チームメンバーにフレッシュジュースを作ってあげる
※参加型企画にて投稿頂きました作品です。
◇5部終了後。ブチャラティチーム生存の平和なギャング(ジョルノのみ不在)。アジトで共同生活。
「アバッキオ、のど乾いてない?」
私は買ってきた紙袋をキッチンにドサリと置きながら、ちょうど自室から顔を出したアバッキオに声をかけた。
「なまえだったか」
「だれか待ってるの?」
「ミスタとフーゴとナランチャがもう戻るはずなんだが…」
任務に出た3人から、戻ると連絡があってから少し遅いので気になっていたらしい。
「連絡してみる?」
「いや、どっかで寄り道でもしてんだろ。もう少し待ってみるか」
そう言って冷凍庫を開け、グラスに氷を入れようとするアバッキオを制止した。
「あっ待って!実はレモンとオレンジをたくさん買ったから、ジュースにしようと思うの。たまには、フレッシュなのもいいでしょ?」
「わかった。じゃあ頼む」
「すぐ作るから、出来たら持ってくね〜」
そう言ってはりきったらますます気分がノる。
アバッキオを自室へ帰し、急いで他のものをしまい込むとオレンジとレモンをテーブルじゅうにごろごろと並べた。
今度は玄関側からのドアが開くと、フーゴが入ってきた。
「フーゴ、おかえりなさい」
「あぁなまえ。これは、今日はずいぶん買い込んだんですね」
「そうなの、たまにはフレッシュなジュースで元気になってもらおうと思って」
私の返事を聞きながら、フーゴもまたグラスを片手にする。
「待って待って!今からなの。ジュース、すぐ作るから飲まない?」
「わかりました。じゃあお願いします」
優しく微笑むフーゴにホッとする。
「あっそれと、絞り器しらない?柑橘類を半分に切って、ギューっと押しつけながら回すとすぐできるアレ」
「ああ、それならここにありますよ」
戸棚からすぐに出てきた絞り器は、それなりにキレイで、もしかすると誰かが愛用しているのかもしれない。
「ありがとう!じつは使ったことないんだけどねー」
ふふっと笑うと、フーゴもふふっと笑う。使い方を教えてくれるようだ。
とにかく、オレンジとレモンをそれぞれ5つほど半分に切っておく。
(そういやアイツ、あの量のオレンジをわざわざご丁寧にむいてんのか?絞り器があれば氷を入れたグラス一杯ぶんくらいは、短時間でできるだろ)
アバッキオもじっとしているのは容易いが、いい暇つぶしか、となまえのいたキッチンに戻ろうとドアを少し開いたところで、彼の動きは止まった。
「ダメです。ホラ、もっと奥まで…」
「あっ…待って痛い!そんなに押し付けないで…」
「あぁすみません…でもこれじゃいつまでも出ませんよ?」
「うん…そうだね」
(こッ、こいつら何してやがんだ)
なまえの背後にピッタリと立ち、フーゴが自分の手を重ねている。ここからはほとんどフーゴの背中しか見えないが、この会話は…。
アバッキオは静かにドアを閉めると、自室へ戻った。
(なんだこの気分は…)
苛立ちやジェラシーや悲しみににたものが押し寄せ、それと同時に興奮さえある。
すぐに自分を納得させるのは難しいようだった。
「フーゴ、ありがとう!絞るの手伝ってくれたお陰でグラス一杯分はあっという間だったね」
「いえ、僕が力を入れ過ぎたばっかりに、なまえの手を強く押さえ付けてしまってすみません」
「ううん、もう平気だよ!果汁にするのってこんなに大変だったかなァ。まずは先着順、1番のアバッキオに持って行ってくるねー」
「アバッキオ!おまたせー」
ドアをノックするが、すぐに返事がない。
「…?アバッキオ?いないの?」
「…ああ。悪いな、今はもう飲みたい気分じゃねェんだ」
帰ってきた答えはさびしいものだった。
アジトに戻って、最初に会えたアバッキオに飲んで欲しかった。
ただ、無理強いはできない。
「わかった。冷蔵庫に入れておくから、また気が向いたら飲んで」
キッチンに戻ったとき、すでにフーゴは自分でジュースを半分ほど作ってしまっていた。
「悪いと思ったんですが、喉が渇いていて…作り始めてしまいました。せっかくなまえが作ってくれると言ったのに」
「とんでもない!アバッキオに断られちゃったから、先にこれを飲んでもらってよかったんだけど…」
