大学生白石くんとゴミ出しで出会う
「んんー…っ、…はぁ〜…」
快晴の土曜日。いつもの休日よりも少しだけ早く目覚めた、そんな朝。
カーテンを開けて朝日を浴びて。誰の目も気にすることなく大きく伸びをする。
大学に行くことになり始めた一人暮らしは、最初こそ戸惑ったものの、一ヶ月近くが過ぎようとしている今となってはなかなかに快適なものだ。
「よし、先にゴミ出ししちゃうかぁ」
カーテンを開いた窓からちらりと見えたゴミ置き場。既にいくつかのゴミ袋がぽつぽつと置かれている。
土曜日だから…今日は燃えるゴミの日。
頭の中にインプットされた“ゴミ出しスケジュール”を思い出しながら着替え、歯と顔を洗ってゴミを纏めていく。
一人暮らしだからそんなに沢山のゴミがあるわけではないけれど、やっぱり生ゴミとかも少ないながらもあるから、週に二回ある燃えるゴミの日は要チェックなのだ。
「よし!」
ぎゅっ!とゴミ袋の口を縛り、いつもの土曜日よりも少し早めのゴミ出しへ。
階段を降り、建物に沿って角を曲がる。
どんっ。
「わっ、」
「お…っと!」
前へ進もうとする足に逆らい、身体が何かにその動きを妨げられた。いや、正しくは遮られたというべきなんだろうか。
…端的に言うと、つまりぶつかった。
曲がり角でぶつかるとか…一昔前の少女漫画(出会い編)みたいでなんか恥ずかしい。…とか思っている場合じゃないな。うん。
「すみません、ありがとうございます」
「いえいえ。角やから仕方ないですよって。こちらこそすみません」
「…あれ?貴方は…」
蹈鞴を踏んでしまったわたしの背中に素早く手を回して支えてくれた、“ぶつかってしまった相手”。どっかで見たことあるような…。いやしかし…こんな爽やかイケメンさん…わたしの知り合いにはいないはずなんだけど…?
「あ、俺、白石 蔵ノ介いいます。…みょうじさん、で合っとるかな?」
「え、は、はい。みょうじ なまえです。えぇっと…」
“ぶつかってしまった相手”改め白石さん。なんでわたしの名前を知ってるんだろうか。もしかして見たことあるとかいうレベルじゃないのではなかろうか。
え、それで思い出せないとかわたしの記憶中枢危ない?しかもこんなイケメン。ていうか…それってめちゃくちゃ失礼だよ!だって向こうはわたしの名前覚えてるのに、わたしは“見たことある”って認識しかないんだもの…!
思い出せー思い出せー思い出せー!
「俺、みょうじさんといくつか授業被ってんねんで」
頭の中にある引き出しを片っ端からひっくり返していると、くすっ、なんてこれまたかっこよく笑われてしまった。
授業?て、大学のってことだよね…。
「…あっ!」
「思い出せた?」
「この間の…生物生態の実験の!」
「それや!」
与えられたヒント。それでようやく思い出した。
彼は二週間程前…生物生態の授業で実験のパートナーになったことのある人だ。
…にしても、色々忙しかったとはいえ…たかだか二週間前のことをするっと忘れているとは…。わたしの記憶中枢大丈夫か。
「みょうじさんも同じマンションやったんやなあ」
「えっ、白石くんもこのマンションに住んでるの?」
「俺は102号室」
「うそ、わたし…その真上だよ」
「そうなん?なんや奇遇やな」
「ふふっ、そうだね」
白石くんは大阪の人だからなのか、とても気さくで面白い人だった。加えてあの顔立ちと爽やかさ。もうイケメンとしか言い様がないとわたしは思う。
結構な時間曲がり角で雑談をしてしまい…結局、少し早いゴミ出しは少し遅いゴミ出しになってしまったのだけれど。
「白石くん…かぁ」
呟いて、携帯のアドレス帳に増えた彼の名前を確認する。
なんだかドキドキと胸が鳴り響いているような気がするけれど、果たしてこれは一昔前の少女漫画“(出会い編)”から…“(片思い編)”へと物語が進行したということなのだろうか。
大学生活は、まだ始まったばかりである。
end
- 1/76 -
前ページ/次ページ
一覧へ
トップページへ