2日目



2日目。

山崎さんに監察の仕事や屯所内での仕事を教えてもらい、そろそろ日暮れという頃、沖田さんに呼び出された。
廊下へでると心なしか隊士たちがざわついている気がした。


「これに着替えな」


ある建物の前で沖田さんが白い塊を投げる。

着替えてみると道着だった。
そのまま扉を開けると、


「おっ、主役のおでましだ!」
「あれが新人か」
「大丈夫か?あんなんで」


両脇にたくさんの隊士と…中心に沖田さん、土方副長、近藤局長に、剣道面をかぶり座る人。

…どういうことだろう。

とりあえず、周りの隊士から飛んでくる野次に、さっき感じた騒がしさはこれのせいだろうと思うけど…


「取り込み中にすまんなぁ、今日しか時間が合わないようでな」
「あの、これは…?」
「え?総悟、話してないの?!」
「あーすいやせん。忘れてやしたー」


沖田さんが明らかな嘘をつく。


「時間がねェ、とっとと始めるぞ。山上、こいつに勝ったら今日から正式に入隊だ。負けたら1週間仮のままだ。お前ェの剣の腕をみさしてもらう」


なるほど。
入隊テストか。


「本当は5人で済ませるつもりだったんだが…」


頭をかきながら”なんでか噂が広まって…”という近藤局長の隣の隣に犯人がいるような気が。


ゆっくりと床に置いてある木刀を手にすると、場の空気がしんとする。
目の前にいる僕のお相手も静かに礼をして木刀を手にする。

真撰組の人たちがどれくらい強いのか…もしかしたら最初の一太刀で飛ばされてしまうかも、一瞬考えて指先に力をこめる。


「始め!」
「ヤァァァァァ!!」


土方副長の声とともに木刀のぶつかる音が忙しなく場内にこだまする。


……


どれくらい時間が経っただろう。


「ハァハァ」


こんなに長時間剣を握っているのは初めてで、正直きつい。
が、なかなか互角に戦えていると思う。
もちろん、相手は面をつけていて視界は狭いし、呼吸も浅い上で、だけど。
相手がわかって気兼ねしないように面をつけているのかと思ったけど、ちょうどいいハンデになっている。


「おい、なにやってんだ」


黙って見ていた土方副長が口を開く。


「いい加減にしろ」


決着がつかないことに苛立っているのだろうか。
そうは言ってもさっきから、ここだと思って攻めてもかわされてしまう。


「いつまで茶番してんだ、優生」
「え…、…優生?」
「晩飯ぬくぞコラァ」


右半身に風が通り過ぎたと思ったら、


「ウッ……」


腹に鈍い痛みが走り、カランと木刀の落ちる音がする。


「決着、ついたようだな」
「ぇ……」


近藤局長の声で、周りの隊士が散り始める。
ちなみに沖田隊長は寝ている。

負けた。
自分がどんな負け方をしたのかもわからないくらい、一瞬で。
互角だった、はず、なのに。


丁寧に礼をされて、追いかけるように慌てて頭を下げると”遅ェ”と土方副長の声がする。

どんな人なのだろう…、恐る恐る顔をあげる。


土方副長の方を見ながら面を取ったその人は、


「……おん、な…?」


紛れもなく、女、だった。

そういえば少し前、真選組に女隊士がいると噂になったことがあった。
男所帯のゴリゴリ体育会系の真選組に女が入るなんて無理だ、そもそも鬼の副長が許すわけがないとすぐに消えてしまったけど。
まさか本当に…


「あ、山上くん、だっけ?一番隊所属、優生と申します」


ペコリ、という音がぴったりなお辞儀をしたその人は、とても先程まで剣を交えていた相手とは思えない。


「昔習ったことがあるけどその後は独学で、大人になると共に癖が入って筋がぐちゃぐちゃになってるって感じかな。まあここでは筋なんて関係ないからいいんだけど。君はもっと、人の揚げ足とって、隙、弱味を突いて、”ずるく、せこく、いやらしく”を学ばないと。今頃身体、真っ二つだよ」
"ここはお手本ばっかりだからたくさん学びなー"

