目覚め


―…ここは、どこだろう…?

建物の中だろうか、とても薄暗い。

「なまえ!なまえ…ッ!」

誰かがわたしを呼んでいる。

わたしは、倒れているのだろうか?
天井を遮って、誰かがわたしを覗き込んでいる。

暗くて顔は分からないけれど、しきりにわたしの名前を呼んでいるのは、どうやらその人らしい。

でも、すぐ目の前にいるはずなのに、とても遠くから聞こえるような気がする。

この声は、きっとポルナレフだ。
とても必死に、わたしの名前を呼んでいる。
いったい、どうしたんだろうか?

頭の隅でそう思いながら、でも意識がどんどん遠くなっていく。

瞼が落ち、世界は暗闇になった。


「−…この女を生かす術を私は持っている」


真っ暗な世界の中で、はっきりと聞こえる声。

さっきまではあんなにも遠くに感じられたのに、何故だろう。

いや、そんなことよりも。
この声は…あの吸血鬼の声だ。

聞き違うはずがない。

あの旅で確かに倒したはずだ。
彼は灰となって消えたのだ

本当に、いったい何が起きているというのか。

瞼を開きたくても、相変わらず世界は暗闇のまま。

声だけが聞こえてくる。

「お前たちでは決してこの女の命を取り留めることはできないだろう」

「テメェ…ッ!何をするつもりだ?!」

「なぁに、簡単なことさ」

「やめろッ!!」



「…は…っ、」

承太郎の、つんざくような大きな声が…聞こえたような、気がした。

それと同時に、勢いよく開いた瞼。

「あ、れ…」

蛍光灯が照らす見慣れた白い天井。

背中に感じる柔らかい布団の感触。

ドクドクと早鐘を打つ心臓。
それに合わせて繰り返される浅く早い呼吸のせいで、喉は乾いてヒリヒリしている。

どうやら、わたしは夢を見ていたらしい。

どんな夢だったのかはよく覚えていないけれど、額や背中に感じるじっとりとした汗と、この心臓の騒ぎようから、ろくな内容じゃあないことは明確だ。

「あれ、今日は早起きじゃあないか」

「!」

心臓と呼吸を落ちつけていると、よく知った声が聞こえた。

「おはよう、なまえ。よく眠れたかい?」

「…おはよう、花京院。なんか、ものすごく悪い夢を見てた気がするよ」

「おや、それは良くないな。身体の調子が悪いってことはない?」

「…ん、別になんともない」

わたしが横になっているベッドのすぐ傍まで来て、花京院は心配そうにわたしの顔色を窺う。

脈を測ったり、体温を測ったりして、わたしの言葉どおり異常がないことを確認していく。

「…うん、異常なし」

柔らかい笑顔を浮かべ、わたしの髪を撫でてくれる花京院。

エジプトの旅から5年の月日が流れた今、彼は大学に通いながらSPW財団に所属し、医療の勉強をしているという。

わたしはといえば、あの旅で重傷を負い、1年前にようやく意識を取り戻した。

だから、花京院がメガネをかけて、白衣を着て、わたしの治療に携わっているという話をジョースターさんから聞いた時は、まるで浦島太郎にでもなった気分だった。

彼は随分と慣れた手つきで、遮光用の黒い点滴パックを点滴台にひっかけ、わたしの腕に通されたチューブと結合させていく。

「なんか、これがあると『あー、病人なんだなー』って思っちゃうなぁ」

「…消化器官がまだまだ食べ物を受け付けられる状態じゃあないんだ。…ごめん」

「花京院が謝ることじゃあないよ。わたしこそ、ごめんね」

困ったように笑い、花京院はチューブの突き出している部分の皮膚を軽く撫でる。

「痛くない?」

「うん、平気。ドクターの腕がいいからかな」

「ふふっ、ありがとう」

点滴の液が流れる、少し冷たい感覚が血管を通っていく。

起きたばかりに感じていた喉のヒリヒリは、気が付いたらもう感じなくなっていた。



end




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