いきなり泊まりに来ないか、だなんて心臓が止まるかと思うほど驚いた。なまえの表情から照れが見え隠れする。なまえの友達が言った"怖いから"なんていうのは嘘だろう、だけど付き合い始めてゆっくりと2人の時間を取れなかったことを思い出して今は有難くその言葉に便乗させてもらった


「今日夕飯いらないから、あと荷物取りに帰ったら友達の家に泊まりに行く」

「あら彼女?迷惑かけないようにね」

「........」


部活の前に母親に連絡を入れれば、簡単に嘘が見破られてしまう。そこで止めるわけでもなくあっさりと許可をするあたり、ゆるい我が家に感謝しないといけないのかもしれない


「ヘイヘイヘーイ!あかーし!今日調子良さそうじゃねーか!」

「そうですか?」

「おう!もっとトス俺に寄越せよ!」


木兎さんにも何か察せられるほどに浮かれていた。早く部活終わらないかな、と思っていると


「赤葦調子良いね、あと少し頑張って」


と彼女から言われた途端にやる気が起きるのだから俺も案外単純なのかもしれない



やっとなまえの家に着いた...と思えば目の前の彼女は中々に刺激的な格好をしていて、これは苦行かと頭を悩ませた


「襲われたいの?肌見せすぎ」

「や、....っ!」


びくりと肩を震わせたなまえに、俺も理性との戦いだった。可愛い可愛い彼女、俺以外の男に隙を見せてなんてほしくない。真っ赤に染まった顔を見つめると、申し訳なさそうに眉を下げ謝られたので、心の中で覚えとけよ、と呟いて離れてあげた

なまえの作ったご飯はどれも美味しくて、あっという間に平らげた。こんな特技があるならもっと早く知りたかった。そういえばお弁当も自分で作っていると聞いたことがあるような気がした、今日以外にもなまえのご飯を食べる機会があるといいな、なんて思うほど胃袋を掴まれたみたいだ。今日はお礼に皿を洗うことしかできなかった、今度ちゃんとしたお礼に柄にもなくなまえの好きな甘い物でも食べに誘ってみようかと思う

なまえが風呂に行き随分と経った。ガラッと小さな音がする。少し驚かせてみようかと悪戯心が湧いて静かに廊下に出ると、2階にある部屋へ向かうなまえの姿があった

後ろから抱きついてみたものの、まだ乾かされていなかった髪が頬に当たって冷んやりとする。それよりも感じるのは、手に当たる服の違和感...もしかして着けていない?


「髪、乾かさないと風邪引くよ」

「う、うん、京治濡れちゃうといけないから離して?」


やはりどこか慌てている、そんな様子にもっと揶揄いたくなって下された髪をくるくると弄って遊んでみた。風呂上がりだから、という言葉では片付けられないほどなまえは赤くなっている。マネージャーとしてはしっかりしているのに、こういうことには慣れていない初々しさが理性を擽られる。なんでこんなに可愛いんだろう


「1人でいるの寂しいから、早く行ってきて」


わざとらしく音を立ててキスを落とせば、少し涙目になっているなまえにこちらまで身体が熱くなりそうだった。最後の意地悪に、わざと彼女の背中を押して促す。....やっぱり着けていなかった


やっと戻ってきたなまえは、俺が寝たふりをしているなんて思ってもいない。いつ起きようか、なんて模索しているとふわっと彼女の香りが強くなって近くにいる気配がした。震えながら重なる唇に、プチン、と音を立てて理性の切れる音がした


「京治...」

「もう我慢できないから、でも」




なまえが怖くないように優しくするから、早く俺に溺れて