臣人の誕生日を盛大に祝ってあげたい


◇魁より数年後。伊達幼少(孤戮闘こりくとう)時代の妄想がちょっと入っています。


「だいぶ色々落ち着いてきたし、今年は何処か行こうか」

男塾を卒業してほんの数年した頃。
こちとらたいして落ち着いてもいねぇってのに、なまえのやつは呑気にいくつもの冊子を並べて見せた。

なんだ、これは。そう言葉にするより前に、なまえは俺の顔を見て理解したらしい。

「臣人の誕生日、せっかく連休中だしさ。たまには盛大に祝わせてもらおうかと。…どう?」

ズイ、と俺の方へ押し出される冊子はどれも色鮮やかで、節操なしかと言いたくなるほどに日本全国津々浦々の景色が印刷されている。

「…ガキじゃあるめぇし、そんなもんいちいち祝ってもらわんでもいいんだがな」

ガキの頃の方が余程縁のねぇ話だったが。まぁ、それはこいつが知らなくていいことだ。

「誕生日っていうのはねぇ、祝ってもらうものじゃなくて祝われるものなのだよ臣人くん」

「フン、最もらしいこと言うじゃねぇか」

「臣人が言いそうなことくらいそろそろ予測できるよ、わたしだって」

してやったりと言いたげに笑うなまえが幼稚に見えて、つられるように思わず小さく笑いが漏れる。

「ほらほら。たまには地方行ってゆっくりするのもいいと思うんだよ。やっぱり温泉とか…あ、」

「…?」

「あー…、魚。新鮮な魚料理とかね、やっぱいいよね」

あれやこれやとページを捲る手が止まり、一瞬、途切れたなまえの声。

すぐに逸らされた視線の先が分からねぇほど、俺も鈍っちゃいない。

「いいんじゃねぇか、温泉」

「…でも、臣人が入れないんじゃ意味ないよ」

「なんだ?混浴をご所望だったか?」

「違ッ!そういうことじゃなくて!…臣人の誕生日祝いなのに主賓がメイン楽しめないんじゃ意味ないでしょ」

「別に、構いやしねぇよ。だから俺に気を遣う必要はねぇ」

普段は見えぬようにしている左手首の刺青。その経緯をなまえは詳しく知るわけではない。
…だが、それでもこれがあまりいい代物ではないと…薄々勘づいているのだろう。
だから極力触れないのだ。この刺青について。

「…臣人が構わなくても、わたしが構うの」

「面倒な女だな、お前は」

「相変わらず辛辣だなぁ…」

なまえが苦笑を浮かべる。恐らく、俺も同じような顔をしている。

男塾で苦楽を共にしたあいつらが見たらどんな顔をするだろう。
長年生死の狭間を共に潜り抜けた腹心たちは。
そして、感情も何も谷底へ落としたようなあの頃の俺は。

「そこまで言うなら客室に露天かなんかがあるところを探せ」

「う…っ、そうなると旅費が…でも、…うーん…」

「手っ取り早く家の風呂で手を打ちゃいい。二人で入るにはちと狭いがな」

「だ、ッから一緒に入りたいとかそういうんじゃないし!ちと狭いどころかみっちりになるし!…もう!」

冊子を両手で握り唸るなまえの目に、片肘着いて対面する俺はどう映っているだろうか。

自分がゆっくりと変わっていく感覚は、まぁ、悪くねぇと思える。




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