吉良 吉影はずっと後悔している


◇病んでるっていうか通常運転っていうか…。なまえさん不在。ずっと不在。


私は、自分のこの趣味…いや、もはや性癖というべきか。これを自覚した時、別段おかしなことだとは思わなかった。
それは世の中にまったく同じ人間など存在するわけがないのだから、自分が少し他人と変わった趣味嗜好であったとしても、それはむしろ自然なことだとさえ考えたからだ。

…けれど、それでもやはり他人と比べて異質であることは理解できた。

人間は、異質なものを排除しようとする。臆病でエゴに塗れたその行動パターンは、国も時代も関係なく、未来永劫引き続いていく風習だろう。
大きな絶望も、逆に大きな幸せもない、波のない穏やかな生活を望む私は、だから誰にも悟られないようにしなければならないと思った。


高校のある時、隣の席が女子になったことがある。
別にそんなに珍しいことじゃあないが、クラスの男女比率からして、隣は男になることが多かった。

「暫くよろしくね、吉良くん」

彼女はみょうじといった。
基本人の顔も名前もさして興味がないので、どうでもいい人間の名などすぐに忘れてしまう私だが、彼女の名は今でも覚えている。

私が初めて自分の性癖を『知られたくない』と思った人間だったからだ。

みょうじはそこそこの頭脳とそこそこの運動神経を持ち、クラス内ではそこそこの人望がある奴だった。
だから、もしこの私のことを彼女が知って、嫌悪し罵倒したならば、クラス内で私は目立つ存在となってしまう。それは少々面倒なことだし、私が理想とする生き方に反するからだ。

そう思い込もうとしていたんだ、私は。

だから避けた。みょうじと親しくなることを避けたのさ。
親しい友人も、恋人も。そんな人間関係は煩わしいだけの枷だ。私には余計なものだ…とね。

「あの時のことは今も後悔しているんだよ、みょうじ。おかげで、キミが毎日欠かさずに塗っていたハンドクリームの銘柄を訊きそびれてしまった」

彼女が眠る墓の前に、去年のものとはまた違うハンドクリームを置く。
ああ、彼女の手も美しかった。爪が小さくてマニキュアが似合わないのだと落ち込んでいた。
私はそれも魅力だと思っていたし、もっと淡い色なら似合うんじゃあないかと密かに思っていたものだ。

一体、どこの誰に殺されたのか。

「私が先にキミを殺していれば…と、本当に後悔しているんだ」



一番知られたくなかった相手は一番殺したかった相手だったなんて滑稽な話。






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