別れを告げられた時、何か隠しているとは思っていた。ただそれを追及するようなことをすれば目の前でぼろぼろと涙を流す彼女を傷つけることになるんじゃないかと思って聞くことすらできなかった。"何があったの、もっと頼ってよ"なんてきっと説得力の欠片もなかった言葉だろう、覚悟を決めた彼女の前でその言葉を飲み込んだ


「途中までは、卒業してから岩ちゃんから聞いてた...でも、俺のファンの子がそこまでしてたなんて知らなかった...ごめん」

「及川くんが謝ることじゃないんだよ、何にも悪くないのに...」

「でも俺はっ...」


結局何も知らないままただ別れを受け入れただけの狡い奴なんだ、そう言いたかったのに泣いた跡を残す顔で笑うなまえちゃんを見ると"もういいよ"と許されている気がして言葉が出なかった


「こっちに来る前にね、岩泉くんから今でもバレー続けてるって聞いて安心したの。それからすごく嬉しかった、私が好きになった及川くんがそこにいる気がして...あ、ごめん、変なこと言って!」


「じゃあもっと変なこと言ってもいい...?」

「えっ、」

「なまえちゃんはまだ俺のこと好き?俺の気持ちがまだあの時のままだって言ったらどうする?」


一つの賭けだった。ずっと忘れられなかった思いを、止まっていた時間をまた進められるのかどうか。戸惑いを隠せない彼女の顔が目に入る、あぁ、早まった、今更取り消せないし取り消したくもないけど落胆する


「今すぐ答えは出せない...かな。別れる時も言ったけど嫌いになったわけじゃないの、でもね、今日色々話しすぎてちょっと頭の中が混乱してるっていうか...」

「いいよ、俺はずっと待ってるから」

「っ....!ちゃんと、考えるから...今日はもう寝かせて...」

「ねえ、何もしないから寝るまでなまえちゃんの隣にいていい?」


我ながら大胆なことを言ってみる。もしダメならいつものようにふざけて出ていけばいいだけだし、今はどうしてもなまえちゃんの側を離れたくなかった


「.......寝たらちゃんと帰る?」

「うん、いい?」

「仕方ないなあ」


言い出したら聴かない俺の性格を思い出したのか、なまえちゃんはふわりと笑った。その笑顔はいつまでもあの時のままで胸がぎゅっと苦しくなった。大きな欠伸を一つして、床にゴロンと転がった。身体痛くならないの?なんて聞いても、もう生返事しか戻ってこないのを見ると相当眠いのだろう。一緒になって床に寝転がった、なまえちゃんが寝たらベッドに運んであげよう


「ごめん、もう寝る...」

「うん寝ていいよ、なまえちゃんが寝るまで一緒にいるから」

「ん...ごめんね、とおる...」


トントンとリズミカルな振動になまえちゃんの意識が薄くなっていく。どうしてそんなに幸せそうな顔をしているの、どうして俺はまた泣きそうになっているの。たくさん聞きたいことはあるというのに、微睡みの中なまえちゃんの瞼は重力に逆らえずゆっくりと閉じていった



「ずるいよ...いきなり名前で呼ぶなんて...ねえ、やっぱり俺はなまえの近くにいたいよ」


寂し気に呟かれた言葉はなまえの耳に入ることはなかった






2016.05.18