01
自分の周りにいる人全てが幸せになれたら、どんなに素敵なことだろう。けれどそれは酷く難しい、私が笑っている裏で誰かが傷つき、私の泣いている裏で誰かが笑っている
脆くも儚いこの世界、あぁ、本当にみんな幸せになれたら良いのに
収録の終わりを告げるスタッフの声に周りに挨拶をしながらスタスタと楽屋や戻る。今日は彼の家に行って、小さなパーティーをするんだ、付き合って2年のお祝いに
「待ってよなまえちゃ〜ん!」
「ごめん嶺二、今日は急いでるの!」
「あ、龍也先輩のとこね...邪魔しちゃってメンゴ!行ってらっしゃい」
ニコニコと笑って送り出してくれる同期にありがとう、と笑って走り出す。サングラスと帽子をつけ変装完了。タクシーに乗ってしまえば私が誰なのかなんて周りにはわかりはしない。タクシーに乗ってほっと一息つくと彼からの着信
「遅かったじゃねぇか」
「ごめんね、収録がちょっと押しちゃって...今向かってるから」
「もう用意はできてるぜ、気をつけて来いよ」
「さっすが龍也さん!!ありがとう、もう少しだけ待っててね」
電話を切るとミラー越しに運転手のおじさんと目が合い、にっこりと微笑まれる
「彼氏かい?」
「ふふっ、そうなんです」
「そうかい、お幸せにね」
赤の他人だというのに、嬉しそうに言ってくれてとても幸せな気持ちになる。アイドルだから世の中には堂々と公表のできない付き合いだけれど、こうやって見知らぬ誰かに言われるのは心が温かくなる。そうこうしている内に目的地へ到着し、降りるときに"これからも仲良くね"と温かい言葉を頂いたのでお礼を言った
あぁ、いつかこうやって周りに認められる日がくるといいな、なんて思いながらマンションのエレベーターに乗り込む。暫くしてチンという音と共に扉が開く。足早に彼の部屋の前へ行きベルを鳴らす。ガチャリと開かれたドアの先には愛しい彼の顔
「龍也さんおめでとう〜っ!」
「ばーか、俺だけめでたくても意味ねぇだろうが。なまえ、お互いにお祝いだ」
通されたリビングには沢山の料理が並んでいた。今日は彼だけオフで私の仕事が終わるのを、こうして作りながら待っていてくれたらしい。
「うわぁ、おいしそう...!私もケーキ買ってきたよ、後で一緒に食べよ!」
「あぁ、冷やしてくるから手ぇ洗ってこい」
「はーい」
なんでもない日常のやりとりが、どうして龍也さんが相手だとこんなにも楽しくて幸せな気持ちになるんだろう。付き合って2年、未だに当初のトキメキは健在で大好きが止まらない
「なーにニヤニヤしてやがる」
「ふふっ、だって龍也さんと一緒にお祝いできるなんてすごく嬉しいんだもん」
「珍しくオフだったし、なまえも早めに上がったからな。今日会えなかったらまた暫くは会えなさそうだし、よかったな」
ぽんぽんと彼の大きな手が私の頭を撫でる。抱きつけばぎゅっと抱きしめ返してくれる
好き
好き
この感情は一体どこから沸いてくるんだろう?止まらない
キスをすれば夜の闇の中に溶けていく。
あぁ、幸せ