3日目




朝。


僕は少しだけ早起きしてお茶を注いでいる。


コンコンッ


「おはようございます!優生さん、お茶持ってきました!」


ガラッ


「…」


理由は、扉を開けて寝ぼけながら僕を見下ろしているこの人に、”あるお願い”をするため。


「お茶、飲みませんか?」
「…のむ」
「どうぞ!」
「ども…。」
「はい!」
「あの、……」
「はい!」
「えっと……入る?」
「はい!」
「あ、だよね、湯のみ2つだもんね、はい、どうぞ」


机の上を片付けてくれる優生さんは、何故だろう、少年のように見える。
髪が短くても隊服を着ていても、隠せないはずの女性らしさがないと言うか…


「それで、どしたの」
「あ、はい!単刀直入に、弟子にしてください!」


”あるお願い”
それは、弟子にしてもらうこと。


「……ん?」
「弟子にしてください!」
「誰が」
「僕が」
「誰の」
「優生さんの弟子に!」
「……君監察だよね?」
「はい!」
「山崎くんに頼むべきでは」
「あ。」


山崎さんの存在をすっかりわす…いや、


「昨日気づいたんです。土方副長に認められている優生さんに稽古をつけてもらえれば、僕も早くみなさんに近づける」
「副長は別に私を認めてなんか」
「いや、あなたがここにいるということは、すなわちそういうことだと沖田さんに教えてもらいました」
「また適当なことを…」


ズズズッとお茶を飲み干した優生さんは眠そうに伸びをして、


「これは単なる疑問なんだけど、君は何のために戦うの?どうして強くなりたいの?」
”ごちそうさま。朝ご飯行くよー”


丁寧に両手を合わせて部屋を出て行った。


……



「何のために、」
「ん?なんか言った?」
「あ、なんでもないです」


山崎さんと見廻りに出ながら、今朝、優生さんに言われたことを考えている。


「誰のために、」
「どうかした?」
「いや、なんでもないです」


昼食を食べながら、優生さんに言われたことを考える。


「何のために…」
「山上くん?」
「あ、いや…」


僕は…


ーーーーーーーーーー


「おめぇなんでそんなよえーんだよ!」
「だって、当たったら痛いじゃん!」
「侍が聞いて呆れる!俺が教えてやるよ!」
「やめてよ!痛いよ!」


僕はよわい。
ぶたれるのも、切られるのも、こわい。
だから道場でも、人に当たる前に力をぬいてしまう。


「弱い者いじめかァ?侍が聞いて呆れる」


沈もうとしている太陽の方から声がした。

僕をぶっていた子達の服を掴み上げ、僕たちを見下ろしているその人の顔は、影になっていて見えない。


「なんだよ!はなせよ!」
「俺たちはこいつに剣術を教えてやってんだよ!」


僕はあんなに痛いのに、その人は木刀で叩かれてもビクともしない。


「お前ェらの道場じゃあ、剣術ってのは弱ェやつを囲んで袋叩きにすることだと教わんのか」
"そんな道場しょっぴかねェと"


そう言いながら服を離されたいじめっ子は、ポイっと僕の横に尻餅をついた。


「お前ェもベソかいてねェで、しゃんと握ってろ」


僕の傍にあった木刀を拾い上げると、いじめっ子達の頭をコンコンと叩いて僕に差し出す。


「いってぇ!」


涙目になってその人を見上げているいじめっ子達を見たら、なんだ僕と変わらないじゃないかという気になって。


大きな手で僕たちの頭をくしゃくしゃと撫で、立ち去るその人の後を追いかけて


「ぼ、僕、侍になりたい!」


思わず叫ぶと、


「攘夷派にはなんなよ、仕事が増える」


太陽に照らされたその人の顔は最後まで見えなかったけど、キラキラと輝く黒い制服に僕は心を奪われた。


ーーーーーーーーーー



何のために戦うのか、どうして強くなりたいのか…

僕はただあの時のあの人のようになりたくて、そのために強くなりたくて…


少しだけ、期待していた。
あの人がここにいるんじゃないかって。
僕のことを覚えているんじゃないかって。

でも顔はわからないし、声も忘れてしまって、背丈は僕が成長した分、随分曖昧な手がかりになってしまった。

一言お礼が言いたかったけど、それよりもここに来た以上、例え直接見せられずとも胸を張って侍だと言えるようになりたい。



「僕は、」
「ひっ…!!」
「あ、山崎さん、どうしたんですか」
「え、あ、いいいいいいや、なんでもないよ」
「はぁ…」


カタカタと震えている山崎さんと見廻り中。


「あ、旦那ァ!」


山崎さんが立ち止まったことに気づかずに角を曲がった僕は、


「やめてください!離してください!」
「騒ぐな!ぶっ殺されてーか!」
「っ!」


誘拐現場を目撃してしまった。


「何をしている!」


刀を握りしめ、気がついたときには言葉を発していたけど、よくよく考えれば公務で外に出るのは初めてで。


「あぁ?んだあんちゃん」
「その制服…真選組か?!」
「ちっ、面倒なのに見られちまったな」


刀を抜いた浪士2人組がこちらに向かってくる。


「山崎さんっ!」


右を向いて、初めて自分が1人だということに気づいても、もう遅い。


「オラァ!」


1人目の剣を交わした先に、しまった…もう1人。


「ウッ……」


生ぬるい液体がスッと顔を流れる感覚がして、目の前が赤くなり、僕は意識を手放した。





監察日記
3日目




朝。


僕は少しだけ早起きしてお茶を注いでいる。


コンコンッ


「おはようございます!優生さん、お茶持ってきました!」


ガラッ


「…」


理由は、扉を開けて寝ぼけながら僕を見下ろしているこの人に、”あるお願い”をするため。


「お茶、飲みませんか?」
「…のむ」
「どうぞ!」
「ども…。」
「はい!」
「あの、……」
「はい!」
「えっと……入る?」
「はい!」
「あ、だよね、湯のみ2つだもんね、はい、どうぞ」


