承太郎の執事3


「これは一体…」

ある晴れた休日。研究の助手として承太郎に付き合い一週間ほぼ研究室に缶詰だったなまえは、一週間ぶりに帰った自室の前で驚愕していた。

部屋の中には、一週間前には確かに存在していなかった“山”が形成されていたのだ。

色とりどりの箱や袋の、文字通り…“山”が。

約20年の間離れに住み込みをしていたため、未だに母屋の新しい自室に違和感を感じていたなまえは、まさか部屋を間違えてしまったろうかと一度襖を閉める。

しかし左右を確認しても自分の記憶を確認しても、今目の前にある部屋で間違いないはずなのだ。

そして閉めた襖をもう一度開けた時、パタパタと小気味のいい軽い足音が聞こえた。

「なまえちゃん、おかえりなさい」

「ただいま帰りました。奥さ…お、お義母さま」

「ふふっ、まだまだぎこちないわねぇ」

「す、すみません…」

申し訳なさそうに謝りながら、なまえは照れ臭さを隠しきれずに赤面していることを自覚している。
たかが呼び方ひとつと言われるかもしれない。しかし彼女にとってそれは大きすぎる変化。

ホリィもまた、そんななまえの心境を分かっているからこそゆっくりで良いと。そう思っているのだ。

「あのところで…これ、一体何なのでしょうか?」

話を逸らしつつ、目下最大の疑問点である自室の状況について何か分かればと思い、なまえは例の箱の山を見つめ、問う。

「ああ、なまえちゃんへの贈り物よ」

「おくりもの…?」

こんなに大量の宅配物が何故自分宛てに届くのだろうか?
なまえは首を捻り考えるが、それらしい答えに辿り着くことはできなかった。

「あっちのはパパ…ジョセフおじいちゃんから。それでこっちのがスージーおばあちゃんで、これが貞夫さんからよ」

にこり、いつもどおりの明るい笑顔でホリィが教えてくれた答え。

一山につき一人の差出人とは、一般人の感覚を持つなまえに想像できたはずもなかった。

「(ジョースターと空条の方々の感覚に追い付けない…っ!)」

いや、正直追い付いてはいけない領域のような気さえする。

本当に彼らの感覚や行動力には驚かされっぱなしだと、改めてなまえは思った。


そう、この家に嫁ぐことを決心したあの時から、ずっと…−。


まだ三週間も経っていないというのに、なんだか少し懐かしい気さえする。

執事という身分を主自ら解消し、あれだけ顔向けできないと思っていた承太郎の母、ホリィに背中を押され。

もう、自分の感情に蓋をすることも嘘をつくこともできないと、ようやくなまえは覚悟し、決意したのだ。

承太郎はその決意に言葉こそロクに返しはしなかったが、ぎゅっと抱きしめる彼の温かさと安堵したような表情に、何か肩の荷が降りたような、そんな心地だったことを鮮明に覚えている。

それから二人は、承太郎の父に付いて海外を飛び回っているなまえの父の元へ連絡し、報告と自分たちの想いを包み隠すことなく告げた。

突然のことに驚愕こそしていたが、反対の言葉を口にすることは一切なく、ただ「うちの娘を、よろしくお願い致します」と。

あの時は流石の承太郎も緊張した面持ちをしていたが、しかし揺らぎはなかった。
例え反対を受けようとも、きっとそれは変わらなかっただろう。

二人はすぐにホリィへと正式な報告とお礼をし、柔らかな笑みと抱擁で祝福を受けた。

承太郎の父、貞夫へと連絡し、報告と挨拶をした時、「ようやくか」と言われたことが衝撃的で、それはアメリカのジョースター家に連絡した際にも同じようなことを言われ、承太郎と二人、顔を見合わせて赤面したものだ。

そこからは怒涛のような日々だった。

役所へ諸々の書類を申請し、離れから母屋への引っ越し。
承太郎は必要ないと言ったが、側にいるからには役に立ちたいのだと秘書の資格を急きょ取得した。
もともと執事業の一環として似たような作業もマナーも心得ていたなまえにとっては大した難関ではなかったが、秘書の資格は一つではない。
一週間で受けられるだけの試験を受けた。

それから、承太郎の研究室に一週間缶詰。

妊婦なんだから無理をするなと承太郎は心配するけれど、なまえ自身無理をするつもりはない。

ただ、出来ることを出来るうちにやっておきたいと、そう思ったのだ。


空条 承太郎の妻、空条 なまえとして…−。


「…すげー事になってんな」

「承太郎」

廊下から聞こえた声に、襖を開けたままだったと思い出しながらその声へと振り返る。

承太郎は静かに襖を閉めながら部屋へと入り、例の“山”たちを眺めた。

「どうせジジイや親父からだろ」

「あはは…、ご明察」

「見ねえのか?」

「いやぁ、何処から手を付けていいものやらと思っちゃって…なんか、申し訳ないし」

「あいつらが好きでやってんだ。貰えるもんは貰っとけよ」

そう言うと、承太郎は手近にあった箱を手に取り、おもむろにその包装を開け始めた。

思いのほか丁寧な手つきで開かれていく包装紙。
ほとんど破くことなく剥がされたそれを横に置き、承太郎は蓋を開けるばかりとなった箱をなまえへ差し出す。

「あ、ありがとう」

箱を受け取り蓋を開けると、中には可愛らしいワンピース。
一緒に入っていたカードには、「妊婦服としても使えるお洋服をチョイスしたわ。妊娠していても着飾ることは大切よ」との一文が。

スージーQらしい。実にスージーQらしい。
なまえはそう思いながら、ひらひら、というかふわふわ、というか。
決して派手ではないと思うその服も、今までスーツばかり着ていた自分にとってはかなり縁遠いもので。

手に持ったその服を着た自分を想像できない。

似合うのか似合わないのか以前に、違和感が総動員している。

「そのチョイスはスージーばあちゃんか」

「へぇ、やっぱり分かるんだね」

「ああ、ばあちゃんは人に合う服を選ぶのがうまいからな」

「…えっ」

さらりと言う承太郎に頷きかけたなまえだったが、その言葉の意味に思わず声が漏れた。

「なんだ?」

「似合う、かな?わたしに…」

「おれは似合うと思うぜ」

「そっか…。ん、ありがと」

実際に着てみないと分からないことは確かだけれど、それでもこの可愛らしい服が似合うと言われて嬉しくないわけがない。

「(ありがとうございます、スージーおばあさま…)」

口元が緩むのを感じながら、なまえはそっとその服を抱きしめる。

それから贈り物をひとつひとつ開けていく。
なまえへの贈り物、承太郎となまえ…夫婦への贈り物。そして、生まれてくる子供への贈り物。

そのどれからも贈り主の温かい想いや心遣いが伝わってきて、なまえは本当に幸せだと思った。

そしてそれは承太郎も同じ。

紆余曲折、此処に至るまで長い道のりだった。
平和な日々を願うけれど、大きな波乱がこれから起こるかもしれない。

それでも、この愛しい存在を。大切な人々を。
守り抜きたい。いや、守り抜いてみせる。

口にこそ出しはしないが、二人は心の底で同じことを誓っている。

それはきっと、生まれてくる子供にも伝わり、そして受け継がれていくだろう。






end




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