ただいま、おかえり


わたしは花京院 なまえ。
わたしには一つ上の兄さんがいる。
名前は花京院 典明。

わたしたち兄妹は別に仲が悪いというわけでもないけれど、別段仲がいいかといわれればそうでもない。

小さい頃は、頭も良くて優しい兄さんが好きだった。
けれど段々大きくなるにつれ、兄さんは周りと距離を置くようになった。
父さんや母さん、わたしに向ける表情さえも、何処か偽物のように感じた。

だからわたしもどう接していいのか分からなくなって、兄さんもあまり干渉しなくなって。

話をしたり、たまにゲームを一緒にやったり出かけたり。
そういうことはしていたけれど、お互いに一歩引いている。
そんな感じ。

そして、家族旅行でエジプトへ行った時、ふらりと姿が見えなくなったと思っていたら、なんだか雰囲気がガラリと変わったような気がした。

「兄さん…どうしたの、怖い顔して」

「別に。何もないさ」

珍しく素っ気なく返された回答に、これ以上聞くなと言われているような気がしたわたしは、「…そう」と返すことしかできなかった。

それから日本へ帰国し、その直後、兄さんが転校したいと言いだした。
兄さんは成績も良い方だったし、素行が悪いという話も聞いたことがなかった。
だからわたしだけじゃなく、両親共に驚いたものだ。

それらしい理由を並べて両親を説得した兄さんは、転校した翌日…姿を消した。

両親は警察に届を出し、捜索するも見つかる気配はなく。
決して口には出さなかったけれど、最悪のことも考えた。

しかし、兄さんが姿を決して1カ月と半月ほどが過ぎた頃だろうか。

「おかえり」

「兄、さん…?!」

学校から帰ったわたしを、何事もなかったかのような笑顔で出迎えたのは…他ならぬ兄さんだった。

一瞬、本気で幽霊かなにかかと思い、足元を確認してしまったほどにわたしは驚いた。

「なんで、兄さん…いつ、なにが…」

「昼過ぎくらいに帰って来たんだ。…心配かけてごめん」

玄関で呆けるわたしの手から鞄を取りつつ、困ったような笑顔でそう告げる兄さん。

その笑顔は偽物でもその場しのぎでもなく、ちゃんと兄さんの“カオ”だと感じた。

まだ混乱しているわたしだけれど、とりあえず兄さんが無事に帰ってきてくれたことが嬉しいという気持ちだけは、間違えようがない。

「おかえり、兄さん。あと、ただいま」

「…うん、ただいま…なまえ」



end


以下、おまけの会話文。


「兄さん、なんだか随分雰囲気変わったね」

「え、そうかい?」

「うん、なんか柔らかくなったよ」

「ああ…そうかもしれないな」

「思い当る節があるんだ?」

「きっと承太郎たちのおかげだ」

「じょうたろう?」

「大切な…友達さ」

「そっか…。いい人なんだね」

「ああ。強いし背も高いし、頭も切れるヤツだよ」

「へえ。わたしも会ってみたいな、承太郎さんに」

「承太郎は倍率高いぞ。異様にモテるから」

「いやぁ、別にそういうつもりじゃあないから大丈夫だと思う」

「ふふっ、どうかな?」




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