待つこと20分、漸く自主練が終わる。赤葦が着替えている間にボトルを洗って所定の場所にしまって、後は本人を待つだけとなった。暇なのでスマホのアプリを開き時間を潰す。先ほど温まった手も、今は夜風に曝されて冷えてしまっていた。冬ほどではないにしろ、汗をかいたこの身体には寒暖差の激しいこの季節は堪え、手をはぁーと息で温めた


「ごめん、お待たせ」

「大丈夫だよ、お疲れ様」


じゃあ行こうか、なんて言葉もなく2人で歩き出す。今までに一緒に帰ったことは数回あったが、そこにはいつも木兎先輩をはじめ、他の先輩方も一緒だったりした。こうして2人きりで帰るのは初めてで付き合っているんだという自覚が胸をドキドキさせた


「今日は木兎先輩たち一緒に帰らないんだね」

「...付いてきそうだったから急いで着替えてきた」

「えっそうなの?」

「みょうじは先輩たち一緒だった方がよかったの?」

「.........ううん、赤葦とふたりが、いぃ...」


思ったことを口にしている内に恥ずかしくなってしまって語尾が消えそうなほど小さくなった。薄暗くなった空で赤くなったこの顔がどうにかバレていませんようにと、隣にいる赤葦を横目で見ると口に手を当てて笑っていた


「ふっ....くくっ...」

「なんでそんな笑うのよ」

「みょうじが面白くて、つい」

「そんな面白いこと言ってないし」


照れ隠しに剥れているとごめんごめんと、特に悪いとも思っていないような謝罪を受け手を繋がれた。それにまた驚き顔が赤くなって、また笑われたのだけど嬉しさの方が勝って何も言えなかった


「赤葦ってさ...落ち着いて見えたけど、こう...結構ガツガツくるタイプだったんだね」

「意外?」

「意外というか、うーん...ギャップにビビってる」

「木兎さんの隣にいると相対的に落ち着いて見えるだけで、それ以外では俺もただの男子校生だよ」


確かに部活では木兎先輩のお世話役や副主将としての責任とか、そういったのもあってしっかりとした印象があるけれど、よくよく考えたら教室にいる時の赤葦は偶に意地悪してきたりよく笑ったりしていた


「だからさ...みょうじとこういうことしたいって思ってる」


ふいに顔が近づき、ちゅっと音を立てて静かに離れた


「嫌?」

「い、いやじゃ、ない...」


途切れ途切れにそう答えれば赤葦は柔らかく笑った。今日は赤葦にドキドキさせられっぱなしな気がするのはきっと気のせいではない


「もっとしていい?」

「うっ...な、なんて答えれば、いい..?」


危うく"うん"と言いそうだったのを誤魔化し返事をすると、そんなの関係ないよ、とまた赤葦から唇を重ねられた。


「ん..っ、ふ、...」

「なまえ...」


下の名前で呼ばれたことに驚いていると、舌がくちゅりと絡められた。顔が熱くて溶けそうで、繋いでいない方の手で崩れないように必死で赤葦の服を掴んで、とろとろとした感覚に頭まで蕩けてしまいそうだった


唇が離れると赤葦は満足そうな顔で「好きだよ」と笑っていた




2016.03.17