フーゴの筋が浮き出た、腕やら手の甲に釘付けになる。
レモンの香りがどんどん弾けてくる。
「なまえも飲みますか?」
微笑むフーゴに照れ笑いを隠し、ひとまず断った。
次に入ってきたのはナランチャだった。
「あっち〜のど乾いた〜〜。くっそ〜〜ミスタのやつ〜〜」
「おかえりなさい、ナランチャ」
「いつまでケンカしていたんです?」
フーゴの話だと、ジェラートを並んで買った3人だったが、ミスタとナランチャがケンカを始めてしまい、2つともダメにしてしまったのだそう。
この時点で、先にフーゴが帰ってきたとゆうわけだった。
「ミスタは?」
帰ってこないほど大ゲンカだったのかと心配になった私はたずねた。
「風呂」
やはりそっけないナランチャの声。
このジュースを作ってあげれば、少しは気分も変わって元気になってくれないかと思う。
「ナランチャ、オレンジとレモンのジュース作ってるんだけど、飲まない?」
「たしかにいい匂いだなー。でものど乾いてっから早くしてくれよォ」
「はーい。ちょっと待っててね」
そう言って新たにオレンジたちを半分にしてゆく。
「じゃあボクは部屋に戻りますね」
すっかり自分で作ったジュースも飲みほして彼は言った。
「ありがとう、フーゴ!」
静かに楽しそうな顔をするフーゴは久しぶりかもしれないと思った。
「見てみて、ナランチャ!さっきフーゴに教えてもらってさ。オレンジ、うまく絞れるようになったんだ」
「そんなの誰でも絞れんだろ〜〜。だいたい絞るだけのそれの、いったい何を教えてもらうんだよ」
「…え?そう言われればそうだけどー…力加減が難しいのかな?後ろから手を支えてくれて、一緒にぎゅーっとやったよ?」
「…なまえさぁ〜〜もうちょっと気をつけろよな〜女なんだしよォ」
めずらしくナランチャに呆れ顔を向けられてしまった。
「なぁに?どうゆうこと?」
「フーゴはたぶん、わかっててやってんだぜ」
「え〜〜…そうかなぁ??」
ナランチャの言葉にびっくりした。
フーゴがわかっててやったなんて、なんだか人聞きが悪い。
「とにかく、急いで作るから。ね?」
「わかったよ」
そう言ってナランチャはダイニングの椅子に腰かけた。
私は急いで、切ったオレンジをさっそく絞り器に乗せ、捻りながら強く押し付けた。
そのとき、
「あっ」
絞り器がオレンジを乗せたままごとんと、すべってしまう。
「…しょうがねぇな〜。手伝ってやるよ」
「ありがとう。助かるよ、ナランチャ」
(あ〜〜サッパリした。しっかし、ナランチャのやつ、反省してんのか)
シャワーから戻ったミスタがキッチンに入ろうとドアノブに手をかけたそのとき―――
「やっぱり男の子だねェ」
「あったり前だ。んんッ…」
「すご、きゃッ…」
「あっ悪いなまえ!顔にかかっちまったか」
「ん、大丈夫……美味しい」
「マジ?」
「本当だよ」
「でもよォ、なまえ。フーゴともやってたんだろ?こんなことはされてねーよなぁ…?」
「すごく上手だったよ、フーゴ」
「フーゴのやつ、何やらせてもウマイんだよな〜〜」
「ナランチャ、ほらもっと」
(なッ、何だよこの会話はよォ〜〜。キッチンで何やってんだよッ!ウソだろ〜…まさかなまえが…しかも、フーゴともやってたって…どいつもこいつもなんなんだッッ)
ミスタは驚きとショックのあまり、ドアを開けることさえできずに、部屋にこもってしまった。
「そう言えばミスタ、もうお風呂出たかな?ナランチャ、これ持って行ってあげたら?」
ひとつナランチャに差し出すも、横を向いてしまった。
「ぜってーやだ!」
グラスを勢いよく私の手から取ると、できたてのジュースは吸い込まれてゆき、あっとゆう間に彼のお腹へおさまった。
「もう、ナランチャってば。あとで仲直りしてね」
やっぱり、私が持っていくか。
「ミスタ、いるー?」
コンコンとノックが聞こえると、なまえの声がした。
(うッ、なまえか…いったいどんな顔して会えばいいんだよ)
「ミスタ?」
情事を見たわけではないにしても、あの会話はミスタの妄想をかき立てるにはじゅうぶんなものだった。
「…あ、ああ。なまえか」
「よかった、戻ってたんだね。実は、さっきね、ナ」
(“実はさっき”だと!?)
