燭台切の秘密事
◇名前変換なし。
今でこそ本丸の
厨は僕や歌仙くんが主に取り仕切っているけれど、少し前…まだ刀剣男士の数が両手の指で足りてしまう程だった頃は、主がこの
厨をまとめてくれていた。
僕は元の主である伊達 政宗公が料理に凝っていたこともあり、興味もあったしほんの少しだけれど知識があった。
けれどそこには大きく欠けていることがひとつ。
味というものが分からなかったんだ。
当たり前といえば当たり前のことだ。だって僕たちは刀だったんだからね。
主にこの肉の器を与えられて初めて、僕らに“食事”という概念が生まれた。
「燭台切、味見してくれる?」
主はそう言ってよく僕に味見をさせてくれた。
『美味しい』とか『不味い』とか。そういうものがいまいちよく分からなかった僕に、主は「しょっぱい?」、「甘い?」と、率直に感じたことを言うように促してくれたっけ。
そうして少しずつ、主は僕が好む味を模索してくれて、それが『美味しい』ってことなんだと教えてくれた。
今では僕が、新しい仲間たちにそれを教えてあげる立場になった。
僕の作った料理を皆が喜んで食べてくれるのは嬉しい。
でも、僕にとって一番美味しかった料理は、主が作ってくれた料理。
これは他の皆には内緒なんだ。
だって、羨ましがっちゃうでしょ。
主を困らせるのは恰好良くない…なんてね。
多分これは独占欲というものなんだろうけれど、それこそ恰好良くない気がするから、絶対に秘密。
「さあ、夕餉の支度に取り掛かろうか」
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