砂の城


話の進展はありません。


「流石SPW財団の最新の医療、って感じだね」

ベッドから上体を起こし、お腹に残る傷痕をなぞるなまえ。
その傷痕は随分と薄くなっていて、ケロイドもない。

「見た目だけなら、もうほとんど元通りだよ」

「そうだね。でも、内臓はまだ完全じゃあないから、無理は禁物だよ」

嬉しそうに笑うなまえの笑顔を壊したくなくて、僕はまた、彼女に嘘を吐く。

「少なくとも、口からご飯が食べられるようになるまでは退院はできないってことくらいは分かるよ」

「確実に回復しているから、もう少し辛抱してくれ」

「はぁい、先生」

自分でこんなことを言うのもなんだけれど、もともと僕は嘘が下手な方じゃあないと思う。
承太郎やなまえたちと出会うまで、周りと一線を引くために、色々と嘘を吐いてきた。
それは苦しくても、辛いと思ったことはなかったのに。

なのに、今は…こんなにも辛い。

傷痕があんなにも薄いのは、最新の医療のおかげなんかじゃあない。

本当は、もう内臓だってほとんど元通りに修復されている。

なまえが次に食べ物を口に入れた時、彼女は絶望することを知っている。

僕が…僕たちが隠している全てのことをなまえが知った時、彼女を呑みこむ悲しみ、怒り、絶望は…恐らく彼女を壊すだろう。

先延ばしにしているだけだということは分かっている。

いつかは壊れる砂の城を、必死になって守り続ける僕たちは、結局彼女を傷つけ続けることしかできないのだ。

あの時から止まってしまった彼女の時を、元通りにすることも、終わらせることすらもできない僕たちでは。



end




- 3/63 -

前ページ/次ページ


一覧へ

トップページへ