「やめろッ!それ以上言うなッ…」
「え?どうしたの?」
(コイツ、知らねーで言ってんのか?それとも、知っててワザとなのか?けど…今のオレには聞く勇気なんてねェ…)
ミスタの様子が気になる。機嫌が良くないのか、具合が良くないのかわからない。
どちらにせよ、いつもみたいにドアを開けてくれない。
それとも、何か気にさわることでもしてしまったのだろうか。
顔が見えないと、なにもわからないままだ。
「ミスタ、よかったら…その…入れてくれない?なかに…」
(なにィ!?な、何言ってんだコイツは!なに、堂々と誘ってんだよ!こんな日も明るいうちから…っつーか、さっきナランチャともやってたんじゃあねーのか!?)
「だめ…?」
(いやいや、ダメなわけねーッ!ダメじゃあねェけど、、なんつーか、これでいいのかよ…なまえも、オレも…)
「…なまえよォ、本気で言ってんのか?」
「え…?ほ、本気だけど…。イヤならいいの。無理にってわけじゃないし。ただ…ミスタのこと気になって…」
そこまで言うと、ミスタがやっとドアを開けてくれた。
なんだか思いつめた顔をしているように見える。
「おまえさァ、わかってて言ってんだろうな?」
やはり何かあったのか、追い詰めるような話し方に、こちらも動揺してしまう。
突然、後方のドアがガチャっと開いて、ブチャラティが顔を出した。
「なにかあったのか?」
「あっブチャラティ。邪魔しちゃったかな」
「いや。どうした?」
ブチャラティのおだやかな表情と話し声に、私も平静を取り戻す。
「…なんでもねェ」
拗ねるような言い方でミスタはドアを再び閉めてしまった。
彼の返事もまた寂しいものだった。
(間が悪いぜ…ったくよォー…あと一歩でなまえを引き込めたってのに…)
ブチャラティに向き直った私はたずねる。
「大丈夫。ブチャラティは、どう?」
そう言って持ってきたジュースの入ったグラスを持ち上げてみせる。
ブチャラティはすぐに、私が作ったものだとわかったようだった。
初めここに来たころは、やたらにオレンジを剥いてジュースにしたことがあった。
かなり骨の折れる作業で、グラス一杯分がやっとだった。
淵についた果肉の片を見ると思い出したのか、ブチャラティはフッと笑った。
「久しぶりだな。廊下は暑いだろう。こいつは中で楽しむとしよう」
ブチャラティは冷房の効いた自室へ招いてくれ、グラスをさらりと受け取った。
(…なッ、なんつーやつだッ!アイツは、あんな尻の軽い女だったのか!?いま、オレがドアを閉めてすぐに、ブチャラティに乗り換えやがったッ!しかも、“久しぶり”だと!?……ハァ…。オレもう、今日は何もしたくねぇ…)
ミスタはベッドにゴロンと丸まると、ほどなく眠りに落ちた。
結局、お昼を過ぎてもキッチンに全員が揃うことはなかった。
アバッキオやミスタはもちろん、フーゴは眠っているようだった。
ナランチャとブチャラティと私でペンネアラビアータを食べ、そのあとナランチャがレンタルしていた2本目のDVDをみているときだった。
リビングにアバッキオが入ってきた。
「あっアバッキオ、大丈夫?」
あからさまに目を背けられ、こちらもやはり気になる。
「ああ…大したことねェ」
「そう…?ならよかった」
そう言えば、冷蔵庫に入れておいたジュースは飲んでくれるだろうか。
