う。

んん!
この人がイケメンじゃなかったら絶対、7割り増しで言うこと無視できるのに…!
くそう!!せめてハゲろ!!!


「それにしても夕飯はずるいです」
「”ずるく、せこく、いやらしく”なんだろ?」
「もうちょっと山上くんの素直さ見習ってもいいと思います」
「随分あいつの肩持つじゃねーか、気に入ったか?」


また、目だけで私の方を向く。


「優しすぎて、護ってあげないと死んじゃいそうです」
「確かに、腕の割には人を容易く斬れるタマじゃねェな」


ゆっくりと煙を吐く土方さんは、本当は何を考えているんだろう。

いつも、私の勝手な解釈で返事をしてしまっているけど、


「土方さんに似てますね」
「はァ?」


目を見開いてこちらを向く顔は、実は私が求めている反応をわかってしてくれているのかもしれない。


「優しすぎて、護ってあげないと死んじゃいそうって、昔から思ってますよ?」
「ハッ。実際、鬼の副長たる俺を護れるだけの実力があるからこえーよ」


ま、"何が言いたいんですか?"そう聞かないでおいてあげてるんだし、勝手に都合よく受け取っておいてもいいよね。


もしも違っていても、
ゆっくり煙を吐くあなたの口元は笑っていることにしますし、私が山上君の話をすると少し拗ねることにします。
あなたの方が大切だと伝えると、満足気な顔をしていることにもしちゃいます。


そんでもって、ポケットに突っ込まれた腕を勝手に組んだりしておきます。


「随分仲良しですねィ。いつの間により戻したんですかィ」
「ぶあ!!」
「あっっつ!」


あ、油断した。
慌てて土方さんを突き飛ばすと、タバコが落ちたと怒られる。


「総悟くん、寝てたんじゃないの?!」
「あっぶねーだろォが!」
「また姐さんと呼びやしょうか」


あなたの考えていることは大体わかる。
つもり、なだけかもしれない。


「ふざけたこと言ってんじゃねェよ」
「いやぁ、姐さんは照れるな」
「照れんな!呼ばれねェから!」
「土方さんが1番照れてるように見えやすけど」
「総悟ォ!」
「あ、ちょ、土方さん!」


刀に手をかける土方さんの手を必死で抑えると、


「さすが姐さん」


呑気に手をひらひらさせながら走り去って行く総悟くん。
まあ斬りたくなる気持ちも少しだけわかりますけど。


わかっている"つもり"だったとしても。

袖口を少し摘んでいる間、タバコに火をつけないでいてくれたら誰だって、


「「まったく」」


嬉…勘違いしちゃいます。

嫌じゃないって、わかった気になっちゃいます。


「罪な男ですね」
「なんだソレ」



- 1 -


*前 次#

戻る
好きだけじゃやってけない