学パロ
【りんね】
「なァ、教科書見してくんね?」「またぁ?」何度目かも分からないそのお願いに呆れて思わずため息を零す。ため息をつかれた当の本人は大して気にしていないのか、いつもの調子でヘラリと笑っていた。度重なる教科書忘れで先生からいい加減怒られそうなのだから、本当に反省してもらいたいところである。「…天城くんさぁ」「なんだよ」「前までこんな教科書忘れてた?」反省してほしいとは言ったものの、根がめちゃくちゃ真面目な天城くんは、ちゃんと学習用具を揃えて授業を受けているイメージがあったし、忘れ物をしても他のクラスの人に借りていたように思う。それが、ここ最近になってよく忘れ物をしたまま、ギリギリになって私に『教科書見せて』ってお願いをして授業を受けていたから気になっていたのだ。「ねぇ、きこえてる?」「…なんでンな事聞くんだよ」「本当は忘れ物なんてしてないんじゃないかなって思ったから」「変な憶測やめろっての」「はいはい、ごめんね」ほんの少しだけ彼の目が泳ぐ。居心地の悪そうなそんな顔。天城くんが本当はどう思ってるのかはわからないけど、持ってきてる教科書、隠すならもう少し上手に隠したほうがいいんじゃないかな。机の中から見えちゃってるよ。…ねぇ天城くん。ちゃんと言葉にしてほしいって思うのはわがままなのかな。こんなの私、自惚れちゃうよ。
【にき】
「はぁ、席替えしたくないっす」「ふふ、そうだね」ぼやいている椎名くんの席は、一番後ろの窓側だ。運動場がバッチリ見えて、それでいて一番後ろだから何をしていても先生にバレにくい。学生にとっては特等席とも言えるだろう。そんな私の席も彼の隣だから、めちゃくちゃ良席なのである。席替えしたくないなぁって気持ちが無かった訳ではないから彼の言葉にコクリと頷いた。「窓側のいい席だから離れるの惜しいよね」「あー、まぁそれもあるかもしれないっすねぇ」私の言葉にはあまりスッキリとした返事を返さない椎名くんが不思議で、チラリと様子をうかがうと、彼もこっちを見ていたのか視線が絡む。咄嗟に逸らそうとしても、いつになく真剣な彼の瞳に吸い込まれてしまって逸らせない。自然と心臓は早鐘を打っていた。「君だから」「え?」「隣が君だから席替え嫌なんすけど」「わ、たし?」「君が隣なら別に一番前の席だって、なんだっていいんすよ、僕は」ドキマギする私を横目に彼は、早弁しにくいのはちょっと困るんすけどね〜と呑気に付け加える。「わ、分かんない、なんで、」「えぇ〜?結構アプローチしてたつもりなんすけど…」本当に分からないのか、混乱して分からなくなってるのか自分でも理解できない。何も言えなくなった私に彼は満足そうにゆるりと微笑む。「これからはそうやって意識して」椎名くんと離れるのが寂しいな…なんてポンと花開くように小さな気持ちが芽生えた。あまりにも単純すぎて笑われてしまうだろうか。
【こはく】
「なぁ、ぬしはん、ちょっとここ教えてくれへん?」「ん、ええよ」隣の席の桜河くんから最近よく勉強を教えてほしいと声をかけられる。私も人に教えられるほど賢い訳やないから…って最初は渋ってたんやけど、迷惑やろか?あかん?ってしおらしく言われたら、誰だってあかんとは言われへんと思う。私がチョロいとかでは決して無い。そんなこんなで、桜河くんと放課後に勉強するという時間が最近は増えとった。「私もここ苦手やから自信ないけど、この公式使うと思うねん」「せやね、こっち代用してもええんかも」「…なぁ、前から思っとったけど桜河くんもしかして授業内容めちゃくちゃ理解しとる?私よりも分かっとる感じするんやけど」「ぬしはん、何変なこと言うとるんじゃ」「いやいや、とぼけてもあかんって」教え始めた当初から、桜河くんの理解が凄まじすぎると思っとった。物分りが良すぎると言ったらそれだけのことかもしれへんけど、それにしてもすごすぎて少し違和感があった。「…せやかて、勉強教えてもらうって事くらいでしか、ぬしはんとの時間増やす方法が思いつかんかったんやからしゃーないやん」「え?」「席替えで隣やなくなっても、勉強教えてって声かけやすくなるやろ?」「桜河くん、」「なぁ、ここまで言わせたんやから観念してや」意味分からんとは言わせへんで、と付け加えた桜河くんに私は何も言葉を返されへんで、間抜けに口をパクパクさせる事しか出来ひん。愉快そうに笑みを零す彼に、私の体温はまたグッと上がった。
【ひめる(俺)】
「おはようございます」「ひめるくんおはよー」こんなにも気軽に挨拶をする仲になるだなんて思ってもみなかった。ひめるくんはクールで顔立ちも端正で、何となく近寄りがたいイメージがあった。席替えで隣になった時も、仲良くなれるかなぁなんて不安に思っていたけど、会話をしてみると話しやすくて面白くて、あっという間に仲良くなった。「せっかくひめるくんと仲良くなったのに、席替えで離れるなんて残念」「ええ、そうですね」一通り荷物を机に入れたひめるくんは静かに席に座る。朝の会話も無くなってしまうのかと思うと、途端に寂しくなってしまった。「俺は、席が離れても貴女との時間を減らすつもりはありませんよ」「…ひめるくん?」「朝、こうして話せなくなるなら一緒に登校すればいいですし、放課後だって予定が合えば一緒に帰ればいいのです」「…そんな言い方したら、期待しちゃうよ」「はい、してください。やっとここまで親密になれたのです。逃すつもりはありませんので」綺麗な表情を崩さずそう言うひめるくんに、私ばっかりドキドキしてるみたいで何だか悔しい。顔があ熱い、絶対真っ赤だし秘めておこうと思っていた彼への気持ちすら、もう隠しきれなくなってしまっているだろう。「…私ね、クジに細工したいって思うくらいにはひめるくんと離れたくないって思ってるよ」恥ずかしくて顔を俯けたままそう言うと、視界の端で少し彼の体が揺れたように感じた。顔、上げてみようかな。ひめるくん、一体どんな顔をしてるんだろう。