(彼はきっと優しすぎるの続編)

「なぁ、付け込んでえぇ?」

そう言われたあの日から私は、彼を直視出来ないでいる。
数日前、片思いだった恋が砕け散った。だけど、その日謙也くんに言われた言葉に翻弄されて、私の頭は彼の事でいっぱい。
だけど、そんな自分が都合の良い女みたいで嫌で。恥ずかしくて普通に謙也くんと接する事が出来ないのがもどかしい。

「謙也となんかあったんやろ?」

にっこり妖しい笑みを浮かべて、「あったんか?」ではなく肯定を前提に問い掛ける白石くんは絶対知っている。だって謙也くんは白石くんを信用していて、クラスも一緒で、いつも一緒につるんでるんだから何かあったなんてきっと野暮な質問。(全部分かったような顔してる、)

『……あったけど、白石くん知ってるでしょ?』
「何をや?」
『何があったか』
「まぁ…所々な、」
『……失恋したのに、謙也くんに意味深な事言われて動揺して、謙也くんの事ばっかりで頭がいっぱい』
「は?」
『何かあった、の何かの部分』

簡潔に今の私を述べてみると、予想もしてなかったのか白石くんはポカンとして固まる。

「……それは要するに謙也を好きっちゅー事か?」

たっぷり2、3拍の間を置いてから表情が戻った白石くんは、直球過ぎて痛いくらいに核心を突いてきた。それの答えは私も聞きたいくらいなのに。

『……わかんない』

それに、謙也くんは誰にでも優しいから。
そう小さく呟くと白石くんはアホやなぁと笑った。

『…え?』
「アホ、アホ、アホー」

今度は私がポカンとする番みたいで、抑揚が無い分余計に馬鹿にしたように聞こえた。でも1拍置いて、白石くんは真面目な顔をする。

「謙也は誰とでも仲良うするけどな、誰にでもそないに優しく出来る程器用やないで」
『…え、』
「謙也うじうじしとってうざいねんなー、ここ最近。誰かさんが謙也を避けとるからやろうかなー…」
『あのそれってのしかして…、』
「いやなまえだとは言ってないんやけどな?」

絶対絶対白石くんは確信犯だ。

「……そういえば、さっき熱っぽい目で謙也を見た子とその友達みたいな子が謙也連れてってもうたな。謙也今頃告白されとるんやろうな?」
『え、』

……思わず出てきた泣きそうな声に自分でも驚く。でも、それを聞いた白石くんはしてやったり顔。

「はよ行かんと謙也取られるで」
『で、でも…』
「アホ!」
『…し、白石くん?』

いつも冷静な彼が少し声を荒げる。

「なまえの中で答えは出とるやろ!恋ってそいつの事で頭いっぱいになる事やんか、なまえは今でも好きやった奴の事考えとるん?」
『っ…』
「答えはNoやろ。行って来ぃや!」
『は、はい…!』

白石くんの迫力と勢いに負けて、2つ返事で私は教室から飛び出すことになった。飛び出す直前、体育館裏やで!と白石くんが叫んで教えてくれる。

*

体育館裏までの道のりがやけに長く感じて。
過ぎていく風景が、走っているのにスローに見えて自分が物語の主人公みたいだなぁと思った。こんな優柔不断なヒロイン嫌だけど。

もし……、謙也くんがOKしたなら私は悲劇のヒロインになるんだろうか。1週間もしない内に2回失恋だなんて惨めも良い所だと思うけれど。

体育館裏に着くとそこには女の子のグループはもういなくて、謙也くんだけが壁に寄り掛かって空を見上げてた。
格好良い、そう思った。ただの体育館裏のはずなのに、晴れ曇りなのに、黄昏れるような謙也くんが絵画のようで思わず見惚れてしまった。

「なまえ…?」

しばらく茫然と立っていると、謙也くんが私に気付いてこっちへ近付いてくる。

『あ…あの、』
「…そんな嫌がらんといてな、俺でも傷付く」
『違う、嫌なんかじゃなくて!びっくりしただけ…』

そう言うと気が抜けたように微笑んで、そっと私に手を伸ばして髪に触れた。
あぁ……そっか、今なら分かる。
謙也くんはいつも私に触れる時、今と同じ様に優しく大切にしてくれていた。こわれものに触るみたいに。

こんなに彼は分かりやすく大切に扱ってくれていたのに、鈍感にも私は恋の相談をしていただなんて白石くんじゃないけど、かなりのアホだ。

『謙也くん、』
「なんや?」
『あの、その…女の子は…』
「……気になるん?」

口角を上げて笑いながら、謙也くんは私の顔を覗き込んむ。それがすごく恥ずかしくて、聞いてしまった事も恥ずかしくて、顔が一瞬にして耳まで紅く染まったのが分かった。……それでも、今、言わなきゃいけない。

『あ、あの…』
「断ったで」
『え…?』
「せやから、断った。好きな奴は別におるんやから当たり前やん」
『…あ、あの…謙也くん、』
「そないに信用ならん?」
『違…っ』
「俺が好きなんはなまえだけや、」

さらりと甘い台詞を囁く謙也くんの声は艶っぽい。長めの髪を指に絡められて、そのまま髪にキスを落とされる。髪には血が通ってないはずなのに熱くて、いてもたってもいられない位の恥ずかしさに襲われる。そんなに優しいと、付け上がっちゃう。

『だけど…、この前まで私…』
「せやからなんや?」
『都合の、良い女じゃない…、』
「そんなん気にせぇへん。俺はなまえの気持ちが知りたい」
『…っ!…謙、也くん』
「うん」

好きです、謙也くんが好きなんです、
やっとそう言えた私を優しく抱きしめてくれた

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