頑なをほどいて


※参加型企画にて投稿頂きました作品です。

◇時間軸は特にない平和な世界。全員アジトで同居生活

まだ外も暗い中、暑さに喉が渇いて目が覚めた。真夜中だろうか。

キッチンに行くと彼はシンクにもたれ、ひとりグラスの氷をならしながら、なにかを思い起こしているようだった。

「今日はどこか痛むの?」

「…ああ、そうかもな」

同じようにグラスに氷を入れ、冷蔵庫からペリエを出して栓を抜いた。

「暑いね」

氷にぶつかって流れる音が心地良く耳に届く。

「なまえは眠れねェのか?」

「暑くて目が覚めてしまって。部屋のエアコン、やっぱりこわれてるのかな」

話しかけてくれてよかった。
思いのほか、感傷的になっていなかったようで安堵する。

「だったら、リビングを使えばいい。…まァ、誰に寝込み襲われても文句言えねェけどな」

「それは困ったな」

「その格好で無防備に寝てりゃあ、どうぞって言ってるようなもんだろ」

アバッキオの言う通りだ。
でも、不快で目覚めたはずの部屋にまた戻る気にはなれない。

「じゃあオレは戻るぜ。どっちでも好きにしな」

ひとついいことを思いついた。

「ねェアバッキオ」

「あ?」

「アバッキオの部屋で寝かせてくれない?」

「はァ?」

怪訝な顔をしたが、

「……チッ。ついてきな」

やはり優しい。

アバッキオの部屋はクーラーが良く効いていて、とても空気がかるい。
思わず胸いっぱいに吸い込んだ。

「涼しい〜」

「エアコンのスイッチはここだ。電気のはこっち。腹出して風邪ひくなよ。じゃあな」

あっさり出て行こうとする彼に驚く。

「え、待って!なんでアバッキオが出て行くの?」

「なんで…?オレがなんでお前と一緒に寝ることになってんだよ」

「私をこの部屋に置いてくれるだけでいいんだよ?タオルケットだけ持ってきて床で寝るからさ」

アバッキオは心底呆れたという顔で私を叱った。

「バカ言うな!お前は疑うってことを知らねェのか。ひとつ言っておく。オレはお前と一緒に寝ることはない。たとえ離れててもだ。同じ部屋で女をやたらに寝かせたりしねェんだよ」

「…ごめん」

「わかったらさっさと寝ろ!オレがリビングで寝る」

「…アバッキオ、どうしてもだめ?」

「オイ、いい加減にしろよ」

「だって、そこまでしてもらっちゃ悪いよ」

「てめェは…」

「ごめんなさい。私やっぱり自分の部屋に戻るね…」

そう言ってアバッキオに背中を向けると腕を掴まれた。
びっくりして振り返る。

「なまえ…、お前はなんにもわかっちゃいねェ」

「え…?」

鋭く凄まれてしまい、彼を怒らせてしまったことに心底後悔した。
こんなふうにさせたかったわけじゃない。

「オレがどれだけ自分をおさえてんのか、わかってねェって言ってんだ」

距離が一歩、詰められる。

「なまえ、お前が誘ったんだ。覚悟はできてんだろうな」

顎に手が添えられ、顔が少し上を向く。

「かくご…?」

そう言った途端、掴まれていたままの腕をグイとひっぱられたかと思うと、私はベッドへ放られた。
アバッキオが覆いかぶさり、両手を固定される。

こんなことは予想しなかったけれど胸が高鳴った、たったいま彼をとても好きだと思った。

「覚悟はできたか?」

「…ハイ」

夜明け前、結局2人とも汗だくになり、シャワーを必要とした。

それぞれが目を背けていた問題は解決し、事実、この日恋人と呼べる関係になった。

今日起こったことは、どこかできっとずっと待っていたんだろう。
この気持ちがハッキリと浮き彫りになってわかった。
認めることはとても簡単なことだった。



再び私が目を覚ました時には、みんなリビングに顔を出す時間になっていた。
アバッキオの部屋しかない、リビングにつながる左側のドアを開けて入ってきた私に、みんなが言葉を失い、そのうち1人が頭を抱えたのだった。

さて、どこから話そう。


end


★筆者:まり様




- 5/6 -

前ページ/次ページ


一覧へ

トップページへ