リゾットさんと二人きり


◇平和時空。


リゾットさんと二人きりの室内に響くのは、組織から送られてきた資料をめくったり束ねたりする紙が擦れる音と、パソコンのキーボードを叩く音。
とても静かな空間だ。

このアジトにチームメンバーが一同に揃う時といえば、報酬の取り分について話をする時くらいのものだけれど、しかしたった二人だけというのも珍しい。

「(気まずい…)」

ソファに座り、いくつかの資料を広げてはみているものの、正直あまり情報は頭にインプットできていない。

つい、机の上に鎮座するパソコンに視線を落とす彼…リゾットさんの方をちらちらと見てしまう。

公私混同と言われてしまうとぐうの音も出ないのだが、ほんの数日前に積もりに積もった想いを告げ、そしてそれを受け入れてくれた相手と二人きり。
そんな状況で落ち着いて仕事ができるほど、わたしは大人ではない。
…なんて、そんなことを言ったら呆れられてしまいそうだから絶対に言わないし、集中して仕事をしているリゾットさんの邪魔をするようなこともしたくない。

ただわたしが悶々としているから、この仕事にはうってつけの静けさが気まずいと感じるのだ。

ここではリーダーとチームメンバー。そう何十回何百回と言い聞かせて、せめてもう一人誰か来てくれないだろうかとひっそり願っている。

「なまえ」

「っはい!なんでしょうかリ、」

リーダー。と続くはずだった言葉は、声にはならなかった。
…否、声は出ていた気がする。言葉として発せられなかった、というのが正しいだろうか。

ギィ、と椅子が軋む音と、わたしを呼ぶ声がしたのはほとんど同時だった。
弾かれるように振り向くと、思いの外ずっと近くに彼は立っていた。
白と黒のストライプが目に入った瞬間には、大きな手が頬から顎へ滑っていて、そのまま上を向くように誘導されていた。

目を閉じる暇なんかなくて、ただ自分の唇に重なる柔らかさを感じること。そして、夜に浮かんだ赤い月のような瞳をまじまじと至近距離で見つめることしかできなかった。

「少し出てくる」

背中を丸めて屈んだ姿勢のままそう言われて、わたしは言葉の意味も理解できずに「はい」とだけ絞り出した。

ようやく言葉を飲み込めたのは、リゾットさんがわたしの頭をひと撫でして玄関へ向かい、パタリと玄関の扉が閉まる音を聞いてからだった。

「…行ってきますのキス、だったのかな…」

ぽつりと一人になった部屋で呟いた言葉が妙に恥ずかしくて、転げ回りたい気持ちになる。
…ああ、やっぱり誰もいなくてよかった。




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