06

「なんで、聞かないんですか?」

「お前はそんなに傷に触れてほしいのか?」


お昼の休憩に二人になる機会があって、思わず聞いてしまった。自分の胸にある気持ちも、どうしてそこまでの優しさを知りあって間もない私に向けてくれるのかも


「芸能界に入るって決めた時から、話す覚悟は決めておかなくちゃって思ってはいたの」

「覚悟を決める程のことなら尚更、お前は傷つくだろ」

「えっ...?」


龍也さんの言葉は私が考えていたものとは違っていた。最後まで話せと言われるのかと思ったが、何より私の気持ちを尊重してくれていたようだった。でも...そんなに優しくされてしまうと勘違いしそうになる


「俺はなまえのマネージャーになったが、過去の部分まで触れられねぇよ」


拒絶...と捉えてしまう私は捻くれた考えをしているのか。さっきまで温かかった心がミシミシと音を立てている

なんで、どうして、

そんな小さな言葉しか出てこない

昔からそう、優しくされては突き落とされる





(大丈夫、俺がついててあげるから)

(どうせお前なんてヤリ目でしかねぇんだよ)

(今日は俺が一緒にいるよ)

(さっさと股広げろよ?その為にわざわざ住まわせてやってんだろうが)



気づけばまた、冷たい涙が頬を濡らしていた











―「斎藤!!!!」



その光景が目に入った瞬間、何とも言えない感情に陥った。苛立ち、それとも悲しみ?そんなのわかんねぇ、とにかくなまえに触れている男が許せなかった


「もう大丈夫だ」


そんなありきたりな言葉で安心できたんだろうか。だが、この様子じゃあ今までにも何かあったようだ。少しでも支えになってやりたい...でも


(俺が勝手に踏み込んでもいいのか?)


できることなら彼女の全てを知りたい


「今日は送ってやるから、とにかく家帰ってしっかり寝ろよ」


どうしてこうも気の利いた言葉が言えねぇんだ...俺は。なまえ、俺が守ってやるから、とかそのくらい言えたら格好が付くんだがな


翌日、なまえはまた涙を流した



(触れたらいけない部分だったか...)


どこまでで線引きして良いのかなんて分からない。踏み込んでもいいのか、放っておけばいいのか...ただ今は自分の口から出た言葉に悔んだ