淡々としながら、その言葉は的確だった。


「はい、ありがとうございますっ!」


ここには可愛い顔をしてどえらいことを言う人が2人もいるのか、そう思いながら頭をさげる。


「5分で済んだろ」
「だってあんなに相手してくれる人、久々ですもん」
「いるだろ、総悟とか」
「総悟くんは面倒がってしてくれないし、近藤さんは全裸だし、どこかの鬼さんはデスクワークでお忙しいじゃないですか」
「お前が無駄に時間かけるから今日も徹夜」
「それにしても夕飯はずるいです」
「”ずるく、せこく、いやらしく”なんだろ?」


優生さんと土方副長の話し声を背中に聞いていると、むくりと沖田さんが起き上がる。


「思ってたよりは骨がありやしたねィ」
「あ…」
「あいつが今、どのくらいの力でやってたかわかりやすかィ」
「え…っと。」


ハンデがあったけど、何度か優勢になったし


「8割、くらいですか」
「2割。面をつけて2割」
「っ…!」
「時にはわざと隙を見せて相手の出方を図る、負けそうになって必死こいてる時より、優勢だと思ってる時の方が判断力は鈍るし隙もできるってわけでさァ」


僕の剣をかわしながら、わざと8割に見えるようにしていた…


「ここで女が働くたァそういうことでさァ。それなりに剣術の習いがある男相手に息一つ乱さねェ」
「っ!」


そういえば、僕が呼吸を整えている間、優生さんは土方副長と話して僕にアドバイスを…って、


「沖田さん、ずっと起きてたんですか?」
「今日のテストは、女に負けて面子つぶれてテメェからここを出て行くって言い出すのを狙ってのもんでィ。まぁお前ェには効果なかったみたいだけど」


ゆっくり伸びをしながらダルそうに道場を出て行く沖田さんの背中に問いかける。


「あのっ!どうしてそんな、僕が落ち込まないと意味がないはずなのに」


慰めではないけど、きっと僕に言う必要のないことを言ってくれてる。


「勘違いすんな、野郎の思い通りになんのがつまんねェだけ」



ーーーーー”今からンな力入ってっともたねェぞ”



ここの人たちは、
不器用で、天邪鬼で、強くて、きっと優しい。


「変なところに来ちゃったかなぁ」


床に置かれた2本の木刀を片付けようと手にとって、重さの違いに1人自嘲した。



監察日記
2日目



2日目。

山崎さんに監察の仕事や屯所内での仕事を教えてもらい、そろそろ日暮れという頃、沖田さんに呼び出された。
廊下へでると心なしか隊士たちがざわついている気がした。


「これに着替えな」


ある建物の前で沖田さんが白い塊を投げる。

着替えてみると道着だった。
そのまま扉を開けると、


「おっ、主役のおでましだ!」
「あれが新人か」
「大丈夫か?あんなんで」


両脇にたくさんの隊士と…中心に沖田さん、土方副長、近藤局長に、剣道面をかぶり座る人。

…どういうことだろう。

とりあえず、周りの隊士から飛んでくる野次に、さっき感じた騒がしさはこれのせいだろうと思うけど…


「取り込み中にすまんなぁ、今日しか時間が合わないようでな」
「あの、これは…?」
「え?総悟、話してないの?!」
「あーすいやせん。忘れてやしたー」


沖田さんが明らかな嘘をつく。


「時間がねェ、とっとと始めるぞ。山上、こいつに勝ったら今日から正式に入隊だ。負けたら1週間仮のままだ。お前ェの剣の腕をみさしてもらう」


なるほど。
入隊テストか。


「本当は5人で済ませるつもりだったんだが…」


頭をかきながら”なんでか噂が広まって…”という近藤局長の隣の隣に犯人がいるような気が。


ゆっくりと床に置いてある木刀を手にすると、場の空気がしんとする。
目の前にいる僕のお相手も静かに礼をして木刀を手にする。

真撰組の人たちがどれくらい強いのか…もしかしたら最初の一太刀で飛ばされてしまうかも、一瞬考えて指先に力をこめる。


「始め!」
「ヤァァァァァ!!」


土方副長の声とともに木刀のぶつかる音が忙しなく場内にこだまする。


……


どれくらい時間が経っただろう。


「ハァハァ」


こんなに長時間剣を握っているのは初めてで、正直きつい。
が、なかなか互角に戦えていると思う。
もちろん、相手は面をつけていて視界は狭いし、呼吸も浅い上で、だけど。
相手がわかって気兼ねしないように面をつけているのかと思ったけど、ちょうどいいハンデになっている。


