承太郎が執事?


◇承太郎さんはアメリカの大学に通っている頃。(多分20歳〜21歳くらい)。


「38.2℃。…風邪だな」

承太郎が告げたその言葉で、だるい身体が余計にだるさを増したような気がする。

昨日の夜、ちょっと鼻の奥…喉に違和感があるかな。とは思っていた。
けれどもその時は“痛い”と断言する程でもなかったし、妊娠中に微熱っぽい事はよくある事だから。
まぁ、つまりは油断というか、寝て起きれば何事もないだろうと…安直に考えていた。

それが、今朝いつもどおりに起きて…いや、起きようと、したのだけれど。

「じょ、たろ…げほっ、ごめ、」

「無理に喋るんじゃあねえ。…喉、痛ぇんだろ」

「…うん」

承太郎の言うとおり、喉が痛い。身体はだるくて節々が痛むし、鼻も詰まっているようで若干息苦しい。頭痛はそれ程じゃあないけれど、息苦しいせいもあってかかなりぼぅっとする。

風邪なんて、とても久し振りに引いてしまった…。

布団に横たわるわたしの前髪をかき分け、承太郎の大きな手が額に触れた。
いつもはあったかいって思うけど、今日は少しだけ冷たく感じる。

「薬は…飲まねぇ方がいいんだったか」

うん。妊娠中は、極力薬を使いたくないから。
わたしはひとつ頷いて、そっとお腹を撫でる。承太郎にはわたしの思ってること、きっと伝わっただろう。

「なら、飯食って寝て治すしかねえな」

小さく息を吐いて立ち上がり、わたしの隣から離れていく承太郎を目で追いながら、ちょっとだけ。ほんのちょっとだけ寂しいな、なんて思うのは…きっと、風邪で弱ってるせい。

「少し出てくる。…何か要る物はあるか?」

ドアに手をかけながら聞いてくる承太郎に、「側に居て欲しい」と思いつつ…そんな子供みたいな我儘は言えない。
だからわたしは小さく首を横に振って答える。

「分かった」

承太郎は短くそう返して、そのまま行ってしまった。

…出てくる、って…大学に行くのかな。

いつもより随分時間取っちゃったけど…講義、間に合うかなぁ…。

霞みかかった頭で、ぼんやりとそんなことを考えているうちに、わたしはいつの間にか眠ってしまったようで。

次に目を覚ましたのは、ひやりとしたものが額に触れた時だった。

「…ん、…じょ、たろ…?」

「悪い。起こしたか」

「あ、れ…大学…行ったんじゃ…げほげほっ!」

「…大学?」

何故承太郎が戻って来ているのか。それともそんなに長い時間わたしは眠っていたんだろうか。

身体のだるさとぼんやりする頭のせいで、微妙に時間の感覚があやふやなわたし。

言葉の途中で咽てしまったけれど、どうやらわたしの言わんとしていたことが承太郎には伝わったみたい。

「こんな状態のお前を置いて大学に行ったと思っていたのか。やれやれ…おれは随分薄情者だと思われているらしい」

「!あ、ごめ…なさ、」

「冗談だ。お前を置いて行ったのは事実だしな…悪かった」

眉間に皺を寄せて溜息を吐いた承太郎に、慌てて上体を起こして謝ろうとしたわたしをやんわりと制し…困ったような笑みで彼はそう言った。

承太郎が謝るような事なんて何もない。

わたしは重い腕を持ち上げて、承太郎の手を握り首を横に振る。
承太郎なら、これだけで分かるはずだよね。

「…なまえ、身体起こせるか」

「うん」

背中に手を添え、ゆっくりと起き上がるのを手伝ってくれて、おまけに起き上がって布団から出た肩にカーディガンまで掛けてくれた承太郎。

まるで執事みたい。
言葉は少ないし、ちょっとぶっきらぼうだけど。

元執事のわたしが言うのもなんだけれど、こうやって尽くされるの…ちょっとむず痒くもあるね。

そんな事を考えていると、小さな土鍋が乗ったトレイが差し出されていた。

「これ…、」

「…おれは粥なんて作ったことはねえし、食ったこともあまりねえから味の保障はしかねるが…食ってまずいもんは入れてねえぜ」

トレイを受け取り、膝に乗せて土鍋の蓋を開ければ、そこには少し入れる水の量が多かったらしいお粥。
それから溶いた卵と刻んだネギが見える。

シンプルだけれど、承太郎が一生懸命考えて作ってくれたんだろうと思う。

この際、味なんてどうでもいい。
承太郎がわたしのためにこのお粥を作ってくれた。
それだけでなんだかすごく元気になれた気がする。

「いただきます」

「…おう」

何処かそわそわしているように感じる承太郎を横目に見つつ、湯気を上げるそれを冷ましながらゆっくり口に運ぶ。

それは、失礼ながら思ったよりも随分と美味しかった。
出汁の味と、生姜の味。
お米はとても柔らかいけれど、食欲のない今の状態だとむしろこっちの方がするすると入ってくる感じ。

「おいしい」

「そうか」

「承太郎…ありがとう」

「当たり前の事にいちいち礼を言わなくていい」

当たり前の事。
ううん、違うよ承太郎。

全然当たり前なんかじゃあないんだよ。

些細なことかもしれない。大袈裟だって言われるかもしれない。
でも、わたしにとって今のこの状況は、まるで御伽噺とか、パラレルワールドとか。
そういう実感のないものに似ている。

だからやっぱり言わせて欲しい。

「ありがとう」

気恥ずかしそうにする彼の唇が、考えてること全部を飲み込むように…わたしの唇から言葉を奪い去っていく。



end


徐倫ちゃん誕生までもう少しってとこでしょうか。
6部の情報から見ると、多分承太郎さんが22歳の時に誕生しているハズ…。




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