デートの待ち合わせ、集合場所で待ってる彼を出来心でナンパする
【りんね】
「お兄さんかっこいいね、待ち合わせ中?LINEやってる?」ナンパみたいな声のかけ方をしたのは出来心だった。何回か前のデートの時に、燐音くんに同じような事をされたから軽いノリのような気持ちだったのだけれど。視線を落としていた燐音くんは、声をかけたのが私だと気づいていないのか困ったように「あー…」と声を漏らしている。「いや、待ち合わせしてて、連絡先とかはちょっと…、って……きゃはは!なに?オネーサン、俺っちと遊んでくれンの?」落ち着いた声色で話す彼に、これがよそ行き燐音くんか…なんて思ったのも束の間。ゆるりと顔を上げた彼は私の姿を捉えると、にやりと口角をあげた。軽口を叩く彼に、反応で遊ばれてると分かりながらも、返す言葉を考えていなかったために、ただ「うぐ…」と単語にもならない言葉を漏らすことしかできない。「…燐音くん、どんなにかわいい女の子が来てもナンパにノっちゃだめだよ。思わせぶりなことしてもだめだからね」「ノるわけねーっしょ。俺っちがカワイイ彼女一筋ってことはお前が一番分かってると思うんだけどなァ?」私の顔を覗き込むようにしてそう言った彼の言葉に私はまた何も言えなくなって、ぐぅ…と唸り声をあげる。わかってますよ、愛されてる自覚大アリですもん。
【こはく】
「待ち合わせとるからほか当たって…ってなんや、ぬしはんかいな」「えぇーっ、もうちょっとのってきてよぉ!」「…何でやねん、ぬしはんはわしに何を求めとるんじゃ」ちょっとだけこはくくんをからかっちゃおうかな、なんて悪戯心から、集合場所で先に待ってくれていた彼にナンパのような声のかけ方をした。こんなふざけたことをしたら「ほんまに何しとんねん」って怒られるんだろうなぁと分かっていたけど、どんな反応してくれるのだろうと高まっていく好奇心は、後々叱られることと天秤にかけてもどうしても静まってくれそうになかった。こはくくんはナンパに対して不慣れで、結構焦ってくれるんじゃないかなぁなんて思ってたんだけど、声をかけても彼の表情は崩れることもなく思った以上に冷静で、つまらないくらいにあっさりとかわされてしまった。「…ふふ、」「なんじゃ、いきなり笑って」「私が声かける時はこはくくんいっつも笑顔だから、今日ちょっと新鮮だった」「…やかましい。ほんまに紛らわしいことすんな」「はぁい、ごめんごめん」いつも「待ってへんよ」とか「ほな、行こか」とか柔らかな表情で言ってくれる彼だけど、それは私だからなんだね。私って特別なのかも…なんて思い上がってしまうこと、今日くらいは許してよ。
【ひめる(俺)】
「ねぇねぇそこのおにーさん!あのぉ、ちょっと、おにーさん?お、おに…ひめるくん…」「おや、貴女でしたか。気づかずにすみません」「ガン無視じゃん」「貴女だと思わなかったので」デートの待ち合わせで先に集合場所で待っていた彼にナンパみたいな声のかけ方をしてみた。特に深い意味はなかったのだけれど、なんとなくいつもと違うような感じにしてみたいなと思ってのことだった。彼から何かしらのアクションがあるまでこのスタンスを貫こうと思っていたのだけれど、いつまでたっても一言も言葉を返してくれそうにない彼に私の心が先に折れた。絶対聞こえているはずなのにスマートフォンから少しも顔を上げなかった彼に、私以外の人間と果たして上手くやっていけているのだろうかという謎の不安が湧き上がる。「ひめるくん、もうちょい愛想よくしときな?」「ナンパ相手にですか?」「あっ…。んー、それはやっぱそのままでいいや」「俺のことをどう心配しているのか知りませんが、こういったこと以外には普通に応対しています」「ふふ、じゃあOKです」「はい、では行きましょうか」「はーい」さっきとはうって変わって、笑みを浮かべながら彼は私の手をとる。集合場所に来て、こうして優しく迎えられるのは私だけでいいや。
【にき】
「申し訳ないんすけど彼女待ってるんで〜…って、あー!君だったんすか!もうびっくりしたぁ」緩い口調だけど、確かな拒絶。ナンパされると困って慌てるんじゃないかという私の予想とは少し違う結果になった。予想外な結果にぼけーっとする私に気づいてるのか、いないのか、先程のことなんて1ミリも気にしていない様子の彼は、私の手を引きながら本日のデートプランに組み込まれているカフェの話をしていた。軽く返事を返しながら、さっき声をかけた時の彼を思い出してみる。いつも私に向ける笑顔とはちょっと違ってたかもとか、話す態度も声色も私の時とはなんとなく違ってた気がする、なんて色々考えると頬が緩んだ。なかでも一番、彼の口から『彼女』という言葉が出てきたのがたまらなく嬉しかった。彼は関係性に名前をつけることにあまり頓着が無さそうだと感じていたし、この関係も友達の延長線上なのかもしれないと思っていたから、はっきりと言葉にしてくれたことに喜びを隠しきれなかった。「えへへ…」「ん〜?嬉しそうな顔してどうしたんすか?」「彼女待ってるって言ってたのがなんかうれしくて」「え?だって彼女でしょ」「んふふ、そうだね。私はニキくんの彼女で、ニキくんは私の彼氏だもんね」「うんうん、僕は君の彼氏っすよ。なので、僕以外には気軽に声かけないこと!」「ニキくん以外にはこんなことしないよ」こうした和やかなやり取りができる女の子は私だけなのかな、そうだったら嬉しいなぁ。