ご提案


「典くん、典明くん、お買い物に行きましょう!」

この世界における僕、赤い髪の『花京院 典明』を見送ってから暫く後、赤髪の伴侶である彼女は一つ手を叩いてにっこりと笑い、僕たちにそう言った。

「買い物?…この状況で、」

僕と同じく突然この世界に現れたという銀髪の僕が、彼女の言葉に訝しむ。

ある意味当たり前といえば当たり前なのだろうけれど、彼と同じことを僕も思った。

しかし僕たちのこんな反応などお見通しだったのか、彼女は小さく笑って頷いた。

「はい。今、お二人は此処が何処なのか、どういう場所なのかも分かっていないですよね?」

「まぁ、そうですね」

答えながら銀髪の僕を見ると、彼も同じようにこちらを見ていた。
目が合って、互いに頷く。

「何をするにもまずは情報が大事です。臨機応変、どんな時でも行動できるようにするためには、視野を広げることが重要!」

「…一理ある、か。金髪はどう思う」

「確かに、僕たちは今右も左も分からない状態だから…知っておくことは必要なことかもしれない。と、思う」

「良かった。…ふふっ、流石典明さん」

「?」「?」

「今の言葉、前に典明さんが言ってた言葉をマネしたんです」

なるほど、彼女の言葉は僕自身の言葉だった。というわけだ。
…それなら、僕たちが納得してしまうのも頷ける。

…敵わないなぁ。

「さて、平日に制服姿のお二人を連れ出しては補導されてしまうかもですし…典明さんの服を借りてお着替えしましょうか!」

こんな状況下においても笑顔を崩さない彼女は、それでいて僕たちよりも冷静に物事を考えている。
服を持ってくるので少し待っていて下さいね!と言われ、僕と銀髪の僕は取り残されたリビングで顔を見合わせた。

「赤髪の奴、今頃やきもきしているかもしれないな」

意地悪く笑う銀髪は、此処に来たばかりの頃よりも随分肩の力が抜けているように感じる。
たった数時間で、この環境に。彼女に。状況に対して。

「彼女、天然なんだろうな…」

天然で、強い人。
僕の言葉に頷きこそしなかったが、銀髪はそれを否定もしなかった。

どうしてこんな、メルヘンだとかファンタジーだとかみたいな訳の分からない状況に陥っているのかはまだ分からない。

けれど、彼女が居たのと居ないのとでは、だいぶ心境が違ったのではないだろうか。

何枚かの服や帽子を抱えた彼女は、僕たちを知らない。
僕たちも、彼女を知らない。

けれどこの奇妙な安心感は…一体なんだろう。
なあ赤髪、お前なら分かるのか?

心の中の問いかけに返事はない。
多分、それは口に出しても彼が此処に居ても、同じ。

なんとなくそう思った。




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