「じゃ、俺こっちだから」

「おう!お疲れ〜」

「また月曜なー!」


世間でいう所謂華金というものを謳歌しとても良い気分で駅から5分の家までの道を歩く。明日は昼まで寝てやろうと思いながら駅のバス停の横を通ると、縮こまって肩を震わせている女が目に入った。漆黒の艶やかな長い髪、泣いていたのだろうか、すっと筋の通った高い鼻頭が赤くなっている。歩く速度を緩めてじっと彼女を見ていると、俯いていた顔が前を見据えて大きな瞳からポロリと涙が一筋流れた。......やばい、ぐっときた。言い様のないこの感情に素直に従って気づいた時にはもう声をかけていた


「オネーサン、こんなとこに座ってどうしたの?」

「.......っ!?」

「あー...ごめんな、驚かせちまったか」

「あっ、いえ、まさか話しかけられるとは思ってなくて...ありがとうございます...?」

「ふはっ、なんだそれ。で、こんな時間に女1人で蹲ってどーした?」

「あ、の...っ」


止まっていた涙がまた溢れそうになっている。髪と同じように黒くまん丸な大きい瞳を食い入るように見つめると、彼女は少しずつ話始めた。え、なんかこれって俺が脅してるように見えねぇか?


「わりぃ、いきなり話しかけられてビビるよな。俺は黒尾鉄朗っつーんだけどオネーサンは?」

「あ、わ、私はなまえって言います」

「なまえちゃんね。今時間ある?」

「はい...」

「とりあえずそんな格好してっと危ねぇから俺ん家来いよ。服貸してやるから」


彼女は自分の服装を見直し、漸くそれに気づくと小さな声で"お願いします"と呟いた

家までの道中でたわいもない話をし、取って食ったりしねぇよなんて言ったけど、俺も男だ。あわよくば、とは思っている。自分に正直なのは良いことだろう

家に着いてミルク多めのコーヒーを淹れ、彼女が口を開くのを今か今かとそわそわとした気持ちで待っていた。一息ついて発した言葉は、なんとなく想像はできていた


「黒尾さん、私...家出して来ちゃったんです...」





2016.05.31