頑張って作ったのだ、喜んでくれるかも。リビングを出て、アバッキオについてキッチンに入った。
「これ、さっき作ったやつ。よかったら飲んでみて?美味しくできたと思うの」
冷蔵庫からグラスを取り出し、手渡そうと振り返る。
アバッキオは咎めるように、思いつめたように話し始めた。
「…なまえ。ひとつ言っておく。おまえが誰とどうなろうが知ったこっちゃねェと思ってた。けどな、そんな簡単に他の男に体許してんじゃあねェぞ」
「え……?どうゆうこと?」
「さっき、見ちまったんだよ。……オマエがここでフーゴとやってんのをな」
「え…なぁに?それ」
明らかに勘違いだと笑える。
でも彼は、アバッキオは真剣な表情だ。なんだか、悪いような気さえする。
でも、いいことが聞けた。少し嬉しい言葉が。
「あれ?アバッキオ。今言った、“他の男”に体許しちゃダメってことは、アバッキオならいいの…?」
「ッッ…!バカ言ってんじゃねェ」
からかうようなセリフに、アバッキオを怒らせてしまい、フーゴの件は、きちんと説明した。
それでも、彼もナランチャと同じことを言う。
「いいか。あんなモンはやって見せりゃあわかるんだ。てめェがスキだらけな証拠だ」
「そうなのかなァ…でも、おかげでアバッキオからイイコト聞けたし、よかったのかな〜。“オレ以外に体をゆるしてんじゃねェ”だったっけ」
おかしくてつい、ふふっと笑ってしまった。
「てめェいい加減にしろッ!」
優しさを含めた言い方や表情にホッとして、こんなやりとりを楽しむ。
このときキッチンドアの向こう側で、ようやく出てきたミスタが、最後の会話だけを耳にし、さらに固まっているなんて知りもしないで…。
「そう言えば、ミスタが部屋にこもったまま全然出てこないんだよね。様子もなんかヘンだったし…。なにかあったのかなァ」
「アイツもおかしなところに居合わせちまって、出づらくなってんじゃあねェか?」
アバッキオはそう言って笑ったが、
「ちょっと見てきてやれ。ただし、おかしなことはするなよ」
急に真面目な顔になる。
「おかしなこと?」
アバッキオが詰め寄ると、距離がなくなり…
「こうゆうことだ」
唇が合わせられた。
「用心しろよ、特にアイツはな」
言い捨てるようにして、アバッキオは自室へ戻っていった。
腰が抜けてしまいぺたりと床へ、へたり込んでしまった。
キッチンの窓からは夕焼けが見える。
それは、今日は本当に良い天気で美しく、とても平和なことのようだ。
ミスタが相変わらずキッチンやリビングにも顔を見せないなんて、昼間のおかしな態度もさすがに気にかかる。
夕食のメニューが決まっていない。ミスタの好物でも作れば元気になるかもしれないし、易しい悩みだったならそれで忘れられるかもしれない。
自分にできるのはそんなことくらいだ。
昼間と同じように彼の部屋の前に立ち小さくドアをノックした。
「なんだ?」
すぐに返事があったが、元気がないままだ。
「わたし。…ミスタ、何かあったの?今日、様子がヘンだから気になっちゃって」
(一応、心配されてんだな…)
そっとドアが開く。
「ミスタ…、顔が見れてよかった。安心したよ。今日いつものミスタじゃないみたいだから、何かあったのかなって」
(あんな真似して、何かあったのかだと…?)
