05

―ドンッ



駆け付けた龍也さんが私の上にいた斎藤さんを蹴り飛ばす。諦めかけていた瞬間の彼の登場に胸が高鳴る


「ひゅ、日向さん...これは...」

「斎藤、言い訳なんていらねぇ...消えろ!!!!!」


その顔は何とも言えないほど怒りに満ちていて呼吸さえも許されない空間だった。ドタバタと出て行く斎藤さんを尻目に、ただ茫然とするしかなかった


「なまえ、大丈夫か...?」

「龍也...さん...」


正直、抱かれることには慣れていたけど悔しい、やり直せるって思ったのに。それも斎藤さんの邪心による計算だったなんて。震える身体を噛みしめて耐えていると、ふと温もりに包まれた


「怖かった...だろ?我慢すんな」


そんな優しくしないで、汚い私が悪いのに、そう言いたいのに言えない。思いとは裏腹に涙は止まることを知らない


「わ、たし...うっ...なんでっ...」

「大丈夫だ、俺が側にいてやる」


何でこんなにも優しいの...?過去を知ったら龍也さんもきっと軽蔑するんでしょう?


悔し涙と感情の行方も知らない涙は、その後も止まらなかった





―あれから何分経っただろう、ようやく落ち着きを取り戻した




「今日は送ってやる、とにかくゆっくり休めよ」

「うん、...龍也さん、ありがとう」

「当たり前のことをしたまでだ」

「あの、明日から斎藤さんは...」

「あいつはもう来ねぇ、お前のマネージャーは俺がやる」



彼の口から出た言葉は、私の胸の鼓動を早くさせる


それから龍也さんは寮まで車で送り届けてくれた。明日はついに生放送だというのに、全く眠れる気がしない


「これからも同じことが起こるのかな...」


私の不安は誰にも相談できない、斎藤さんがマスコミに漏らしたら、全て終わりだ。でも元はと言えば自分が悪いのだから


「誰を責めたって、私が悪いのは私自身が一番よくわかってるの」


恐怖からか、後悔からか、朝方になっても涙は止まることを知らない






―次の日


「おはようございます」


やはり昨日のことが気になり早め事務所へ向かった


「あらなまえちゃん、おはよう。随分と早く来たのねぇ」


ニコニコしながら迎えてくれたリンちゃん


「撮影のこと、気になっちゃって」

「テレビの方は初めてですもんね...ってその顔どうしたの!?」

「あ、やっぱりわかる...?」


やばい、昨日のこと知られちゃう、どうしよう...焦れば焦るほど言葉は出てこない


「昨日、悩み聞いてやってたら泣きやがったんだよ」

「え〜龍也が泣かせたんじゃないの〜?」

「おい林檎、あんましふざけたこと言ってると締め出すぞ」

「いや〜ん!!龍也ったら怖ぁ〜い」


言葉に詰まる私を助けてくれたのは龍也さんだった。この中で一番仕事も忙しいのに、よく周りに気づいてくれていると思う。事務所に所属して一ヶ月も経たない内に何度も助けられている、と思っているのは私だけだろうか。その度に今まで感じたことのない鼓動が激しく音を立てていた




なんだろう、このドキドキは