トラ男くんとハイテンション女子
◇高校生。
「なまえって、黙ってればかわいいわよね」
「えー、かわいいなんてやだ照れるよナミちゃーん!」
「黙ってればって言ったわよね、私」
昼休みの教室。もくもくと目の前で美味しそうにパンをかじるなまえを見て、ふと思ったことが口に出た。
瞬間、いつものハイテンションで肩をバシバシ叩いてくるなまえに、果たして私の声は届いているのやら。
さっき言ったとおり、なまえはベースがいい。
見た目だけなら学年でかなり上位になるんじゃないかしら。
でも、中身が残念なのよね。
なまえは猫を被らない。被らなさすぎるのよ。
大方の女子は、意識してるしてないに関わらず、男子には女友達と態度が違ったりするものでしょ。
媚を売るって言い方はなんとなく嫌な感じだけど、そういうのがまったくないのよね、なまえは。
むしろ、男友達と話している気分にすらなるわ。
しかも、
「あんた、それなりにモテるんだし彼氏とか作らないの?」
「んー…わたし猫被れないからなぁ、無理じゃない?」
なんて、けろっと言う程度には自覚済み。
自分のことをよく分かってるって面じゃいい事かもしれないけど、改善の余地がないと言い切っちゃうのはどうなの?
「それって、“被れない”じゃなくて“被らない”でしょ」
「え、何か違う?」
「大違いでしょうよ」
「うぅん…、でも、猫被ったわたしってわたしじゃなくない?」
「もうちょっと詳細に言って頂戴」
「えええ、えっとぉ…素材の味をそのまま味わってほしい、的な」
「…なんとなく分かったわ」
つまりあれでしょ、疲れちゃうってことね。
理解はした。でも納得はできない。
だって損してると思うから。
損って言葉が大っ嫌いなのよ、私は。
「おい、なまえいるか」
「あら、トラ男くんじゃない」
「んぐ、はいはーい!呼ばれて飛び出る我輩に何用でござるか?」
「なんやかんや混ぜるな」
「いてっ」
最後の一口を飲み込んで、教室の入り口に現れたトラ男くんの元へ言葉どおり飛び出して行ったなまえ。
もうなまえのテンションに慣れちゃってるトラ男くんは流石、冷静にツッコミを入れつつ手に持っていた国語の教科書(の、角)であの子の頭を小突いた。
「女子の頭叩くとか酷いな、この腐れ外道!」
「そこまで言われる筋合いはねえ。つーかお前を女子と思ったことはない」
「じゃあ…人の頭叩くとか酷いな、この万年睡眠不足!」
「言い直すな」
違うでしょなまえ!怒るとこが!
聞こえてくる二人の会話に、思わず飲んでいたオレンジジュースの紙パックを強く握りすぎてしまった。
危ない、貴重な昼食の一部を机にぶちまけるところだったわ。
「まったく、トラ男くんはテンション低いな!まさにローテンション。ぶふふっ」
「よし、気を楽にしろ。すぐに終わる」
「ごめん、待って。国語辞典の角はマズイ。それはあかん。終わるってわたしが終わる」
「だからそう言ってんだろ」
「大きく振りかぶらないでぇえ!マジすんませんしたあああッ」
「…チッ」
なまえの必死な謝罪に舌打ちしつつ、振りかぶった国語辞典を下ろしたトラ男くん。
それとほぼ同時に、午後の授業まであと10分の予冷が鳴り響いた。
「…っていうか、トラ男くんなにしに来たの?わたしに会いたかったの?」
「んなわけあるか。お前、今日生徒手帳落としただろ」
「そうなの!マジ困った、どうしよう!…なんで知ってるの、それ?」
「さっき、麦わら屋の兄貴から聞いた」
「へえ?」
「風紀委員の方の兄貴が拾ったらしくてな。教師共にバレたら面倒だろうって預かってるらしい」
「サボさん…いい人っ!ほんといい人!じゃあじゃあ取りに行かなきゃだよ!」
「放課後は会議があるらしい。昼休みに化学室に来りゃ返してやるって言ってたぜ」
「オッケー、化学室…って、早く言えよぉおおおお!予冷鳴っちゃったじゃん、バカ!あああ、でも伝えてくれてありがとう!間に合わない〜っ!」
「…律儀な奴」
「あんたも大概意地が悪いわね」
もうルフィのお兄さんが居るかどうかも分からない化学室の方に向かって猛ダッシュして行くなまえの背中を見ながら、決して爽やかとは言えない笑みを浮かべているトラ男くんだけど、それは他の女子に対して向けることのない素の表情に思える。
良く考えれば、彼も結構モテるのに彼女とか作らないのよね。
まぁ、私は彼の何処がいいのかよく分かんないけど。顔かしらね、多分。
「ねえトラ男くん、なまえのことどう思う?」
「はあ?」
「あの子、黙ってればかわいいと思うんだけど、中身がああじゃない。なんだか勿体ないと思わない?」
「さあな。けど、あいつが大人しいだけの女ならおれは興味ねえよ」
「…へぇ」
「…なんだ」
「別に?トラ男くんなまえに興味あるんだーって思っただけ」
「…ナミ屋、妙な勘繰りはやめろ」
「はいはい、そんなに睨まなくてもなまえには黙っててあげるわよ。ほら、授業遅れるでしょ。帰った帰った!」
何か言いたげなトラ男くんの背中を無理矢理押して廊下へと追い出せば、彼はもう一度舌打ちをして次の授業へと向かって行った。
さて、なまえは始業までに間に合うかしら。
ぶっちゃけどっちでもいいわ。
今は新しいおもちゃ見つけちゃったし。
だって楽しいでしょ。
正反対とも言える二人だもの。
でもきっと、案外ぴったりはまるかもしれない。
ある意味似たもの同士、お似合いなんじゃない?
end
楽しそうでなによりです。
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