「お兄ちゃんなんて知らないっ...この分からず屋!!」

「おいなまえっ!!!」


そろそろ寝始める人もいると思われる時間に兄弟ゲンカとはさぞかし近所迷惑だっただろう。それでも言わなくてはならないこともある、受け入れてもらえないのなら出て行くしか道は残されていない。気づいた時には私は部屋着のまま家を飛び出していた


「あー...何にも考えずにここまで来たけどどうしよう...」


家の鍵と財布を持ってきたのは、咄嗟の判断にしては上出来かもしれないが如何せんこの格好が夜の冷えた空気に耐えられそうもない。どうしようもなくそこに蹲ってぽつぽつと疎らな人通りを眺めた


「なんでかなあ...」


お兄ちゃんのためにと思って提案したことなのにそれはあっさりと却下され、まだまだ子どもなのだからと諭されるし...もう21才だ、成人もしているしちゃんと生活だってしていけるのにとんだ分からず屋だ。と思っている内に頬に一筋の涙が流れていった





「ざっくり言うとこういうわけなんです...」

「本当にざっくりした説明だな」

「うっ...すみません、初対面の方にあまり詳しく話すのもどうかと思って...」

「寒そうななまえちゃんを家にあげてやった親切な俺を目の前にしてそれを言うか」


ニヤニヤと笑いながら揶揄われ、なんだか食えない人だなあと直感的に思った。けれど本当にあのまま外にいたら風邪を引くのは間違いなかったし、万が一にも物好きな人がいて襲われでもしたら...と考えると黒尾さんにもっと感謝しなくちゃいけない...のかなあ


「ま、今日はもうこんな時間になっちまったし、あっちの部屋空いてて使ってねーから」

「えっ?」

「泊めてやるよ。行くとこ無いんだろ?」



前言撤回!!黒尾さんは見ず知らずの私を助けてくれるすごく親切で良い人でした


「何もしねぇけど、一応鍵閉めとけよ」


布団の用意だけ済ませると、頭をぽんぽんと撫でて黒尾さんは部屋から出て行った。その撫で方がどこかお兄ちゃんと似ていて、ケンカを思い出して胸がぎゅっと苦しくなった


「明日...お兄ちゃんが仕事行ってる間に荷物纏めておこう」


ぱたりと布団に沈むと自然と睡魔がやってきて、それに反抗することもなく目を瞑った



2016.05.31