燭台切の秘密事


◇名前変換なし。


今でこそ本丸のくりやは僕や歌仙くんが主に取り仕切っているけれど、少し前…まだ刀剣男士の数が両手の指で足りてしまう程だった頃は、主がこのくりやをまとめてくれていた。

僕は元の主である伊達 政宗公が料理に凝っていたこともあり、興味もあったしほんの少しだけれど知識があった。
けれどそこには大きく欠けていることがひとつ。

味というものが分からなかったんだ。

当たり前といえば当たり前のことだ。だって僕たちは刀だったんだからね。
主にこの肉の器を与えられて初めて、僕らに“食事”という概念が生まれた。

「燭台切、味見してくれる?」

主はそう言ってよく僕に味見をさせてくれた。
『美味しい』とか『不味い』とか。そういうものがいまいちよく分からなかった僕に、主は「しょっぱい?」、「甘い?」と、率直に感じたことを言うように促してくれたっけ。
そうして少しずつ、主は僕が好む味を模索してくれて、それが『美味しい』ってことなんだと教えてくれた。

今では僕が、新しい仲間たちにそれを教えてあげる立場になった。
僕の作った料理を皆が喜んで食べてくれるのは嬉しい。

でも、僕にとって一番美味しかった料理は、主が作ってくれた料理。

これは他の皆には内緒なんだ。
だって、羨ましがっちゃうでしょ。

主を困らせるのは恰好良くない…なんてね。
多分これは独占欲というものなんだろうけれど、それこそ恰好良くない気がするから、絶対に秘密。

「さあ、夕餉の支度に取り掛かろうか」




- 36/65 -

前ページ/次ページ


一覧へ

トップページへ