ごめんね、ダーリン
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【りんね】

「燐音くんなんて、嫌い」「……そうかよ」
『本当に嫌いなのか?』とか『それでも俺っちはお前が好きだ』とか言いてェことは山ほどあった。ただ、それを言っちまったことで2度目の拒絶をされちまうかもしれねェことが怖かった。長い沈黙の後、受け入れちまったみたいな返事をすることしか出来なくて、思ったよりも彼女からの言葉にダメージ食らってたことに気がつく。俺っちは彼女に嫌われるのが怖くて仕方なくて、ここぞというときに抱きしめることすら怯んでしまう臆病な男だ。下げていた視線を少し上げて彼女の様子を伺う。嫌いだと言い放ったはずの彼女は、俺っちよりも何倍も傷ついたような顔をして唇を震わせていた。その姿を見た途端、彼女に手を伸ばす事すら躊躇っていたはずの体が勝手に動いて、彼女を腕の中に包み込んでいた。初めは強ばっていた彼女の体からは少しずつ力が抜けて、そして控えめに俺っちの背中に腕を回す。きゅ、と躊躇いがちに服をつままれたような背中の感覚が胸を無性に締め付けて痛い。「…燐音くん、ごめんね。嫌いじゃないの、私言っちゃいけないこと言った」「…俺っち、案外ダメージ食らっちまったみてェなんだよな」「ごめ、」「だから、もっと強く抱きしめて」俺っちの胸に埋まったままの彼女の顔は見えなかったけど、涙を堪えるような仕草を見せた気がした。ぎゅっと背中に回された手の力が強まる。お前が思ってるよりも、俺っちはお前のこと好きで堪んねぇみてェだ。


【にき】

「ニキくんなんて嫌い」「僕は君が好きっすよ」
軽い言い合いから始まって、それが少しずつヒートアップして彼女も引くことができなくなった末に出た言葉。正直『嫌い』と言われて悲しくなかったわけじゃないっすけど、自然と出てきた言葉が「僕は好き」だった。「な、なんで今そんな」「だって好きなんすもん」まさかそんなことを言われると思ってなかった!と言わんばかりの顔をする彼女に思わず笑いが漏れそうになる。僕は元々怒りとか持続しないほうだし、もう今は全然怒ってなんかないけど、彼女はそういうわけじゃないのか未だになんだか納得がいってなさそうで、眉間にしわを寄せている。そんな顔もかわいいなぁなんて思うけど、それを彼女に伝えるともっと怒らせてしまいそうな気がするから、今は心のなかにそっとしまって黙っておくことにする。「もっと、色々言おうと思ってたのに」「んぇ?これ以上何言うんすか。僕、傷ついちゃうっすよ」「言うこと全部忘れちゃった」「出来ればもうずっと忘れたまんまでいてほしいっす」「あのね、」「ん?」「嫌いじゃないからね。私、ニキくんのこと好きだから」彼女の言葉にゆるりと頬が緩んでいくのが自分でも分かる。やっぱり『嫌い』より『好き』のほうが嬉しいし、辛そうな彼女より笑顔の彼女のほうが何倍もいい。「仲直りのご飯にしませんか」って言ったら「ニキくん、お腹すいたんでしょ」って彼女は呆れたように笑ったから、僕も釣られて笑った。


【こはく】

「こはくくんなんて嫌い」「ほっか…堪忍な」
言わせてしもた。一番最初に思い浮かんだことはそれやった。彼女を泣かせんつもりやった、悲しい顔をさせんつもりやった。いつでも笑顔でいてほしかったし、彼女が笑顔でおるためにわしが大切に守っていこうと思っとった。それが、わしのせいで彼女に要らん事言わせてつらい顔をさせとる。酷い有様に自分で自分が情けなくてしゃあない。その場の勢いやったとしても嫌いやなんて言うのはきっと辛い。彼女の今にも泣きそうな顔がそれを物語っとった。「何で、こはくくんが謝るの」「謝らなあかんっち思ったからや」「酷いこと言ったのは、悪いのは私なのに」「言わせてしもたんはわしやろ」「…わ、私のこと甘やかしちゃだめだって」随分と頼りなさげな語尾やった。ゆっくりと頭を撫でてやると、彼女は嫌がる様子もなくすんなりとそれを受け入れる。甘やかしたらあかんっち言うけど、誰よりも自分に厳しくて頑張ってるぬしはんのこと、甘やかしたいと思ってもしゃあないやん。「酷いこと言ってごめんね」「本気やないって分かっとるよ」「…こはくくんのこと、大好きだからね」「おおきに、嬉しいわぁ」ぬしはんからの好きの一言で、こんなにも幸せになれるんやからやっぱりぬしはんはすごいお人やわ。もうなんでも許せそうやわ、なんてこれも甘やかしに入るんやろか、まぁええやんな。こんなに好きなんやもん、甘やかすことくらい許してほしいわ。


【ひめる(俺)】

「ひめるくんなんて嫌い」「どうすればまた俺を好きになってくれますか?」
本気ではないということはすぐに分かった。売り言葉に買い言葉、思わず出てしまったんだろうなと思う。「俺の駄目なところを教えて欲しいのです。全部直します」「だ、だめなところ?」俺の発言に彼女は戸惑い気味にパチリと目を瞬かせる。彼女は隠しているつもりなのでしょうが、全部顔に出てしまっていてそれが堪らなく愛らしい。俺の言葉をやっとのことで噛み砕いたのか、彼女は「いつもスマートだから女の子慣れしているのかと思ってしまう」とか「格好いいから女の子が寄ってこないか心配」とか褒め言葉にしか思えない不満をぽつぽつと零していく。彼女自身、きっと自分で何を言っているか分からなくなってしまっているのでしょうけど。長らく視線を下げていた彼女がぱっと顔を上げる。「い、今言ったのやっぱり全部なし、ひめるくんのこと好き」「…生憎ですが、俺には全て褒め言葉のようにしか聞こえなかったのです」「え?…あ、」自分が言った言葉を思い返したのかぶわっと彼女は顔を赤らめる。「…あんなこと言ってごめんね」「俺もすみませんでした」「ひめるくんが謝るのは変じゃない?」「変じゃないです。謝らせてください」彼女の手を緩く握ると、彼女も俺の手をぎゅっと握り返す。「仲直りしてくれませんか」微笑む彼女が眩しい。やっぱり貴女には笑顔が一番です。そう伝えたら、貴女はどんな顔をするのでしょうか。


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