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「全く〜この前会えたんでしょ?」

「この前って...もう2週間も前なんですけどっ」


はぁ、と態とらしく溜め息をつく目の前の男。だって仕方ないじゃない、会いたいんだもの


「なまえちゃんも売れっ子さんだから時間がないことくらいわかってるでしょ?あんまり龍也先輩を困らせちゃダメだよ」


そんなこと、言われなくとも理解している。龍也さんには会いたいとか、そんな我侭言ったこともない。だからこうやって話しやすい嶺二に話してしまうのだ。二人の関係を唯一知っている彼に


「はぁ...ごめんね、こんな愚痴ばっかり聞かせて」

「いいのいいの!れいちゃん優しいから何でも聞いてあげちゃうよ〜ん」

「ほんと良い親友だよ、ありがとう」

「っ...ほら、もうリハの時間だよ!」

「わ、行かなくちゃ!また後でね」


一瞬だけ嶺二の顔が強張った気がしたけれど、次の瞬間には元に戻っていた。やはり気のせいなのだろうか。それよりも今はリハーサルに向かわなければと、スタジオへと走っていく







side嶺二

"親友"の言葉に心がズキンと音を立てて痛んだ。彼女の幸せが僕の幸せだと思っていたのに、やはり本心は違うと主張しているように。彼女を幸せにするのは自分でありたいと願っているんだ


「ほんと、どうしようもないね僕は」

「誰がどうしようもないって?」


突然後ろから声を掛けられ振り返ってみると、そこには先日共演した女優さん。名前は確か...


「芹佳さん、久しぶり!」

「覚えててくれたんだ」


そう言って笑う芹佳さんの雰囲気はどことなくなまえちゃんに似ていた


「ついでに、この前私がお願いしたことも覚えてる?」

「あぁ、龍也先輩に彼女がいるかどうかってやつ?」


もちろんなまえちゃんという彼女がいるけれど、他事務所の売れっ子女優に漏らせることではない。教えてくれなかったよ、と交わせばタイプは?と続けざまに聞かれる。それくらいなら教えても支障はないだろう


「優しくて、気遣いの出来る明るい子、かな」

「ふ〜ん、具体的には?」

「そうだなぁ...疲れてるときにさっと飴を渡してくれたり、ちょっとケガしたときに絆創膏持っていたり、いつも柔らかい表情で場を和ませてくれるような子に弱いと思うよ」


なんて、今行ったのは全部なまえちゃんのこと。ご機嫌で去っていく芹佳さんの後姿に貼り付けた笑顔とは裏腹に"君には無理だよ"と心の中で呟いた



気づけばこのときから、龍也先輩となまえちゃんと僕の間のどこかにヒビが入りだしていた。キシッと嫌な音を立てながら、ヒビは止まらずどんどん深くまで浸透していく


あぁ、ただ彼女には幸せでいてほしいだけなのに