机の上を片付けてくれる優生さんは、何故だろう、少年のように見える。
髪が短くても隊服を着ていても、隠せないはずの女性らしさがないと言うか…


「それで、どしたの」
「あ、はい!単刀直入に、弟子にしてください!」


”あるお願い”
それは、弟子にしてもらうこと。


「……ん?」
「弟子にしてください!」
「誰が」
「僕が」
「誰の」
「優生さんの弟子に!」
「……君監察だよね?」
「はい!」
「山崎くんに頼むべきでは」
「あ。」


山崎さんの存在をすっかりわす…いや、


「昨日気づいたんです。土方副長に認められている優生さんに稽古をつけてもらえれば、僕も早くみなさんに近づける」
「副長は別に私を認めてなんか」
「いや、あなたがここにいるということは、すなわちそういうことだと沖田さんに教えてもらいました」
「また適当なことを…」


ズズズッとお茶を飲み干した優生さんは眠そうに伸びをして、


「これは単なる疑問なんだけど、君は何のために戦うの?どうして強くなりたいの?」
”ごちそうさま。朝ご飯行くよー”


丁寧に両手を合わせて部屋を出て行った。


……



「何のために、」
「ん?なんか言った?」
「あ、なんでもないです」


山崎さんと見廻りに出ながら、今朝、優生さんに言われたことを考えている。


「誰のために、」
「どうかした?」
「いや、なんでもないです」


昼食を食べながら、優生さんに言われたことを考える。


「何のために…」
「山上くん?」
「あ、いや…」


僕は…


ーーーーーーーーーー


「おめぇなんでそんなよえーんだよ!」
「だって、当たったら痛いじゃん!」
「侍が聞いて呆れる!俺が教えてやるよ!」
「やめてよ!痛いよ!」


僕はよわい。
ぶたれるのも、切られるのも、こわい。
だから道場でも、人に当たる前に力をぬいてしまう。


「弱い者いじめかァ?侍が聞いて呆れる」


沈もうとしている太陽の方から声がした。

僕をぶっていた子達の服を掴み上げ、僕たちを見下ろしているその人の顔は、影になっていて見えない。


「なんだよ!はなせよ!」
「俺たちはこいつに剣術を教えてやってんだよ!」


僕はあんなに痛いのに、その人は木刀で叩かれてもビクともしない。


「お前ェらの道場じゃあ、剣術ってのは弱ェやつを囲んで袋叩きにすることだと教わんのか」
"そんな道場しょっぴかねェと"


そう言いながら服を離されたいじめっ子は、ポイっと僕の横に尻餅をついた。


「お前ェもベソかいてねェで、しゃんと握ってろ」


僕の傍にあった木刀を拾い上げると、いじめっ子達の頭をコンコンと叩いて僕に差し出す。


「いってぇ!」


涙目になってその人を見上げているいじめっ子達を見たら、なんだ僕と変わらないじゃないかという気になって。


大きな手で僕たちの頭をくしゃくしゃと撫で、立ち去るその人の後を追いかけて


「ぼ、僕、侍になりたい!」


思わず叫ぶと、


「攘夷派にはなんなよ、仕事が増える」


太陽に照らされたその人の顔は最後まで見えなかったけど、キラキラと輝く黒い制服に僕は心を奪われた。


ーーーーーーーーーー



何のために戦うのか、どうして強くなりたいのか…

僕はただあの時のあの人のようになりたくて、そのために強くなりたくて…


少しだけ、期待していた。
あの人がここにいるんじゃないかって。
僕のことを覚えているんじゃないかって。

でも顔はわからないし、声も忘れてしまって、背丈は僕が成長した分、随分曖昧な手がかりになってしまった。

一言お礼が言いたかったけど、それよりもここに来た以上、例え直接見せられずとも胸を張って侍だと言えるようになりたい。



「僕は、」
「ひっ…!!」
「あ、山崎さん、どうしたんですか」
「え、あ、いいいいいいや、なんでもないよ」
「はぁ…」


カタカタと震えている山崎さんと見廻り中。


「あ、旦那ァ!」


山崎さんが立ち止まったことに気づかずに角を曲がった僕は、


「やめてください!離してください!」
「騒ぐな!ぶっ殺されてーか!」
「っ!」


誘拐現場を目撃してしまった。


「何をしている!」


刀を握りしめ、気がついたときには言葉を発していたけど、よくよく考えれば公務で外に出るのは初めてで。


「あぁ?んだあんちゃん」
「その制服…真選組か?!」
「ちっ、面倒なのに見られちまったな」


刀を抜いた浪士2人組がこちらに向かってくる。


「山崎さんっ!」


右を向いて、初めて自分が1人だということに気づいても、もう遅い。


「オラァ!」


1人目の剣を交わした先に、しまった…もう1人。


「ウッ……」


生ぬるい液体がスッと顔を流れる感覚がして、目の前が赤くなり、僕は意識を手放した。






- 3 -


*前 次#

戻る
好きだけじゃやってけない