「おい、なにやってんだ」


黙って見ていた土方副長が口を開く。


「いい加減にしろ」


決着がつかないことに苛立っているのだろうか。
そうは言ってもさっきから、ここだと思って攻めてもかわされてしまう。


「いつまで茶番してんだ、優生」
「え…、…優生?」
「晩飯ぬくぞコラァ」


右半身に風が通り過ぎたと思ったら、


「ウッ……」


腹に鈍い痛みが走り、カランと木刀の落ちる音がする。


「決着、ついたようだな」
「ぇ……」


近藤局長の声で、周りの隊士が散り始める。
ちなみに沖田隊長は寝ている。

負けた。
自分がどんな負け方をしたのかもわからないくらい、一瞬で。
互角だった、はず、なのに。


丁寧に礼をされて、追いかけるように慌てて頭を下げると”遅ェ”と土方副長の声がする。

どんな人なのだろう…、恐る恐る顔をあげる。


土方副長の方を見ながら面を取ったその人は、


「……おん、な…?」


紛れもなく、女、だった。

そういえば少し前、真選組に女隊士がいると噂になったことがあった。
男所帯のゴリゴリ体育会系の真選組に女が入るなんて無理だ、そもそも鬼の副長が許すわけがないとすぐに消えてしまったけど。
まさか本当に…


「あ、山上くん、だっけ?一番隊所属、優生と申します」


ペコリ、という音がぴったりなお辞儀をしたその人は、とても先程まで剣を交えていた相手とは思えない。


「昔習ったことがあるけどその後は独学で、大人になると共に癖が入って筋がぐちゃぐちゃになってるって感じかな。まあここでは筋なんて関係ないからいいんだけど。君はもっと、人の揚げ足とって、隙、弱味を突いて、”ずるく、せこく、いやらしく”を学ばないと。今頃身体、真っ二つだよ」
"ここはお手本ばっかりだからたくさん学びなー"

淡々としながら、その言葉は的確だった。


「はい、ありがとうございますっ!」


ここには可愛い顔をしてどえらいことを言う人が2人もいるのか、そう思いながら頭をさげる。


「5分で済んだろ」
「だってあんなに相手してくれる人、久々ですもん」
「いるだろ、総悟とか」
「総悟くんは面倒がってしてくれないし、近藤さんは全裸だし、どこかの鬼さんはデスクワークでお忙しいじゃないですか」
「お前が無駄に時間かけるから今日も徹夜」
「それにしても夕飯はずるいです」
「”ずるく、せこく、いやらしく”なんだろ?」


優生さんと土方副長の話し声を背中に聞いていると、むくりと沖田さんが起き上がる。


「思ってたよりは骨がありやしたねィ」
「あ…」
「あいつが今、どのくらいの力でやってたかわかりやすかィ」
「え…っと。」


ハンデがあったけど、何度か優勢になったし


「8割、くらいですか」
「2割。面をつけて2割」
「っ…!」
「時にはわざと隙を見せて相手の出方を図る、負けそうになって必死こいてる時より、優勢だと思ってる時の方が判断力は鈍るし隙もできるってわけでさァ」


僕の剣をかわしながら、わざと8割に見えるようにしていた…


「ここで女が働くたァそういうことでさァ。それなりに剣術の習いがある男相手に息一つ乱さねェ」
「っ!」


そういえば、僕が呼吸を整えている間、優生さんは土方副長と話して僕にアドバイスを…って、


「沖田さん、ずっと起きてたんですか?」
「今日のテストは、女に負けて面子つぶれてテメェからここを出て行くって言い出すのを狙ってのもんでィ。まぁお前ェには効果なかったみたいだけど」


ゆっくり伸びをしながらダルそうに道場を出て行く沖田さんの背中に問いかける。


「あのっ!どうしてそんな、僕が落ち込まないと意味がないはずなのに」


慰めではないけど、きっと僕に言う必要のないことを言ってくれてる。


「勘違いすんな、野郎の思い通りになんのがつまんねェだけ」



ーーーーー”今からンな力入ってっともたねェぞ”



ここの人たちは、
不器用で、天邪鬼で、強くて、きっと優しい。


「変なところに来ちゃったかなぁ」


床に置かれた2本の木刀を片付けようと手にとって、重さの違いに1人自嘲した。




- 2 -


*前 次#

戻る
好きだけじゃやってけない