「……やっぱり私、ミスタに何か悪いことしてたのかな…」
彼の表情は複雑だ。
「いや…おめェが意外だったっつーか。もっとちゃんとしてるやつだと思ってたからよ…ちょっとガッカリした」
「えっ?まって、なんのこと?」
「よく言うぜ」
「怒らないで。本当にわからないの。あなたを知らずに傷つけていたなら、ごめんなさい。でも私、ミスタが心配で…。だから元気になってほしくて、今日の夕食はミスタの好きなものにしようって思って。食べたいものを聞きにきた」
「…そうかよ…。けどよォ、ハッキリ言うが、オレはオマエを見損なったぜ」
あまりの言葉に、悲しみがドッと溢れ出す。ミスタの顔が霞んでゆく。
「…わたし、なにをしたの?」
「尻の軽い女だって言ってんだよ」
どうしてそんなことを言われなくちゃいけないのか。
ジュースを持っていけば、素っ気なく冷たい。心配で話しかけても、怒ったような態度。
元気付けようとしたらば、見損なったなどと言われ、まったくわけがわからない。
尻が軽いなんて、なぜそんな……
あ…さっきのアバッキオの…?
見られていたの?
いや…でもそれはほんの数分前のことで、ミスタの様子がおかしかったのは昼前からだ。
けれども、わたしの口からは言えない…。不意打ちだったあれは仕方ない、と思いたい。
「そんなこと…。一体ミスタは何を見てそんなことを言うの…?」
怖かった。ミスタに嫌われることは、もっとも恐れていることだから。
「…見たっつーか、聞いちまったんだよ」
少しだけうつむいたミスタが話してくれる。
「今日なまえがナランチャと、キッチンでのその……声を…」
「え…?」
もしかして、今日の昼のことを言っているのか、と考えてみるも、ただジュースを作っていた。
それをどう勘違いしたのかはわからないが、とにかく間違いだ。
「しかも、ナランチャのやつ、なまえがフーゴともやってたって…」
「それは…」
「そのあとすぐにオレんとこに来て、誘ってくるじゃあねーか」
「だから」
「そうかと思えば、ブチャラティを誘って部屋へ入っていっただろ。久しぶりだとかなんとか…」
「ちょっ、ちょっと待ってよミスタ!おかしいよ!」
「何がおかしいんだよ」
鋭い目だ。どんどん悲しみが湧いてくる。
「ちがうよ…私、今日はみんなにジュースを作っていたの。慣れなくて、フーゴやナランチャに手伝ってもらって…。それでお昼にここへ来た時、ミスタに飲んでほしくてジュース持ってきてたんだよ?なのに…ミスタったら気づきもしなかったの?」
「…へ?」
とうとうこぼれ落ちてしまって、涙は床を濡らした。
「ブチャラティは、久しぶりに作ったジュースを喜んでくれただけだよ…」
「そ…そうだったのか…」
ミスタの表情はすでに力が抜けていた。
「ミスタが元気がなくって、何か失敗でもしたのかな、落ち込んでるのかな、疲れてるのかな、私なにかしちゃったのかなって…ずっと気になってたのに…」
ぽたぽたと涙の落ちる音が聞こえる。交互に、落ちて行く。
「悪ィ…、オレの勘違いだったんだな…なまえ、ひどいこと言って本当に悪かった」
「…ホント。ひどいよ、ミスタ…」
ギュンと腕を取られ、抱きしめられてしまった。
もう泣くなと言っているのだろうか。
ああ、なんて安心するんだろう。
ずっとこうしたかった。
グッと愛しさが湧いてくる。
「悪かった。オレは…オマエをもっと信じるべきだった」
「うん…、」
「だがよォ、だったらもう遠慮はナシだ」
「?」
ミスタを見上げる。
「なまえおめェにももう遠慮はしねェって言ったんだ。誰にも、もう遠慮はしねェ。さっきオレに何が食いたいかって聞いたよなァ?オレの好物にしてくれるって」
「うん…!リクエストに応えるよ」
「オレの好物食わしてくれるんだよなァ?」
少し嬉しそうな顔。
「なにがいい?」
「まずは前菜からだ」
口角を上げて、彼はかぶりつくように私の唇を貪った。
西日が落ちる。
ああ…アバッキオの忠告、守れなかった。
end
★筆者:まり様
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